世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語教育室」より・・・

国際交流基金ソウル日本文化センター(嶺南地域担当)
岡田 有美子

釜山港を望むビルの15階に、ソウル日本文化センター嶺南地域担当日本語専門家(以下、専門家)の駐在するオフィス「日本語教育室」があります。ここを拠点に、慶尚北道、慶尚南道、釜山広域市、大邱広域市、蔚山広域市までを担当地域として行う日本語教育アドバイザーの業務は、実に多岐にわたっています。それでは、2011年8月の着任以来行ってきた業務の一部をご紹介します。

中等教育日本語教師職務研修/集中研修

集中研修の様子の写真
集中研修の様子。
皆で授業のアイデアを共有。

中等教育機関の日本語教師を対象に行う研修は2種類あり、これらの実施が当地での中心業務となります。在釜山日本国総領事館(以下、総領事館)の館内で、日本語および日本語教育の研修を行う「中等教育日本語教師職務研修」では、中学や高校で日本語を教える韓国人教師の日本語のブラッシュアップを行ったり、最新の日本事情や日本語教育に関する情報を提供したりしています。受講する先生方は学期中15週間毎週1回、校務を終えてから総領事館に足を運ぶわけですが、お疲れの中、2時間の研修にも積極的に参加し、この研修で得た情報をすぐに学校の授業に取り入れたりしているようです。

年2回夏と冬に行われる「中等教育日本語教師集中研修」は、その名の通り、5日間集中して研修を行います。こちらはテーマを絞ってワークショップを行い、日本語教育の質的向上を図ります。2011年冬季集中研修のテーマは「評価」(注1)。受講者同士が活発な意見交換を通じて自らの評価方法を見直し、グループごとに試験問題作成とその評価方法の検討を行いました。学校で孤軍奮闘することの多い日本語教師たちが各地域から集まり、毎日朝から夕方まで共に過ごすこの研修は、先生方がお互いの悩みを相談し、励まし合う場にもなっているようです。

日本語弁論大会審査員

嶺南地域では、総領事館・釜山韓日文化交流協会主催の日本語弁論大会を始め、日本語演劇祭、作文コンテスト、各大学主催のスピーチコンテストなどが開催され、専門家は審査員としてそれらに参加します。

弁論大会では、自らの貴重な体験を壇上で熱く語る発表者の姿に心動かされたり、途中で次の言葉に詰まってしまって焦る姿に一緒にハラハラしたり・・・。スピーチの後に審査員が発表者に質問し、その受け答えも考慮して採点する場合もあります。発表者のこれまでの努力を称えて全員に賞をあげたくなりますが、そうもいきません。発音・表現力・内容などから総合的に判断してシビアに最終順位を決定する作業は、なかなか骨の折れる仕事です。

日本語教育機関訪問

訪問した高校の正門の写真
訪問した高校の正門。
釜山の学校はほとんどが山登り・・・

学期中には、研修を通じてつながりのできた先生方の学校を訪問することもあります。授業を見学したり、先生方と一緒に生徒たちに教えたり。研修中は受講生の一人だった先生方も、学校では数十人を相手に教えるれっきとした日本語教師ですから、とても輝いて見えます。また、生徒の中には実際に初めて日本人と接するという子も多く、知っている限りの日本語を使って何とかコミュニケーションを図ろうとする子もいて、何とも微笑ましいです。教育機関訪問は、専門家にとっても、日本語教育現場の雰囲気を直接肌で感じることのできる貴重な機会となっています。

以上に挙げた業務以外にも、総領事館での職務研修への参加が難しい、離れた地域にある教師会へ出向いて講義を行ったり、嶺南地域の学院・高校・企業・大学などに勤務する日本語教師が集う教師会の月例会に参加したり、また、大学対抗日本語ディベート大会の発足に向けた運営委員会にも参加したり、様々な形で日本語教育支援に携わっています。

日本語学習者人口の多いこの国では、多くの日本語教育機関が存在し、多種多様な学習者支援事業が行われています。そして、それぞれの現場には教える喜び・学ぶ喜びと共に様々な形での苦労や悩みが存在しています。その苦労や悩みを少しでも排除し、喜びを拡大するために何ができるのか、現場のニーズを感知してより有効な協力・支援を行えるように、「日本語教育室」は日々努力していきたいと思います。

※注1 テーマは集中研修3回ごとに変更。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1988年以来、在釜山日本国総領事館に日本語専門家が派遣され、嶺南地域の日本語教育を支援してきたが、2005年8月より、派遣先はソウル日本文化センター、勤務地は釜山(釜山韓日文化交流協会内)という派遣形態となった。日本語専門家の担当業務は、当地域の中学・高等学校などの韓国人日本語教師を対象とした総領事館内の教室で行われる中等日本語教師職務研修クラス、釜山韓日文化交流協会内で行われる夏冬2回の中等日本語教育集中研修、嶺南地域教育庁及び各中等日本語教師会への出講等である。
所在地 YMCA Bldg.15F 1143-13 Choryang-3dong, Dong-gu, Busan 601-836, Korea
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名(嶺南地域担当)
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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