世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)モンゴル日本人材開発センター日本語課・「ただいま、モンゴル!」

モンゴル日本人材開発センター
三本智哉

ただいま、モンゴル!

2002年から2年間、青年海外協力隊員として活動して以来のモンゴル派遣。当時、馬や牛がノホホンと草を食んでいた空港周辺には、大きなデパートや新築マンション、そして立派な私立学校が林立していた。あまりの発展ぶりに「浦島太郎」のような気持にさえなっていたが、挨拶回りの中で先生方からお話を聞き、モンゴルの日本語教育事情をアップデートすることから活動が始まった。

モンゴル日本人 材開発センター「JF日本語講座」

日本語課JF講座の講師たちの写真
日本語課JF講座の講師たち

派遣先のモンゴル日本 人材開発センター(以下、センター)は、モンゴルの市場経済化促進に貢献する人材の育成と、モンゴルと日本の相互理解促進を目的として、国際協力機構(JICA)と教育省、モンゴル国立大学の協力により2002年に開設された。国際交流基金(以下、JF)も2002年から現在まで日本語専門家を派遣し、2012年からは「JF日本語講座」を共同運営している。JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)に基づいた『まるごと 日本のことばと文化』という教科書をメインテキストに、ゼロ初級から中級レベルまで日本語を学ぶことができる。開講から7年目を迎え、教案や教材・副教材なども充実してきている中ではあるが、「自ら考えて提案し実行しよう」というセンター業務の心構えのもと、日本語課の講師たちは更なる工夫を日々重ねている。

例えば、最近の初級コースでは、授業前の待ち時間に「多読」を取り入れたり(国際交流基金関西国際センターの教材「KCよむよむ」やレベル別日本語多読ライブラリーを使用)、宿題として書いた作文シートを再活用させるために作文内容を使って「ミニー(私の・小さな)本」という自己紹介小冊子を作成し、学習者がお互いに見せあうというアイデアを実践している。専門家としてはJFスタンダードの理解を更に促進させつつ、講師たちの発想に対して、その意義やより良い手段が無いかを問いかけ、新しいアイデアが生まれるような環境や刺激を用意することも求められている。日本語能力や職業意識の高い講師達に向けた2週間に1度の研修において、何を提示し、どのようにアプローチするべきだろうか。日々楽しく頭を悩ませている。

モンゴルで日本語を学び教える人たちのための「連携」

巡回指導の様子
巡回指導

「全てはモンゴルで日本語を学び教える人たちのために」これは講師室のボードに書かれている日本語課のスローガンだ。センターは、モンゴル日本語教師会や在モンゴル日本国大使館と協力し、月例の研究会、シンポジウム、巡回指導、学校対抗スピーチコンテスト、日本語能力試験、教育局から依頼を受けた初中等教師の研修など、様々な活動に携わっている。2018年10月の教師会設立20周年記念シンポジウムでは嶋田和子先生・片桐準二上級専門家をお迎えして、「初中等日本語教育スタンダード及び高等教育との連携」というテーマで講演と発表、パネルディスカッションが行われた。その会を通じて「連携を実現するには対話を重ねる必要があり、対話には共通の目的意識が必要だ」といったことが参加者に共有された。2018年11月と2019年2月に日本語課は巡回指導を行った。これは、研修の機会がなかなか無い地方の日本語教師の学校に専門家とセンター職員が赴き、授業見学とフィードバック、それに付随して日本文化体験(折り紙や書道、浴衣の着付け、日本の遊び等)を行う事業だ。2018年度はこれも教師会との共催とし、教師会の前会長がご一緒くださった。専門家と共に授業見学に入りコメントを補足してくれたり、話し合いを通じたより良いアドバイスを行うことができたように思う。また再活性化の動きがある初中等教師の勉強会では、参加者それぞれの学校の教材や掲示物をどうしているかという事例をシェアしあうことで新しい発見が生まれていたようだった。今後も多くの関係者と対話を重ね、日本語を学び教える人のために多様な連携を生み出していきたい。

最近の動向

2019年にセンターの日本語課が独自に行った機関調査では、初中等・高等教育機関を合わせた日本語学習者数は9080名で、2015年にJFが行った調査(8769名)に比べて微増している。センターに対して期待することは、「日本語イベント・日本文化交流イベント」「教師への研修」「教材やイベントなどの情報提供」といった記述が多かった。

また近年、良く耳にするようになっているのが、その他の公教育以外の日本語教育機関(日本語学校など)の数が増えていることだ。主に日本への留学や就労を目的としているようだが、2019年4月に新たな在留資格「特定技能」に関するモンゴル・日本の2国間協定が締結されたことでこの傾向に拍車が掛かりそうだ。2019年は、これまで年に1回だった日本語能力試験が7月と12月の2回行われることになった。モンゴルの日本語教育関係者全体に時代の変化に合わせた対応が求められている。

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