世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)西インドにおける試み

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
長田佳奈子

インドに進出する日系企業が急増する中、コミュニケーション能力育成を目指した日本語教育のニーズも高まり、いよいよ従来の日本語能力試験対策中心の教え方だけでは立ちいかなくなってきています。国際交流基金ニューデリー日本文化センター(以下、JFND)は、現状を踏まえ、さまざまな試みを行っています。

日本語教育ワークショップ

新たな教授法を提案するために、JFNDは日本語教授法のワークショップを実施しています。2014年度、西インドでは、プネで3回、ムンバイで2回行いました。テーマは「漢字学習」「初級の聴解」「初級の作文」「中級の読解」「文化の扱い方」「評価」「初級後半からできる通訳・翻訳指導」「助詞の教え方」「テ形の教え方」「中級文法」「絵教材を使った練習」です。講師はJFNDの日本語専門家だけでなく、インド人教師、青年海外協力隊員も担当しています。ワークショップで新たな知見を得たからといって、教師の教え方が劇的に変わるわけではありませんが、参加者同士意見交換しながら、どんな教え方が望ましいか考えていくことが、新しい日本語教育への第一歩になると考えます。

勉強会

企業の日本語教育では、短期間で成果を出さなければならないことも多いです。日々の授業の中で、一つ一つの学習項目や技能を効果的に積み上げていく必要があります。そのために、教師には膨大な言語知識が求められます。ところが、教師が参考にできる文法書はほとんどありませんし、日本の専門家が書いた解説や例文は、ノンネイティブ教師にはわかりにくいものが多いです。特に中上級の日本語をどう捉え、どのように教えるかが課題です。JFNDは、語彙や文法の用法について考える機会を作るために、初中級の教科書勉強会を実施したり、大学や日本語学校の勉強会に協力したりしています。教え方について考えながら、参加者の日本語のブラッシュアップにもなるよう工夫しています。

教師養成

インドでは日本語教師不足が深刻です。グジャラート州やマハラシュトラ州の地方都市で、日本語コースを開講したいという希望があっても、教師がおらず、開講できないことも多いです。この状況を打開しようと、JFNDは日本語教師養成講座を企画し、2014年度はプネ、デリー、チェンナイで行いました。2015年4月のプネの講座には18名が参加し、6日間日本語教授法の基礎を学びました。インド人教師と協力しながら、インドに合った教師養成のあり方を模索しています。

JF日本語教師養成講座の写真
JF日本語教師養成講座の様子

ひらがなの教え方を考えていますの写真
ひらがなの教え方を考えています

ティラク・マハラシュトラ大学への支援

JFNDは西インドに一つしかない日本語学士コースと日本語修士コースを支援しています。2015年4月に学士コースは5期生が、修士コースは3期生が修了しました。報告者は修士コースの授業を担当するほか、コース運営に協力しています。学士コースはこの2年、形成評価のシステム作りに力を入れてきましたが、その成果が表れつつあります。修士コースの課題は、修了生が専門性を深めるというより、総花的に日本や日本語に関することを学ぶコースになっていることです。専門性を高めるために、今後はインド人日本語学習者に対する日本語教育を中心に据えながら、日本や日本語についてさまざまな角度から知識を深め、研究できる人材、国際社会において必要とされる人材を育成できるコースを目指そうと話しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣されている。執務スペースをティラク・マハラシュトラ大学(以下、TMV)に置き、TMV日本語コース(学士コースおよび修士コース)の支援、日本語教育セミナー、日本語教師勉強会、日本語教師養成講座等の実施、日本語教育機関訪問、教師会支援、アドボカシー、スピーチ大会や日本文化祭などのイベント支援、情報収集、個別相談などを行っている。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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