令和3(2021)年度 日本語指導助手レポート 「日本語」で ひろがる、つながる おもしろさ   

ソウル日本文化センター
兼行 めぐみ

韓国は、日本語学習者数約53万人(1)と世界で3番目に日本語学習者が多く、日本語教育が盛んな国です。中学校・高校の第二外国語として、日本への留学や就職を目指して、趣味や家族とのつながりのためなど、様々な場所・目的で日本語が学ばれています。韓国で生活をしていると、これまで日本語を勉強したことがあるという方に出会うことも少なくありません。そんな韓国に2020年1月に赴任し、この約1年間で「日本語」を通して出会った学習者や先生方との活動の一部をご紹介します。

「日本語への想い」でつながる受講生

日本語指導助手(以下、指導助手)の主な業務に、ソウル日本文化センター(以下、JFソウル)が一般成人学習者を対象に行っている日本語講座の運営補佐と授業担当があります。2019年度まではJFソウルの教室で授業が行われていましたが、2020年度からは、新型コロナウイルスの影響で、オンラインに切り替えて行われています。

2020年度、指導助手は『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使用した授業を3クラス担当しました。JFソウルでの初授業、そして人生初のオンライン授業に期待と緊張の中、開講の日を迎えました。そして、初日の授業、開講を待ちわびていた受講生たちの少し緊張しながらもやる気に満ち溢れた表情を今でも覚えています。オンラインであっても画面越しに、日本語を勉強したいという気持ち、日本語学習への情熱がひしひしと伝わってきました。

受講生の中には、日本語を学ぶためだけでなく、「日本語」という共通の興味・関心を通して、仲間と出会い交流することを楽しみにしている人が多いように感じます。そのため、直接会えないオンライン授業であっても、受講生同士のつながりが少しでも感じられるようにすることを意識して授業を行いました。

ソウル(韓国)での日本語講座のオンライン授業の様子の写真
日本語講座のオンライン授業の様子

受講生同士のつながりを感じてもらうために、毎回の授業の中で、トピックに関する受講生自身の経験や考えを共有し、受講生同士がお互いを知る時間を多く取るようにしました。クラスには、年齢や職業、興味も異なる多様な受講生たちが集まっているので、毎回、新たな発見があります。例えば、「マンガ」のトピックでは、マンガにいいイメージを持っていなかった受講生が、マンガが大好きな受講生の話を聞いてマンガに興味を持ったり、「祭り」のトピックでは、韓国には祭りがあまりないと言っていた受講生が、他の受講生の経験を聞いたあと自分で韓国の祭りについて調べ、韓国の祭り文化を再発見したということもありました。約3か月のコースが終わるときには、受講生から「最初はオンライン授業が不安だったが、クラスのみなさんと親しくなれて最後まで頑張れた」というコメントもあり、オンラインでも受講生同士がつながり、学び合うことを感じてもらうことができたのではないかと思います。

「日本語を学ぶ子どもたちへの想い」でつながる先生

JFソウルでは、中学校・高校の先生を対象にした「冬季中等日本語教師集中研修」を毎年行っています。2020年度はオンラインで行われ、指導助手も運営の補佐や講義を担当しました。教師研修に関わるのは初めてだったので、研修前は、どんな先生方が参加されるのだろうと緊張していました。しかし、研修が始まるとすぐに、とても熱心に学ぶ先生方の姿を見て、5日間という貴重な時間の中で私も先生方と共に考え学びたいという気持ちになりました。

この研修で、指導助手は2つの講義を担当しました。「課題遂行型の授業」を体験する『まるごと』を使った授業と、中学生・高校生のためのクラス活動アイデア「方言(関西弁)」の授業です。この2つの授業では、先生方に学習者・生徒の立場になって授業を体験してもらいました。研修のキーワードである「課題遂行型」の授業や、「文化とことばを切り離さずに学ぶ」授業を体験してもらいながら、授業デザインや教師の役割など、いろいろなことに気づいてもらうことが目的でした。

韓国語版教材『まるごと』の中級1と2レベルの教科書の写真
韓国語版『まるごと』中級1、2

研修では、日本語専門家(以下、専門家)や現地講師とともに、研修目標に向かって一つひとつの講義をつないでいきます。そのなかで、そのリレーバトンを私がどう引き継ぎ、次の人につなげられるか、そして、どう表現すれば参加者の気づきのきっかけを作れるかなど、様々なことを考えながら準備をし、授業を行いました。専門家や現地講師の指導とサポートのおかげもあり、研修後、参加者から「課題遂行型の授業の流れが理解できた」、「これからの授業の参考になりそう」などの反応をいただくことができました。

この研修で、日本語を学ぶ子どもたちに対する先生方の熱い想いに触れ、また、短期間でも学び合い変わっていく姿を見て、日本語教師の仕事の魅力を改めて感じる機会となりました。

日本語を学ぶこと、教えること

この1年の活動の中で、日本語を学ぶことや、教えることのおもしろさを感じることが多くありました。外国語を学ぶことで、これまでの自分とは違う新しい考えや価値観に触れ、視野が広がり、自分の世界が広がっていきます。そしてことばを通して新しい世界や人とつながるおもしろさがあります。私自身は、そんな外国語を学ぶことのおもしろさを伝えられる日本語教師になりたいと思っています。残り1年の任期でさらに学び、そしてその学びを日本語を学ぶ人々へと還元していけるよう努めていきたいと思います。

注(1)国際交流基金 2018年度海外日本語教育機関調査

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