世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) “あつい”インドの日本語教育

ニューデリー日本文化センター
伊勢田 涼子・竹村 徳倫・徳間 望

日本語が大好きな子どもたち

インドでは2006年からCentral Board of Secondly Education(CBSE)という教育委員会傘下の初中等教育機関で日本語教育が始まり、2012年にはじめて12年生(日本の高校3年生)までの日本語クラスがそろいました。インドには日本以上に厳しい受験競争があるのですが、そんな中でもJLPTのN5レベル、N4レベルに合格する生徒がたくさんでてきています。

また、日本語専門家(以下、専門家)がインドの学校で日本語のプロモーションをするときに日本のアニメの話をすると、小学生たちが興奮して収拾がつかないこともしばしばあります。インドでは日本のアニメが毎日放映されているので、それを見て育った子どもたちは小さいころから日本語や日本の文化に親しみを持っているのかもしれません。

初中等教育の先生たちのワークショップがはじまりました。

デリーを中心とする北インドは、インドでもとくに初中等教育での日本語教育がさかんな地域です。昨年12月からその初中等教育の日本語の先生たちがニューデリー日本文化センター(以下、JFND)にあつまって、定期的にワークショップを開催しています。ワークショップでは、ベテランの先生たちが、オリジナルのアクティビティを紹介したり、自作の日本語教育用パワーポイントを披露したりと毎回日本語教育についてさまざまな話し合いをしています。

先生たちの一体感が出てきたインドの初中等日本語教育は、暑いインドの気候同様、今年も熱くなりそうです。

遠隔地へのオンライン教師研修とICTを利用した日本語教育用リソース作り

PPTの日本語教育用リソースのためのセミナー風景の写真
PPTの日本語教育用リソースのためのセミナー風景

JFNDでは2012年度からインターネットを利用した教師研修をはじめましたが、今年度はグジャラート州などの日本語教育新興地域の先生たちを対象にオンラインでの教師研修を実施しています。オンライン教師研修では単に日本語の教え方のポイントを学ぶだけでなく、日ごろ他の日本語教師と出会う機会のない地方の先生たちをつなぎ、日本語教育に関する情報のやり取りも行っています。

また、最近インドでは初中等教育を中心に、教材の電子化がすすんでいて、日本語でも情報通信技術(ICT)を利用した授業が行われるようになりました。日本語ではとくにパワーポイントを利用した教材が使われることが多いのですが、専門家も先生たちといっしょに教材作成に協力をしています。

家(うち)でも日本語

4月、5月、6月はニューデリーの1年で最も暑い季節です。JFNDでは、子どもたちが夏休みに入るこの時期を利用して、子どものためのサマーコースを開いています。2012年度は、JFND初のサマーコース企画として、 子どもも大人も一緒に学べる「親子の日本語コース」(以下、親子コース)を開催しました。小さい子どもを持つJFNDインド人講師の発案です。

まず、私たちはシラバス作成から取りかかりました。クラスは子どもと大人と一緒がいいのか、それとも別々がいいのか、この暑い時期、どのくらいの期間なら負担にならずに通えるのか、何歳くらいの子どもを集めようか、話し合いは続きました。

  子どもは日本語学習経験のない、4年生から6年生までを募集することになりました。週に3回、全10回の授業です。小さい子どもの集中力はそんなに長く続きませんから、子どもに合わせると大人の日本語学習が少々退屈になるかもしれません。結局、私たちは子どもクラスと大人クラスを作り、共通のトピックを設定することにしました。そして、子どもクラスと大人クラスをつなぐ活動として、2クラス合同で「浴衣を着て盆踊りを踊る日」、「太巻き作りの日」を設定しました。また、家(うち)でも日本語が話せるように、その日習ったことを子どもは親に、親は子どもにインタビューする宿題を出しました。

サマーコースでの盆踊りの風景の写真
サマーコースでの盆踊りの風景

親子の日本語コースは面白い試みとなりました。子どもからのフィードバックとしては、「新しい友達ができた」「親子で話す宿題があったから、家に帰っても日本語がたくさん話せた」など、大人からは、「参加していない家族も巻き込んで日本語を話すようになった」「言語だけでなく、文化・習慣も知ることができた」「もっと日本語で話したくなった」など、好評を得ました。サマーコースというと、たいていその期間だけで終わってしまいますが、親子で一緒に学ぶと、コースが終わっても日本語環境から離れにくいことがわかりました。親子コースは、効果も2倍、楽しさも2倍だったようです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援・普及を目的としている。具体的な業務としては、(1)インド国内外での巡回セミナー、勉強会、コンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関への支援・協力(2)初等・中等学校への新規日本語導入のためのプロモーション活動、行事への参加(3)初等・中等学校に所属する現職教師の研修および新教師養成、情報通信技術を利用した日本語教育の導入推進(4)初等・中等教育用の試験問題の作成(5)JF講座の運営、講座担当講師の育成 など多岐にわたる。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 シニア専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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