世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)香港・マカオの日本語教師アップデート・プロジェクト

香港日本語教育研究会
斎藤 誠

香港に派遣される日本語専門家の業務は「アドバイザー」として、香港・マカオの日本語教育機関を訪問したり、研修や機関訪問、授業見学などを通じた教師への支援やネットワーク形成、教師相談、学習者への支援など、側面から支援することです。

2018年、2019年の集中日本語教師研修の様子
2018-19年集中日本語教師研修の様子

香港派遣専門家の大きな業務の1つが、毎年の「集中日本語教師研修(以下、教師研修)」の講師役です。派遣先である香港日本語教育研究会(以下、研究会)が、毎年10月~5月頃に企画・実施しているこの「教師研修」では、前半が日本語教授法のレクチャー、後半が授業実習という構成になっています。

2018-19年度の参加者は、開講時12名、日本語母語話者と非母語話者が半々程度の割合でした。受講動機も様々で、現役日本語教師でブラッシュアップをしたい、本気で日本語教師になりたい、副業として考えている、まずは身近な人に教えたいなどですが、皆さん毎回熱心にレクチャーを聴き、議論や対話を通じて学び合いました。

香港の日本語教育は、以前から媒介語(広東語、英語)を使った文法中心の教え方が一般的ですが、この教師研修では、外国語が「できる」ようになるとはどういうことかを考え、それが授業で達成できるような授業デザインの方法を学びます。実習では、レクチャーでの学びを踏まえて授業プランを立て、実践してみます。実習で扱う該当の課レベルの日本語能力を持った学習者を募集し、学生役のボランティアとして来ていただきましたので、ごまかしの利かない実習となりました。

研修参加者からのアンケートを見ると、個々に様々な「気づき」が生まれていることがわかりました。教師の役割は「教える人」だけなのか、外国語を学ぶこととはどういうことなのか…。研修での対話や議論、実習の中で、研修参加者はそれぞれの「日本語教師像」がイメージできつつあるようです。この研修で得たことが、今後の教師キャリアに活かせるなら、望外の喜びです。

2019年マカオワークショップの様子
2019年マカオワークショップの様子

香港では定期的に研究会主催のワークショップ・セミナーにファシリテーターとして出講していますが、2019年は、新しい試みとして、3月にマカオで日本語教師向けワークショップを開催しました。初回にもかかわらず、16人と予想以上の参加者が申し込んで下さいました。マカオでは教師がブラッシュアップできる機会はゼロに等しく、オンラインで外国のセミナーに参加する人が多少いる程度ですが、1つの場に集まり、対話しながら学びあうことに、参加者は非常に楽しそうで、実施後アンケートの結果も概ね好意的でした。

マカオの日本語教師から聞いた話で意外に感じたのは、受講を始めて最初の学期が終わったら、継続しないで辞める学習者が多いと言う話です。原因は内的・外的要因と様々なのですが、1つ大きいのは、受講前に持っている日本語に対するイメージが「習得はそれほど難しくない」というもので、いざ始めてみたら難しさを感じてしまうのだそう。現地の学校や先生方も様々な工夫や努力をされていますし、先駆者の体験から学ぶものも多いと思いますが、少しでも日本語学習の楽しさと達成感を感じてもらえるように、これから私も何らかのお手伝いができたらと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education Hong Kong
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1978年に香港大学、香港中文大学、香港理工学院(現:香港理工大学)、在香港日本国総領事館日本語講座(現:香港日本文化協会日本語講座[以下、文化協会])の日本語・日本文化の教師を中心に創立、2005年5月文化協会から独立、2007年NPO化。シンポジウム、セミナー、教師研修開催、機関誌『日本学刊』発行等の日本語教育関係者支援事業、小中高生日本語スピーチコンテスト、文化祭、奨学金等の日本語学習奨励事業、日本語能力試験現地運営(香港・マカオ)等を行なっている。
専門家業務内容は、研究会各事業への協力、香港・マカオの日本語教育機関に協力しての日本語教育支援の他、教師研修実施やネットワーク形成支援等。
所在地 Rm701-2, 7/F, Marina House, 68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年
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