令和3(2021)年度 日本語指導助手レポート コロナ禍のフランス:オンラインを通して感じたあたたかさ

パリ日本文化会館
杉本 沙奈絵

パリ日本文化会館からの眺めの写真
会館からの眺め

私が2020年9月より派遣されているパリ日本文化会館(以下、会館)は、全面ガラス張りの近代的な建物で、真横にエッフェル塔、正面にセーヌ川が臨めるという恵まれた立地にあります。1997年の開館以来、展示、公演、映画、文化体験教室、そして日本語事業など、様々な分野を通して日本の魅力をフランスに発信しています。

私が日本語指導助手(以下、指導助手)として所属している日本語事業部は、会館日本語講座をはじめ、日本語教育に関する研修や教師支援、日本語学習者を対象にしたイベントなどを行っています。私が着任してからは、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響でほとんどの事業が従来どおりの形では実施できていませんが、オンラインを最大限活用し、また支援の形を変えて継続しています。赴任から半年経過した現在、フランス日本語教育現場のオンライン化について感じていることを紹介したいと思います。

教師研修を通して

着任した9月から現在(2021年3月)まで「オンライン日本語教師研修会」を毎月実施しており、私は研修前の準備、研修時のテクニカルサポートなどを担当しています。この研修は2020年3月、ロックダウンにより突然オンライン授業に切り替わった際、現場の先生方がスムーズに授業を行えるよう始まったサポート講座を引き継いだものです。9月からは、フランスをはじめ主にヨーロッパ在住の先生方を対象にオンラインツールの紹介や実践報告などを行っています。

参加される先生方は所属機関も対象の学習者も様々ですが、授業への情熱と学習者への愛情は共通です。オンラインで対面授業に劣らず分かりやすい授業をするにはどうすればいいか、どんな場面でどのツールを使えば効果的かなど、常に前向きに模索されている姿に刺激を受け、私自身も授業の中でどんな工夫ができるか考える機会になっています。

参加者の先生方を通して、フランスの中学校、高校、また補習校の様子をわずかながら感じ取ることができるのも有難い部分です。従来、指導助手は学校訪問や「全仏高校生日本語プレゼンテーション大会」という一大イベントを通して、現場の先生や中等教育機関の学習者に接する機会があり、着任前から私はそういった機会を心から楽しみにしていました。しかし、コロナ禍でどれもかなわずもどかしさを抱えていたところ、研修の中で伺う先生方のお話から、本当に少しずつですが現場の雰囲気や学習者の様子をイメージすることができるようになってきました。そのおかげで、一人一人の先生の向こうには日本語に興味のある学習者がたくさんいるということを改めて認識し、この研修が先生方だけでなく学習者のサポートにもなっているのかもしれないと、前向きな気持ちになることができました。

学習者を通して

2020年9月から担当していた会館講座が2月に学期を終えました。今回担当したのは全員ゼロから日本語を学習する入門クラスでした。私にとっては初めての間接法(学習者の母語や媒介語を使用して日本語を教える方法)、その上まだまだ慣れないオンライン授業ということで、何から何まで手探り状態でした。そんな中、一番心配だったのはオンラインでどうすればクラスの雰囲気づくりができるのかという点でした。対面であれば、授業前後や休み時間のおしゃべり、授業内での協同作業などを通して関係性が築けるところ、オンラインではどうなるのか見当がつきませんでした。しかし不思議なことに、毎週顔を合わせるうち、なんとなく学習者同士お互いの個性や特徴を理解しあい、また何かと手際が悪い私へも愛想を尽かすことなく親しみをもって接してくれるようになり、一人一人の距離が近くなっていく過程を身をもって実感できました。

指導助手が行ったオンライン授業の様子の写真
オンライン授業の様子

クラスの雰囲気づくりに何が功を奏したのかはいまのところ分かりません。ただ、対面授業が恋しくてオンラインに抵抗があった私が「オンラインも悪くないかな?」と思えた大きな変化でした。学習者の日本語が上達していく様子を見られる喜びや毎週会えてうれしいという気持ちは、たとえ画面越しであっても日本語教師にとってはかけがえのないものだということを、このクラスから教えてもらいました。

日本とフランスを通して

赴任前、私は日本の日本語学校で留学生に日本語を教えていました。今はこの国で「外国人」として働き、日本語を楽しみながら学びたいという人に授業をしています。同じ「日本語教師」であっても、住む国や立場が変わることで日本語教育のニーズや教師に求められることなど、自分の中で新たな考え方が芽生えています。「何もかもオンラインになった」とは言っても、やはり任国に来たからこそ経験できていることは既に数え切れないくらいあります。私にとってコロナ禍の赴任は決してネガティブなものではなく、何に挑戦できるかを探し続けられる冒険のような日々です。残り1年半の任期でどんな発見があるかワクワクしています。

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