日本語専門家 派遣先情報・レポート
香港日本語教育研究会

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
香港日本語教育研究会
SOCIETY OF JAPANESE LANGUAGE EDUCATION HONG KONG
派遣先機関の位置付け及び業務内容
1978年に香港大学、香港中文大学、香港理工学院(現在の香港理工大学)、在香港日本国総領事館日本語講座(現在の香港日本文化協会日本語講座〔以下、文化協会]の日本語・日本文化担当教師を中心に創立、2005年5月文化協会から独立、2007年にNPO化。シンポジウム、セミナー、教師研修の開催、機関紙『日本学刊』発行等の日本語教育関係者の支援事業、小中高生日本語スピーチコンテスト、文化祭、奨学金等の日本語学習奨励事業、日本語能力試験現地運営(香港・マカオ)等を行っている。専門家業務内容は、研究会各事業への協力、香港・マカオの日本語教育機関に協力した日本語教育支援の他、教師研修実施やネットワーク形成支援を行う。
所在地
Rm.701-2, 7/F, Marina House, 68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数
専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年
2006年

このままでは日本の伝統文化が衰退する?!
―香港日本語教育研究会奨学金グループ研究プロジェクト賞受賞作品から―

香港における国際交流基金派遣専門家の仕事は、香港日本語教育研究会(以下、研究会)に拠点を置き、香港とマカオの日本語教育に関するアドバイザー業務を行うことが主ですが、その中には日本語学習者支援事業も含まれています。今回ご紹介するのは、研究会が主催する日本語教育支援活動の一つである「グループ研究プロジェクト賞」の受賞作品についてです。

香港では2009年に教育改革が実施され、それまで中学(Form1-Form5)と大学予科(Form6-Form7)の2つに区分されていたイギリス・ヨーロッパ式の教育制度が、現在の中学1年から6年までを「中学」とするシステムに変更されました。通常香港では「高校」という名称が使われず、中学4年生から6年生までが日本の高校生に当たります。この2009年の変更に伴い、日本語を含む6つの外国語が選択科目として正規授業に取り入れられることになりました。そこで、研究会は2010年より「日本語成績優秀者への奨学金」と学生の日本語学習や日本文化への探求心を高め奨励することを目的とした「日本研究プロジェクト賞」を授与する活動を始めました。今年でこの活動も12年目になります。過去10年で95名の学生がその卓越した日本語学習の功績により奨学金を授与され、207名の学生が「日本研究プロジェクト賞」を受賞しています。

香港研究会が主催するイベントの受賞作品に関する発表をする女子中学生の写真
発表する女子中学生グループ

2021年11月20日に2020-2021の授賞式が行われました。コロナ禍で参列者は40人までに制限される中、式典には在香港日本国総領事と広報文化部長をお招きし、各賞の受賞作品のプレゼンテーションも実施されました。2020~2021年の「グループ研究プロジェクト賞」は、中学生の2グループと短期大学生の2グループに授与されました。時代を反映してか「日本のポップミュージック文化」「バーチャルチューバ―」「日本の伝統文化の衰退」「コロナの影響による日本人の働き方の変化」をテーマに、どれも若者らしい視点で構成された興味深い発表でしたが、その中で女子中学生3名のグループによる「日本の伝統文化の衰退」は、伝統文化とその継承に対する一つの考え方として印象に残る発表でした。

香港研究会が主催するイベントの受賞作品に関する発表の内容をパワーポイントにまとめた写真
発表要旨

このグループは、様々な日本の伝統芸術文化が、年々衰退していくことを危惧して、なぜそのような事態に陥ってしまったのかを、考えられる3つの要因「徒弟制度の崩壊と伝統文化を好む顧客の高齢化」、「手作業による非効率的な生産性と高価格の問題」、「日本人の文化保護意識の低下」から説明を試みました。そして、日本人へのアドバイスとして、ある対応策を提案したのです。それが、オンラインを使った伝統技術の公開でした。コロナ禍でオンライン学習やリモート生活に人々が慣れている現在、ベテランの職人が制作工程をライブ授業形式で実際にやって見せコツを伝授し、それをユーチューブのようなオンライン動画として配信すれば、日本国内だけでなく、世界中の人々がいつでもどこでも学ぶことができるという内容でした。また撮影した動画は、伝統文化を宣伝するドキュメンタリーにも繋がる相乗効果があると説き、時代に即した継承法を積極的に取り入れていくべきだと力説しました。従来、伝統工芸とは弟子が師匠の技を盗み見しながら、一つ一つ時間をかけてその技を習得し受け継いでいくものだと思われている節があり、またそうであるからこそ、ある種の「伝統文化の価値」が伝承されていくのではと思われがちなだけに、どんどん貴重な技を公開していくことこそが伝統芸術文化を守るために重要だとする考え方は、斬新とも言える響きがあります。また一方では、職人の高齢化に伴い、高齢の職人が安心して仕事に打ち込めるような特別な医療体制の必要性も説いていました。香港の若者にとっての日本文化と言えば、アニメやJ-ポップと考えている人が多い中で、「流行り文化」に注目するのではなく、日本の伝統芸術文化に注視し、さらにその継承をどうすべきかを真剣に考えているこのグループの発表に、日本人として驚きと頼もしさを感じたのは言うまでもありません。

こうした若者たちの異国文化に対する真摯な眼差しは、老若男女を問わず日本が大好きだという人が多いと言われている香港の日本文化への高い関心度と、何歳になっても学び続けることが教育の根幹だとする香港独自の「生涯学習」という教育観からから生み出されるものと言えるでしょう。

言語教育としての日本語教育の充実化だけではなく、日本文化への関心を高め深めていけるようなこうした活動を、香港の日本語教育に携わる者として今後も支援していきたいと思います。

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