世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)好調な日印関係と共に発展するインドの日本語教育

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
平賀 達哉

2005年小泉元首相のインド訪問をきっかけに、日本とインドの関係は急速に改善されてきた。日本企業の直接投資も増え、日本語学習者の数も伸び続けている。

2003年に実施された国際交流基金(JF)の調査によると、インドの日本語学習者数は5,446人であったが、2017年の調査によると24,011人に増加した。これはおよそ3.5倍の増加である。

また西インドの状況を見ると、日本語能力試験(JLPT)の出願者数は、今年度の7月の試験でプネ会場(3,000人)とムンバイ会場(1,000人)を合わせて約4,000人に上っている。これはJLPTが年2回受験できるようになってから最も多い数である。このように西インドの人の日本語学習に対するニーズは急激に高まっているが、これは近年日本の会社への就職機会が大きく拡大していることもその一因と言えるだろう。例えば、日本のいわゆる海外人材紹介系の会社がプネに来て志願者を募集するケースや、日系企業やインドなどのグローバル企業が日本語教育を行っている大学などに直接来て学生を採用するキャンパス・リクルートも増えてきている。この動きと歩調を合わせるように、インドのプネにおける工学系のカレッジを中心に学内に日本語コースを開設するカレッジが増えている。特に、プネは日本語学習者の日本語レベルも日本語教師のレベルも高いので、日本語教育はますます発展している。

では、なぜプネにおいてこれだけ日本語教育が発展したかというとさまざまな要因が考えられる。まずプネには伝統的に教育機関が多い。つまり、プネの人は基本的に学ぶことが好きで、外国語学習も一生懸命やるという伝統がある。ある意味、プネの人にとって学ぶことは趣味なのではないかと思うほどである。

たくさんの日本語関係の書籍が置かれたテンドゥルカル美智子先生のご自宅で、先生と執筆者二人の写真。
テンドゥルカル美智子先生と(先生のご自宅にて)

さらに、1970年代に派遣された青年海外協力隊(JOCV)の若い先生方の活躍が挙げられる。特にテンドゥルカル美智子先生は最初1970 年から72年までムンバイ(旧名ボンベイ)に派遣されたあと、1976年から78年までプネの印日協会(IJA)で教鞭をとられた。その後、1981年には再びプネに戻り、プネ大学で日本語を教えられ、1993年にはプネ日本語教師連盟(JALTAP)の創設にもご尽力された。それとともに、自宅を日本語関係の図書室にし、学習者に開放された。そのおかげでプネの学習者は日本語を自習することもできるようになり、優秀な学生が育ち、また優秀な先生も養成される土壌ができていった。現在プネで教えるトップレベルの先生方はほとんどがテンドゥルカル先生の教え子だと言ってもいいぐらいである。このようにプネにおける日本語教育の発展については先生の熱意と努力なしに語ることはできないだろう。テンドゥルカル先生は現在もお元気で日本の童謡を教えたり、日本文化について若い学習者たちに語ってくださっている。

女子小学校における日本文化展示会の様子。華道を展示する児童たち。
小学校における日本文化展示会(Ahilyadevi女子校にて)

ムンバイでは、ムンバイ日本語教師会(TAJ)の主催で、日本の文化活動も活発に行われている。プネでは、プネ大学やティラクマハラシュトラ大学(TMV)で学内の歌コンテストが開かれている。 それから、プネ印日協会やムンバイ日本語教師会が中心になって西インドレベルの歌コンテストも行われている。そして、小学校から大学までの各教育レベルにおいて日本文化を紹介する展示会も活発に行われている。特に初中等教育レベルにおいて日本語や日本文化に対する関心が高まってきている。私のところにもプネ市内や郊外の学校からこうしたイベントを見学しに来てほしいという依頼が多くなってきた。そこで私は、日本の子供の歌や遊びを紹介し、日本の文化に興味を持ってもらうように努めている。プネではこのように日本文化にふれるような課外活動としての日本語クラスがさらに広まると見られている。

日本では少子化の影響もあって、特に、工学系の大学で学んだ若いエンジニアが不足する事態になってきている。一方インドでは、若者人口の数も多く、優秀な人材も多くいる。これから日本の人材不足の空白を埋めるために、インドの若い人材がますます求められるであろう。我々JFの専門家は、数は少ないが、巨大なインドの人たちと協力し、日本語人材を育てるために日々奮闘している次第である。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ニューデリー文化センター西インド担当アドバイザーとして、マハラシュトラ州プネに派遣されている。執務スペースをティラク・マハラシュトラ大学(TMV)に置きつつ、TMVの日本語コース(学士・修士コース)に対する支援を行うとともに、西インド地域のアドバイザーとして、現職者向けの日本語教育セミナーを実施したり、日本語教師を目指す人に対して養成講座を行っている。その他、日本語教育普及のためのアドボカシー活動、スピーチ大会や文化祭などのイベント支援、情報収集、広報活動なども行っている。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-Ⅳ, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年
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