世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 専門家派遣が再開されました

テヘラン大学
須藤展啓

「悠久のペルシャの風に心をゆだね云々…」という書き出しだと「海外生活ブログではないので…」と言われそうで、どうしたものかなと思っています。

「悠久の」とはいかないまでもイランにおける日本語教育は歴史の積み重ねがされてきており、1989年にテヘラン大学で第二外国語として始まったのを皮切りに、1994年に同大学にて日本語日本文学科設立、2008年に同大学で修士課程での日本語教育専攻が開設、2012年からは日本語能力試験(以下JLPT)が実施され、現在に至ります。国際交流基金からイランへの日本語専門家派遣は2009年以来、8年ぶりに派遣が再開されました。今の自分と今のイランの関係者の皆さんとで何ができて何ができないのか、何があって何がないのか、日々手探りの毎日です。

私が所属しているテヘラン大学外国語・外国文学部日本語・日本文学科では今年度から9学期制から8学期制に変更したことに伴いカリキュラムの変更が行われ、教材も一部変更されました。学期が少なくなる中で、いかに日本語の到達目標を下げないか、同僚の先生方と日々相談しています。

集合写真 詳細は以下
1年生の集合写真。

学部生の卒業時の到達目標の目安の一つとして使われているのはJLPTです。この試験がイランになかった時代も目安となっていたそうですが、今では実際に受験して測れる(測れてしまう?)ようになりました。もっとも受験は強制ではないので受験しない学生もいますが「自分の能力が測れる機会がある」というのは、学習継続のためには大事なことです。そしてそのような環境で勉強を続け、中には大学院へ進学する学生もいます。

前述の通りテヘラン大学大学院の日本語教育専攻は2008年から始まり、以後優秀な修了生を輩出しています。その修了生が同大学の一般向け日本語公開講座の教師になるなどして、当地の日本語教育の発展に貢献しています。

公開講座では、約120名の方が日本語を勉強しています。年齢層も動機も様々で、中高年の方の中には「昔、日本に住んでいたので日本語を続けたい」という人もいます。また若い方は「大学では理数系の専攻だけど、いつか日本に留学したい」「アニメや漫画が好きで」などという方もいます。多様な日本語学習者が参加できる成果発表の場として前述のJLPTや、イラン日本語弁論大会があります。

2018年2月に行われた第20回イラン日本語弁論大会には初級部門・上級部門合わせて15名の学習者が参加しました。個人学習者・公開講座受講者・テヘラン大学の日本語専攻学生が主な参加者となり、会場の在イラン日本国大使館には100名以上の観客が集まりました。観客の多くがイランの方で、注目度の高さが窺えました。

弁論大会の写真 詳細は以下
弁論大会の様子。100名以上の観客が集まりました。

このようにイランの日本語教育は着実に進んでおり、それはひとえに当地の日本語教育関係者の皆様の努力の賜物です。ここにさらに教師が学び合う機会ができ、テヘラン大学以外でも日本語が学べる環境が増えれば、当地の日本語教育環境はさらに発展するのではないかと考えています。「日本語教育 国・地域別情報」を見るとイランは機関数も学習者数もやや控えめな数字です。

既存の形に加え、内外にも繋がりを作ることが重要だと思います。このようなことは常日頃テヘラン大学の同僚や大使館広報文化担当の方々とは意見交換・情報共有を行っています。

テヘラン大学の先生方はみなさんとても優秀かつ向上心があり、それゆえに「自分たちの教え方でいいのかどうか分からない」という健全な不安も持っています。イランは国交上、中東の日本語教育ネットワークへの参加が難しいという側面があり、インターネット環境も不安定なためオンライン研修も難しい状況です。そこでまずはテヘラン大学教師同士の勉強会を始めました。他国の現状や教え方の授業上の疑問点の共有をしています。闊達なやりとりが行われています。

「やりとり」といえば、現在イランでは、スマホでのやりとりに「Telegram」というLINEのようなショートメッセージアプリが日常的に使われており、その中に日本語・日本文化に関する個人チャンネルがありその登録者数は2018年4月現在約3000人、これは一例にすぎませんが、日本や日本語に関心がある層が少なくないことが窺えます。このチャンネル運営者はテヘラン大学の日本語教育専攻の大学院生で、このようなインフルエンサーが自発的に行っている情報発信を陰ながら支援することも大事かと思います。

赴任して半年、他にも日本語劇、日本人学生との交流、日本大使館での書道ワークショップ、学内での日本語ニューズレターの発行など色々ありましたが、別の機会や別の媒体で紹介できればと思います。

日本語・日本文化のみならず、何かを教えるという行為自体が人に影響を与えることに他ならず、その適切さとは何か、というような根源的なことを考えさせられる日々です。考えてもわからない部分は悠久のペルシャの風にゆだね、この国の日本語教育がさらに発展するよう、そしてそれが日本のみなさんにもっと伝わるよう、頑張りたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 テヘラン大学
Universty of Tehran
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
イラン・イスラム共和国唯一の日本語主専攻コース。学生は全国各地から集まっており、かなり質の高い学生が多く見受けられる。2008年より大学院修士課程での日本語教育が始まり、修了者は同大学公開講座などで日本語を教えている。日本語教育専門家の主な業務は日常の授業を担当するほか、他の教師に対する教授法の指導、カリキュラム、シラバスなどの作成補助、日本での新しい教材、基金助成プログラムなどに関する情報の提供、申請の補助等である。
所在地 North Kargar, between St. No.15 & 16. Tehran
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
外国語・外国文学部 日本語・日本文学科
日本語講座の概要
What We Do事業内容を知る