世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)現場で頑張る先生方のために

国際交流基金ソウル日本文化センター
山口敏幸・山本実佳・田中綾紗

1.新しい日本語教科書を取り上げた研修を実施

冬季中等学校日本語教師集中研修の様子
冬季中等学校日本語教師集中研修

2015年の改定教育課程に準拠した中学・高校の日本語教科書が、2018年から学校現場で使用されています。ただ昨年は、1年生に限定されていたため、まだ数としては多くありませんでしたが、今年はほとんどの学校で使用されています。こうした状況を踏まえ、ソウル日本文化センター(以下、センター)では、毎年1月に実施している冬季中等日本語教師集中研修の今年のテーマを「改訂日本語教科書を使った日本語授業を考える-授業設計から評価まで-」として研修を実施しました。研修は、新しい教科書を使った日本語授業についてのワークショップと、教科書執筆者による教科書に関連するお話、そして、研修参加者自らが取り組む、新しい教科書を使った授業計画の発表という内容でした。現場での使用を間近に控えた先生方の、真剣に課題に取り組む姿が印象的でした。

研修終了後のアンケートからは、新しい授業のやり方に関する情報が得られたことに満足感を示すコメントが多く見られ、「やる気満々になった」という頼もしい意見も聞かれました。先生方には、今回の研修の成果をぜひ現場で活かしていただきたいと願っています。

2.日本語専門家の大事な仕事:日本語教師サロンと「カチの声」

センターでは、毎月1回、日本語教師サロン(以下、サロン)を開いています。これは、日本語の先生方を対象に、センター所属の日本語専門家(以下、専門家)が中心となって行っている日本語教育関連セミナーで、センター設立以来続いている専門家の大事な仕事です。このサロンには、ソウルだけでなく、仁川や大田、あるいは遠く江原道などからも熱心な日本語の先生方が集まってきます。中学・高校で教えている先生もいれば、大学、民間日本語学校で教えている先生もいます。テーマによっては、教師でない一般の方も参加してくれます。正直セミナーを担当するときは、テーマに悩み、準備に苦労し、授業では緊張しますが、たくさんの先生方が参加してくださり、アンケートの結果がよかったりすると、苦労が報われた気持ちになります。

日本語教師サロンの様子
日本語教師サロン

また、このサロンにはもう一つ重要な役割があります。それは先生方の貴重な情報交換の場、ネットワーク作りの場となっていることです。多くの先生方が、現場では孤立した状態で頑張っています。そうした先生方が、サロンに参加することで、情報交換ができ、つながりができ、ネットワークを広げることができるというのが、サロンの隠れた役割です。これからもサロンのこうした意義を肝に銘じ、たくさんの先生方に集まっていただけるよう、魅力あるサロン作りに努めたいと思います。

一方、センターの貴重な情報提供のツールとしてあるのが「カチの声」です。「カチ(까치)」は、韓国全土に生息するカササギの一種で、縁起のいい鳥と言われています。この「カチの声」は、専門家が主な執筆者となり、毎月発行しているWebマガジンで、専門家が担当する「データから見える日本の横顔」「のぞいま!」「韓国スケッチ」「日本語あれこれ」のシリーズものに加え、外部講師による「日本語上達のために」などを随時掲載しています。

センターでは、昨年、「カチの声」の読者に対しアンケート調査を行いました。その結果、年齢層は30代以上が約90%で、日本語のレベルは、上級、中級で80%以上を占めていました。また、読む目的は、1位が日本に興味があるため(58.9%)、2位が日本語の勉強のため(42.5%)でした。今回のアンケートから、日本と日本語に興味のある、日本語のレベルが高い30代以上の年齢層の読者像が浮かび上がってきました。これからもこうした読者層の興味・関心に応えていけるようなページ作りに励みたいと思います。

3.中等日本語教育の現場に若い力が続々

2018年は全国で52名の中等日本語教員の募集がありました。2016年の9名から、2017年の15名、そして、2018年は一気に52名と、大幅な増加となり、中学高校の日本語教育の現場が活気づいています。3年連続で新規募集があったこと、そして、今年一気に去年の3倍以上も募集数が増えたこと、さらに今後、定年退職者が増えることもあり、募集数がさらに増えるのではないかと関係者に期待を抱かせています。これまで、若い教員が次々に入ってくる中国語の状況を横目に見て寂しい思いをしてきた日本語の先生方も、久々に後輩が入ってきたことで元気を取り戻してほしいと思うとともに、若い力に大いに刺激を受けて教育力に磨きをかけてほしいと願うばかりです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Seoul
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
韓国の日本語教育全般を把握するため、資料収集、現状調査を行なうとともに、教師を対象とする支援を大きな柱とした各種支援を実施する。
具体的には、各種中等日本語教師研修、地方日本語教育研究会への出講及び研究プロジェクトへの協力、中学校および高校への訪問授業等である。また、入門段階から日本語能力試験N1合格レベルまでの学習者を対象とする日本語講座を開講している。さらに韓国全土に向けて、ホームページや電子ニューズレター等の媒体を活用した情報提供も行なっており、ソウルと地方の情報格差をできるだけ小さくする努力も行なっている。
所在地 Office Bldg.4F, Twin City Namsan, 366 Hangang-daero, Yongsan-gu, Seoul, Korea
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名(内1名は嶺南地域担当、釜山駐在)
国際交流基金からの派遣開始年 2002年
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