世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 継続と発展のために

香港日本語教育研究会
宇田川洋子

香港の日本語教育アドバイザーは、受入機関である香港日本語教育研究会(以下、研究会)の各種委員会のメンバーとして、コースデザインや講演、プロジェクトの企画と実施、いろいろなコンテストの審査、調査と調査報告などを行っています。事業の中には10年以上続いたものもありますが、継続と同時に、改善や向上の努力も続けられています。

1. 教師研修

教師研修:授業準備のディスカッションの写真
教師研修:授業準備のディスカッション

教師研修は、日本人あるいは日本語能力試験N1を取得した日本語非母語話者で、日本語教師未経験あるいは1、2年という方を対象とした教員養成コースです。2003年に始まり、今年は14期目、これまでに100名以上の研修生が巣立ち、現在、教壇に立っている人も少なくありません。このコースの特徴は、研修生がボランティア学生に直接法で授業をする「実習」が中心で、体験的に、初級の授業の計画・準備・実施に必要な技能を習得してもらうことを主眼としていることです。土曜日の3時間、全24回という期間の中で、名詞・動詞・形容詞の基礎文型を一通り扱うように授業計画を組み、日本語文法や教授法に関する講義も入れ、さらに今年は、教師としての心構えなどについての話し合いや授業見学も盛り込んで、できるだけ中身の濃い、満足度の高いプログラムにしようと工夫を重ねています。また、学習者中心の理念と言語活動を重視し、Can-doを到達度指標として取り入れたりもしています。

今年の研修生は6名、実習も5回目となると先生の風格も出てきました。また、今年は、昨年の研修生4名に運営協力をお願いするなど、卒業してからのつながりも大切にして、香港の日本語教育に貢献していただければと期待しています。

2. 香港小中高校生日本語スピーチコンテスト

香港小中高生日本語スピーチコンテスト: 朗読劇の部優勝チームの表彰の写真
香港小中高生日本語スピーチコンテスト:
朗読劇の部優勝チームの表彰

今年は、昨年新設した小学生の詩の暗誦に続き、第10回開催を記念して、チームで参加できる部門を設けようということになりました。詩や劇などいろいろな素材を検討し、外国語として日本語を学ぶ中高生向きで、日本の伝統文化理解にも役立つのではと、国際交流基金シドニー日本文化センターの編集した「かぐやひめ」「かさじぞう」のシナリオを使うことにしました。スピーチコンテストの一部ですから、演技や衣装はなしで、朗読劇としました。

日本語教育では世界でも前例が見つけられなかった試みでしたので、当日はどうなるか心配していたのですが、5組の決勝進出チームはいずれも堂々と声の演技を披露し、チームの息もぴったりで、感動しました。

3. 国際日本語教育・日本研究シンポジウム

ほぼ隔年で開催されてきた、国際日本語教育・日本研究シンポジウムも第10回を迎えます。今回は、シンポジウムの会場にもなる香港大学専業進修学院との共催です。2014年11月の開催に向けて2013年秋に実施委員会が発足し、研究発表申し込み要項作成やウェブサイトの開設など、いろいろな準備が進んでいます。私も委員会のメンバーとして協力するほか、開催期間中も、研究会の学習者背景調査チームで研究報告をしたり分科会の司会をしたりと、忙しくなりそうです。

一方、編集委員として、グループの相互コメント作業による査読の運営などに苦心した第9回シンポジウムの論文集も、2014年6月末に電子書籍として出版される予定です。

4.  日本語教育図書・教材案内

これは研究会の事業ではなく、前任者から続いている、日本語教育アドバイザーが単独で配信するメルマガですが、バックナンバーは研究会のウェブサイト(http://www.japanese-edu.org.hk/)に掲載されています。最近発行された日本語教育関連の図書や教材から香港の日本語教育に適したものを探すのがなかなかの苦労で、研究会のセミナーやシンポジウムに日本からお招きした講師にインタビューしたり、読者の先生方にもお願いして情報収集に励んでいます。また、香港でも学習者の年齢層や学習目的の多様化が進んでいるため、国際理解教育や年少者教育など幅広い分野の出版物やウェブサイトを扱い、先生方のニーズに対応したいと思っています。今後の計画としては、国際交流基金の世界各地の日本文化センターが開発した教材やウェブサイトから、香港でも活用できるものを選んでご紹介したいと考えています。

このほか、研究会以外にも、いろいろな教育機関から講師や審査員としてお招きをいただくことも多く、それぞれのプロジェクトの継続と発展に貢献できるよう、残る任期もがんばりたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education, Hong Kong
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金は1973年より在香港日本国総領事館広報文化センター日本語講座に日本語専門家(以下、専門家)を派遣してきたが、2000年2月、同講座が香港日本文化協会に移管されたため、2001年7月からの専門家派遣は同総領事館の日本語教育アドバイザーとしての派遣となった。2005年、香港日本文化協会内にあった香港日本語教育研究会(以下、研究会)の事務所設立に伴い、2006年1月より専門家の派遣先を研究会に変更した。日本語教育アドバイザーとして当該専門家は、香港・マカオ・中国華南地域の日本語教育機関に協力して日本語教育の支援を行うほか、教師研修やネットワーク形成促進に努めている。
所在地 Rm701-2, 7/F., Marina House, 68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年
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