世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 文化紹介と卒業論文と学生と

アインシャムス大学
久野 元・愛木 佳代

文化紹介は突然に

4月24日にアインシャムス大学で日本文化紹介が行われました。これは外国語学部の要望により、外国語学部の他学科向けに行われたものです。他学科が一体どれだけ日本の文化紹介に興味を示すのだろうと疑いの気持ちをもちつつ、準備を始めたのは開催日の1ヵ月前のことでした。  

1ヵ月といっても、そのうち約10日間はイースターに伴うお休みがあり、実際は3週間もありませんでした。しかも主力になりそうな4年生は、5月10日に卒業論文の締め切りを控えていました。とても文化紹介の準備をする時間などないと判断した我々は、本格的な文化紹介は次年度にし、今年度は日本映画の上映などでお茶を濁そうと考えていました。しかし、4年生はそれをよしとせず、卒業する日本語学科のために何かやりたいと言ってくれました。そしてその言葉に違わず、すぐに文化紹介の内容を考え、ポスターを作り、毎日下級生を集めて歌の練習をさせ、と驚くべき行動力で準備を進めていきました。我々講師陣がしたことといえば、小道具を揃えた程度です。いろいろな事情が重なり、会場を確認できたのは前日となり、リハーサルも当日の朝までできませんでした。しかし、時間がないことや思い通りにいかないことが学生たちの団結をより強くしたようです。

当日は、日本の歌を合唱し、留学した学生たちが日本での文化生活体験について会場を巻き込んで、面白おかしく語りました。また国際交流基金カイロ日本文化センターの協力により折り紙講座を実施することもできました。会場前の廊下には、日本の世界遺産の写真パネルを飾り、生け花の展示も行いました。そして延べ300人以上の学生が訪れ、文化紹介は大盛況のうちに終わりました。参加した多くの学生たちが日本文化に触れ、日本を知る機会になったことは言うまでもありませんが、「本当に楽しかった」、「次回もまた参加したい」と言ってくれ、興奮気味に会場をあとにする学生達の姿が何よりも印象的でした。

たった3週間という時間の中で企画から準備、実施まで、全てを学生だけで作り上げた今回のイベントを通して、学生だけでなく我々講師が学んだことはとても大きかったと思います。4年生の姿を見た下級生が次年度はもっと素晴らしい文化紹介を企画してくれるものと期待しています。

コーラスの写真
コーラス

折り紙講座の写真
折り紙講座

卒業論文は予定どおりに

文化紹介の日から2週間後、卒業論文が提出されました。

卒業論文を書くことを見据えて、「論文」に関する指導や準備を早い段階から行うようになった最初の学年の論文です。執筆中は、論文の書き方を学んでいるだけではわからなかったことが次々と起こり、その度に指導教官に相談し、指示を仰ぎ、時には一人で考え、悩むということの繰り返しだったようです。しかしその甲斐あって、提出された論文は、いずれも論文という形式に則り、研究背景や目的をしっかりと持ち、学生それぞれの手法で調査、検証を行った結果がしっかりと形になっていました。

デモなどの影響で大学に行くことが難しくなり、締め切り間際はインターネットのメールやチャットを使用した指導が主となりました。しかし、それが功を奏して、指導教官と頻繁に連絡を取り合うようになったり、会話にあまり自信のなかった学生がメールやチャットという文字として残る指導が受けられるようになったことから理解が深まったりと、今後の指導方法の参考になるような結果を得ることができました。

テスト期間中ではありますが、6月中旬には、3年生と4年生有志による「卒業論文相談会」が行われる予定です。いい論文を書いたわけでもないのに3年生の質問に答えるなんて、と躊躇していた4年生ですが、そういう思いもまた3年生には参考になるのだから、ぜひ!とお願いしました。4年生がそれぞれの経験をもとに、講師では指導できない部分を3年生に伝えてくれることを期待しています。そしてまた3年生は、先輩の経験を踏まえて、自分なりの論文を完成させてくれればと願っています。 

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