世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)全国中等日本語教師研修会
国際交流基金 北京日本文化センター
王崇梁 髙﨑三千代 藤井舞 浦井智司
北京日本文化センターは中国人民教育出版社課程教材研究所日語課程教材研究開発中心(以下、人教社)と共催で、2003年から毎年春と夏に全国の中等教育機関の日本語教師を対象とした研修会を行っています。夏季は北京、春季は地方の学校を会場としていましたが、2018年より夏季、春季ともに地方の学校を会場として実施しています。中等教育機関の日本語教師を対象とした研修としては、中国唯一の全国規模の研修会です。
例年、参加者数は60名前後でしたが、2017年夏季より増え始め、2018年夏季および2019年春季では、それぞれ実に120名もの参加となりました。近年、大学入試の影響で日本語課程を新しく設置する学校が増え、それに伴い若手日本語教師が増えてきていることから、研修会への注目度が高まっていると思われます。
現在の専門家が着任してからは、以下のようなテーマで講義とワークショップを行っています。
2017年夏「課程標準の主旨と授業デザイン」
2018年春「核心素養育成を目指す読解授業」
2018年夏「核心素養育成を目指す作文授業」
2019年春「核心素養育成を目指す日本語言語知識指導」
今年の3月に行われた春季研修会では、「核心素養育成を目指す日本語言語知識指導」をテーマに、新しい『課程標準 *1』の中で重要視されている「核心素養 *2」について理解を深め、その育成を目指す語彙や文法などの指導をどのように行えばいいかについて考えました。参加者は講座やグループでの話し合いから得た気づきをもとに教案の改善を行い、最終日に発表しました。
時間 | 内容 | |
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3月24日 (日曜日) |
14時~19時 | 受付、資料受け取り |
3月25日 (月曜日) |
8時30分~9時 9時10分~10時30分 10時40分~12時 |
開会式、記念撮影 講座1:「『高校課程標準(2017年)』から見る人材育成」 講座2:「日本語科目の核心素養から見た言語能力の育成」 |
12時~ | 昼食 | |
14時~15時 15時10分~17時 17時~17時20分 |
講座3:「中等教育における日本語教育の現状」 ワークショップ1:事前課題教案のふり返り、共有 主催団体紹介 |
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17時40分~19時 | 懇親会 | |
3月26日 (火曜日) |
8時30分~10時 10時20分~11時50分 |
講座4:「語彙を教える」 講座5:「文法の教え方を考える」 |
12時~ | 昼食 | |
14時~16時 16時10分~17時30分 |
ワークショップ2:教案の改善 公開授業 |
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17時40分~ | 夕食 | |
3月27日 (水曜日) |
8時30分~11時 11時10分~12時20分 |
ワークショップ3:教案発表(1) ワークショップ4:教案発表(2) |
12時~ | 昼食 | |
14時~15時50分 16時~17時 |
日本文化体験 アンケート記入、閉会式 |
ワークショップは、4つの教室に分かれて3~4人の小グループになって行いました。参加者には事前課題として、指定した教材から教案を作成し、提出してもらっています。
【ワークショップの流れ】
ワークショップ1:事前課題教案のふり返り、共有
講座1~3について気づいたことや理解したことを話し合った後、事前課題の教案の改善点について各自検討し、共有しました。
ワークショップ2:教案の改善
各自、ワークショップ1で得た気づきをもとに教案を改善した後グループ内で共有し、より良い教案となるよう更に改善を続けました。
ワークショップ3:教案発表(1)
グループ内で各自発表した後代表を1人決め、各グループの代表がクラスで発表しました。その後、投票によりクラス代表を選びました。
ワークショップ4:教案発表(2)
各クラス代表が発表し、その後、質疑応答の時間を設けました。
今回は作成した教案をスクリーンに投影し1人1人が発表しましたが、グループで授業案を考え、ポスター発表をすることもあります。どうしたらもっと良い授業ができるのか、参加者同士が話し合い、教案やポスターを作成するといった活動を通して、自分1人では見えなかった新たな視点に気づくことができます。
グループでの話し合い
講座やワークショップの他にも、研修会場校の先生による日本語公開授業やJICA青年海外協力隊日本語教育隊員の協力による日本文化体験なども行っています。参加者は浴衣の着付けや短歌、川柳について学んだり、阿波踊りやソーラン節を実際に踊ったりと毎回とても楽しそうです。学校に戻ったら、研修会で体験したことを実際に生徒たちとやってみたいと、積極的に取り組んでいました。
日本文化体験(阿波踊り)の様子
2019年春季研修会では、アンケートに回答した参加者のうち85%が研修に対して「とても満足」と示しており、参加者にとって有意義な研修会を提供できたものと思われます。今後も新しく日本語課程を設置する学校が増えていくことが予想される中で、私たちに何が求められ、何が提供できるのかを常に考えていくことが必要だと感じています。
とても満足 | まあ満足 | どちらとも 言えない |
やや不満 | 不満 |
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88 | 15 | 0 | 0 | 0 |
*1:中等教育における国家カリキュラム。
*2:生徒の人間性を育て、全人格的に育成する教育のこと。『課程標準』にも記載され、中国で重視されている。
派遣先機関名称 | 国際交流基金北京日本文化センター |
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The Japan Foundation, Beijing | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。また、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成への促進活動も実施している。教師研修会には、全国大学日本語教師研修会、全国中等日本語教師研修会、日本語教育学実践研修会、全国中等教育二外日本語教師研修会、地域巡回日本語教師研修会などがある。HP以外にもSNSを活用して情報発信している。 |
所在地 | #301,3F, SK Tower, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing, 100022 CHINA |
国際交流基金からの派遣者数 | 上級専門家:2名、専門家:2名 |
国際交流基金からの派遣開始年 | 1999年 |