画面の向こうを想像しながら

ベトナム日本文化交流センター
久保 亜樹

私の日本語指導助手(以下、指導助手)としての主な業務はベトナム北部地域の中等日本語教育支援ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、あらゆる事業が中止またはオンライン開催になっています。2022年2月現在、中等日本語教育の教師や生徒のみなさんとはまだオンラインでしか会うことができていませんが、限られた環境でもできることを日々模索しています。この報告では、その業務の一部をご紹介します。

一人ひとりの教師と向き合う

ハノイやハイフォンを中心とした北部地域では、日本語教育を実施する中等教育機関の増加に伴い、日本語教師数も急増しています。また、複数の学校の授業を掛け持ちで担当している教師が多く、年度または学期ごとに担当校や授業数が変わることも珍しくありません。そのため、北部地域の中等日本語教育の全体像を把握するのに時間がかかりました。

新学期になり、日本語の授業が各校で開始され、ようやく状況がつかめてきましたが、オンライン授業という壁が立ちはだかります。これまでなら、学校を訪問して授業を見学し、教師や生徒の様子を間近に観察したうえで、授業についての悩みを聞いたり、アドバイスをしたりすることができました。しかし、私が着任してからはオンライン授業の見学しかできないため、生徒の様子も分かりづらく、教師との距離を縮めにくい状況が続きました。ただ、これまでの指導助手が支援を通じて関係性を築いてきた教師から「この日本語がわからないのですが……」「漢字の良い教材はありませんか。」などと質問や相談を受けることが多く、一人ひとりに対する支援の積み重ねの大切さを実感しました。また、オンライン授業を見学して良かったところを伝えたときに教師のほっとした笑顔が見られたり、ハノイから離れた地域で対面授業を続ける教師に「ほかの先生と知り合いになれるし、私たちも会いたい」と連絡をしたところ、オンラインの教師研修に参加してもらえたりしたことから、オンラインでも一歩ずつ前進できるのだと感じています。

高校生のオンライン授業の様子の写真
高校生のオンライン授業の様子

中学生・高校生日本語ビデオコンテスト

指導助手の業務の中には、日本語学習者を対象とした事業も含まれています。その一つに「ベトナム中学生日本語キャンプ」がありますが、2020年と2021年は中止となりました。そこで、2021年にはベトナム日本文化交流センターと公益財団法人かめのり財団の共催で、ベトナム全国の中学生・高校生を対象とした「中学生・高校生日本語ビデオコンテスト」を実施しました。

このコンテストは、家の中で取り組めるよう、中学生部門は「私の大切な物」、高校生部門は「好きな本」というテーマを設定し、自ら日本語で話して作成したビデオ作品を募集したもので、259作品の応募がありました。日本語を話すだけではなく、内容が伝わりやすくなるように絵を描いたり、ビデオの編集を工夫したり、大切な物であるピアノの演奏を披露したりするなど、日頃の学習成果、発想力、IT技術力が発揮された作品が揃いました。3回の審査を経て、両部門を合わせて入賞作品を16本選出し、オンラインで各賞の発表と表彰を行いました。入賞作品はベトナム日本文化交流センターのウェブサイトからご覧いただけます。

着任してすぐにこのコンテストの運営に加わり、ベトナム全国の中学生・高校生の日本語学習に対する姿勢を垣間見ることができたこと、表彰式の際に受賞者の日本語による堂々としたコメントを聞くことができたことは、私にとって大変貴重で有意義なことであり、これから携わる中等日本語教育支援への期待が高まりました。

オンライン表彰式の高校生部門第1位発表の瞬間の写真
オンライン表彰式の高校生部門第1位発表の瞬間

今度は生徒同士が協力しながら日本語を使って表現できる機会を作ることができれば、より多くの生徒の学びにつながるのではないか、日本語は楽しいと思ってもらえるのではないかと想像が膨らみます。

このように、パソコン画面を通してでも教師や生徒の日本語教育・日本語学習に対する様々な思いが伝わってきます。問題は一足飛びに解決できるものではありませんが、背景にあるベトナムの教育政策や社会における日本語教育の捉えられ方、日本語教師の立場を知る努力を続けるとともに、一人ひとりに寄り添い、ともに今できることを考えていけるよう、残りの任期も励みたいと思います。

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