世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本文化への関心の高まり

国際交流基金ソウル日本文化センター
山口敏幸・山本実佳・田中綾紗

1.学校現場で広がる日本文化を取り入れた授業

2015年に始まった在韓日本語サポーター事業(以下、サポーター事業)も4年目に入りました。サポーター事業とは、留学生を中心とした在韓日本人ボランティアの協力を得て、主にソウルと京畿道の中学校や高校に出かけていって日本語の授業のお手伝いや日本文化の紹介をしたり、ソウル日本文化センター(以下、センター)を訪れた中学・高校の生徒たちに日本文化を紹介する活動です。2017年度は、学校訪問とセンター来訪合わせて、ついに100校を突破しました。この国ならではの口コミによる情報の輪が広がった結果だろうと思われますが、この勢いでいくと、本年度は100校をはるかに上回る学校からリクエストが寄せられることが予想されます。

学校訪問、センター来訪でリクエストが多いのが日本文化体験です。特に、茶道、浴衣、伝統遊び(けん玉、折り紙)に人気があります。新しい教育課程(2015)では、「日本文化」が「日本語学習」と並んで同等に取り上げられ、「文化」を単に理解するだけではなく、「文化の多様性」を「自ら発見」したり、「能動的に参加」したりすることが勧められています。

また、新しい教育課程に準拠した日本語教科書にも、日韓両国文化の相違点と類似点を生徒自身が発見できるようなタスクや体験活動が多く取り入れられています。こうした教育課程の影響もあるのでしょうが、2017年度の学校訪問、センター来訪100校のうち、90校が文化体験希望でした。

このような状況を踏まえ、センターが主催する2017年度の中等日本語教師集中研修では日本文化をテーマとして取り上げました。「日本文化体験活動を通じて異文化理解の授業を考える」という目標設定のもと、茶道、浴衣、書道、伝統遊び(けん玉)の文化体験をメインに、「異文化理解の授業」実施への考え方やヒントを与えるワークショップ、日本文化を取り入れた授業のデザインと発表、という内容構成でした。

先生方の茶道体験の写真
先生方の茶道体験(集中研修にて)

教育課程が唱える教育方針は理解できるものの、それを実際に現場でどのように授業に活かせばいいかわからないという先生方は多く、今回の研修は、そうした先生方にとって、新しい知識やアイデアを得る貴重な機会になったものと確信しています。そして、学校に戻ったら自信を持って文化を取り入れた授業を実践していただきたいと強く願っています。

2.センター日本語講座で学ぶ受講生のこと

センターの日本語講座では、現在200名を超える受講生が日本語を学んでいます。少子高齢化を背景に、近年、シニア層の学習者の増加が目立っている韓国ですが、センターの受講生の最も多い年代が、2017年度、ついに40代となりました。60代以上の受講生も全受講生の約1割を占めています。日本以上に高齢化が進む韓国ならではの現象かもしれません。そして、この日本語講座は一般向け講座なので、年代も様々ですが、職業も様々です。2017年度の後期を例に目を引く職業を挙げてみると、医師、デザイナー、旅行作家、詩人、俳優、茶道師範など、日本語の学習を始めた動機をじっくり聞いてみたくなるような受講生がいっぱいです。その学習動機の中で、「日本語力の向上」についで多いのが「日本への旅行」です。ステップアップコース(入門から中上級まで)に限っての話ですが、全体の40%を「日本への旅行」が占めています。これも、日本に最も近い国、韓国ならではの事情と言えるのではないでしょうか。因みに、日本を訪れる韓国人観光客は年々増え続けており、日本政府観光局の統計によると、2017年は前年比40.3%増の714万人となり、中国人観光客数736万人に迫ろうとしています。

ゲスト授業の写真
日本語講座の受講生(ゲスト授業の風景)

3.韓国の日本語教育に明るい兆し

韓国の日本語能力試験の応募者数は、2009年の16万9千人をピークに毎年減少し続けていましたが、2015年の7万2千人を底に増加に転じ、2017年には9万2千人にまで持ち直しました。また、日本留学試験の応募者数も、ここ数年増加を続け、2017年には前年比30%増と、過去最高の伸び率を示しています。長らく厳しい状況が続いていた韓国の日本語教育にもようやく明るい兆しが見え始めました。こうした状況を励みに、これからも日本語普及の活動に全力で取り組んでいきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行なうとともに、教師を対象とする支援を大きな柱とした各種支援を実施する。 具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、入門段階から日本語能力試験N1合格レベルまでの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けて、ホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行なっており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行なっている。
所在地 Office Bldg.4F, Twin City Namsan, 366 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名(嶺南地域担当除く)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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