世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語で世界にケニアを発信しよう
ケニヤッタ大学
蟻末 淳
ケニアでの日本語学習の動機の一つは、就職への期待です。しかし、実際には、日本語を勉強することにより、日本企業や日本関係などの仕事につける人は多くはありません。
現実的に日本語の学習が仕事に直結しない状況でも、依然、日本語の学習者の数は減っていません。ケニアでの日本語教育に関わり始めてから約二年、その中で感じたのが、学習者の中にある、ケニアのことを知ってもらおう、という力でした。
日本人にとって、ケニアはアフリカの中でも最も身近な国の一つです。ケニアは、陸上長距離選手を多数輩出しており、日本で活躍している選手も多いです。また、ケニアはサファリでも有名で、たくさんの観光客が野生動物を目当てにケニアを訪れます。
でも、ケニア人が日本のことを知っていて日本に憧れている以上に、日本人はケニアのことを知っているでしょうか。
— SNSで繋がるケニアと日本
ケニアでも、インターネットの普及と共に、アニメやドラマ、J-POPなどの所謂日本のサブカルチャーが少しずつ手に入りやすい状況になり、そのために日本語を勉強する、という人が増えてきました。日本が世界に発信するサブカルチャーによって、彼らは日本の文化をどんどん吸収していきます。日本人の私も知らないような最新の日本のトレンドなどを教えてくれることもよくあります。
facebookでの学生の交流
その一方で、インターネットの発展によって、日本語、日本の文化を「受け身」的に享受するだけではなく、日本人(もしくは日本語話者)に対して、日本語でケニアの情報を発信することがより手軽になりました。
ケニアでは、経済上の理由もあり、コンピューターを個人で所有している人はまだまだ少数です。その一方、Androidなどのスマートフォンも含め、携帯電話は普及しており、facebookなどのSNSの利用者はアフリカ大陸でもトップレベルです。
中々日本人と出会う機会が少ない中、学習者はケニアの情報を発信し、日本人や、他の日本語話者とコミュニケーションを楽しんでいます。ケニアは部族も言語も多様なので、同じケニア人同士でも知らないこともしばしばです。教室でのそういった議論の盛り上がりが、そのままSNS上にまで伝わるのは、教師としても見ていて楽しいものです。
是非、facebookに登録している人は、グループ「ケニア日本語中級」を覗いてみてください。
— 世界に繋がるイベント
ケニア日本語弁論大会も2012年で第5回を迎え、ケニアの日本語・日本文化普及活動において、毎年恒例の大イベントになりました。今回のテーマは「私の好きな日本の言葉」「日本人に伝えたいケニアの○○」「今まででいちばん驚いたこと」で、年齢や仕事、日本語学習歴も様々な学習者20名以上が参加しました。当初予定していた、ustreamによる生中継は、ケニアのインターネット事情の為に残念ながら断念せざるをえませんでしたが、弁論はyoutubeにアップされ、公開されています。
弁論大会優勝者の表彰式
今回の弁論大会の優勝者は全盲の学習者でした。日本での体験を元に「ありがとう」「すみません」という言葉の大切さを訴えた弁論でした。自らの日本でのエピソードを交じえた堂々としたスピーチは爽やかな感動を会場の満員の観客に与えてくれました。一方、その凛としたスピーチの後の質疑応答は、どこかケニアを象徴するような、リラックスした楽しい雰囲気に包まれたものでした。「その言葉をケニア人に使ったときの周りの反応はどうですか?」という審査員の質問に、「ケニア人は特に何も思っていないと思います」と飄々と答える優勝者。会場は大爆笑でした。
そういった、どこか、いつも予想外、「斜め上を行く」感じもまさにケニア。その「日本語教育」における「予定調和」をかき乱す「異文化体験」の面白さを世界に伝えたい。ケニアで日本語を教えていて、そう思います。そして、日本語を勉強するケニア人学習者も、日本語・日本文化に触れる中で、ケニアという日本との「異文化」を日本人、日本語学習者に発信したいと感じています。
優勝者、他のスピーチはケニア日本語教師会サイトからのリンクで見ることができます
世界中で行われている日本語教育は、日本語・日本文化を世界に一方的に発信するだけではなく、世界の色々な文化を、日本語で発信し、日本人が学ぶ機会を与えてくれます。そういう、ごく自然なことを、今、ケニアの日本語学習者に改めて教えてもらっています。
派遣先機関名称 | ケニヤッタ大学 | ||||||||||||||||||||||||
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Kenyatta University | |||||||||||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
ケニヤッタ大学は現在、ケニアで日本語クラスのある唯一の国立大学である。2004年から日本語の授業が開講、現在は自由選択科目であるが、近い将来、学士課程(副専攻・主専攻)の創設が予定されている。専門家は同大学の日本語講座の日本語教授の他、ケニア全体の日本語教育に関する様々な業務を担当する。具体的には、日本国大使館広報文化センターでの国費留学生に対する特別講座、カリキュラム・教材作成などに関する助言、上級日本語講座や教授法講座、セミナーなどの現地教師の育成・支援の他、弁論大会、日本語能力試験、などを運営するケニア日本語教師会の支援や、その広報など、業務は多岐に渡る。 | ||||||||||||||||||||||||
所在地 | P.O. Box 43844-00100 Nairobi Kenya | ||||||||||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家 1名 | ||||||||||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
ケニヤッタ大学人文社会学部外国語学科 | ||||||||||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
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