世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多様な南インドの日本語教育

国際交流基金 ニューデリー日本文化センター(南インド担当)
蟻末 淳

ニューデリー日本文化センターの南インド担当の専門家は指導助手と共に、タミル・ナドゥ州のチェンナイに駐在しています。担当地域は、同州に加え、テランガーナ州、アンドラ・プラデーシュ州、カルナータカ州、ケララ州、ポンディシェリ連邦直轄地域です。また、お隣のスリランカを含む南アジアの周辺国支援も業務に含まれます。

本稿では、南インドの日本語教育と専門家の業務についてお話しします。

1. 南インドの日本語教育

南インドはインド全体の中でも日本語教育が盛んな地域です。2015年の国際交流基金(以下、基金)の調査によれば、インド全体の学習者24,011名のうち、タミル・ナドゥ州が6,055名(全国2位、全国1位はデリー首都圏の6,161名)、カルナータカ州が2,077名(全国4位)で、南インド全体としては8,499名、全体の1/3以上に上ります。南インドの日本語教育の特徴として、特にチェンナイ(タミル・ナドゥ州)、バンガロール(カルナータカ州)を中心にIT企業を始めとした日本関連企業での研修やITエンジニアの学習者が多いことが挙げられます。日本関連企業への就職を目指して勉強したり、働き始めてからの実務やキャリア・アップのために日本語を勉強する人が多いのです。

その一方で、若い人を中心に、アニメ・マンガ、アイドルなどのポップカルチャーのために勉強している人も少しずつ増えてきています。また、タミル語などの母語、英語、ヒンディー語など多言語で生活しているため、言語に対する興味が強いのも特徴です。

2. 教授能力向上のネットワーク作り

チェンナイでの専門家の業務は、機関訪問等による情報収集、コースデザインなどのアドバイザー業務や各種イベント協力、そして、現地教師の日本語教授能力向上のためのセミナーなどです。

チェンナイではミニワークショップという勉強会を断続的に行い、基金の日本語専門家以外に、現地の先生にも講師になってもらっています。また、チェンナイ以外の人も参加できるようにインターネットを使った遠隔セミナーを行ったり、動画に残していつでも閲覧できるようにアーカイブを作っています。様々な先生が機関や地理の壁を越えて発表し合い、自由に情報交換をして学び合うことができるような場を作りたいと考えています。

3. 日本語・日本文化イベントへの協力

南インドの学習者の学習動機の多くは就職や実務ですが、その一方で日本の文化やポップカルチャーに興味を持つ学習者も若い人を中心に増えてきています。そのような学習者が楽しみにしているのは各地で行われる日本関連イベントです。

例えば、バンガロールでは2005年から毎年Japan HabbaJapan Festival)という日本文化祭が行われています。カラオケやダンス、着付けや書道、折り紙、日本食など様々な日本文化に触れることができ、日本人とインド人がともに楽しめるイベントです。今年のメインゲストは津軽三味線。基金の助成等で日本からの招聘が実現しました。

私たちチェンナイ・オフィスからもブース出展とステージイベントで参加し、基金作成の日本語教科書の『まるごと』の紹介や学習サイト“Minato”などを紹介、クイズなどをしました。新しい日本語学習者を開拓する試みの一つとして、今後もこのような活動を続けて行きたいと考えています。

日本語・日本文化イベントの写真
コミュニケーションのための教科書『まるごと』も少しずつ普及してきています

Japan Habbaの写真
Japan Habbaでのステージイベントの様子

4. 広い視点で日本語教育について学ぶ場を

2018年3月にハイデラバードのEFLU(英語外国語大学)がナショナル・セミナーを実施し、発表者もデリーやチェンナイなどから13名を数え、60名を越える聴衆の前で日本語教育に関する実践発表や研究発表を行いました。基金主体のワークショップなどや勉強会はあるものの、地域を越えた日本語教師の交流が少ない中、南インドでは画期的な教師の発表主体のイベントです。これをきっかけに、今後、更に大きな規模の日本語教育国際シンポジウムなどが開かれることが期待されます。

5. Facebookでの情報交換

南インドでは情報発信にも力を入れています。これまでの日本語教師のためのFacebookグループ及び日本語学習者のためのグループに加え、一般層も含めたより広い範囲への情報提供のために新たにFacebookページも立ち上げました。

少ない人数での運営ですが、学習者、先生とも協力しながら、南インドの日本語教育関連イベントの情報等、日本に興味がある一般層にアピールできるコンテンツを考え、できるだけ頻繁に更新しています。

南インドの日本語教育はITエンジニアの需要と共に急激に伸びています。しかし、その一方で実益のための日本語教育だけではなく、日本そのものを知りたい、ポップカルチャーも含めた日本文化に興味がある、など、日本に憧れがある学習者を支援することも私達の重要な使命です。

州が変われば国が変わる、と言われるほど、多様なインド。南インドも一括りにはできません。様々な技術や手段を使いつつ、一人一人の日本語学習、日本語教育にアプローチできるような仕事をしていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センターより南インドのチェンナイに派遣され、インド南部5州と1連邦直轄地域を中心に日本語教育の質の向上と拡大を図る。具体的には、1) 現地人教師・教育機関支援、ネットワーク形成 2) 機関訪問等による情報収集、調査、分析 3) 南アジアの近隣諸国も含めたセミナーや勉強会など、各種支援活動の実施
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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