世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)西インド日本語教育レポート2019―日本語ブーム高まるマハラシュトラ

国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
尾崎裕子

私は2018年の6月からインドのマハラシュトラ州プネ市で日本語アドバイザーとして仕事をしています。ティラク・マハラシュトラ大学(以下、「TMV」)の中に事務所を置き、TMVの授業を一部担当しつつ、西インド全体の日本語教育のサポートをするのが私の役目です。

プネは昔からインドの中でも日本語教育の盛んな土地として知られていましたが、今回プネに赴任して、プネやムンバイを中心とするマハラシュトラ州での日本語教育に対する関心の高さと日本語熱の高さを実感しています。

TMVの日本語コースにはプネだけでなく、ムンバイやマハラシュトラの地方都市や他の州からも学生が来ています。プネは大学や学校が多い学園都市であり、また近年プネはIT産業のハブとして急発展中で、日本語力を活かして就職するチャンスも増えており、「文科省の奨学金で日本に留学したい」とか「将来日本の企業かインドの日系企業で働きたい」という夢を持つ若者を引きつけているようです。プネには、TMV、プネ大学、印日協会(Indo Japan Association)、シンバイオシス大学などの主な日本語教育機関がありますが、そこで学んでいる学生は皆日本に対して熱い視線を送っています。

日本語学習が盛んなプネには民間の日本語学校も多く、自宅で塾のような形で日本語を教えている先生がたくさんいます。日本語教授経験豊かな先生もいますが、教師自身が日本語能力試験(以下、JLPT)のN4に受かったからJLPT N5対策クラスを教え始めるというようなケースもたくさんあり、ほとんどの教師が十分な日本語教授法の知識や研修なしに教えているのが実情です。そのような先生方が日本語教授能力を高めて、よりよい授業ができるように、研修を通してサポートするのがアドバイザーの重要な役割です。

ムンバイ・ミニワークショップの写真
ムンバイ・ミニワークショップ 2019年3月1日

赴任以来、いろいろな機関でいろいろな教師研修を実施してきました。「Teachers’ Training Course C」という現職教師向けの二日間全12時間のワークショップをプネとムンバイで実施しました。また、2019年4月には、プネで「Teachers’ Training Course B」という日本語教師育成のための30時間の研修も行いました。プネやムンバイだけでなく遠くの町や州からも、日本語教師になりたい人や教授法のブラッシュアップをしたい教師あわせて26名が参加し、5日間の集中研修に熱心に取り組みました。このほか、「まるごとワークショップ」、「ミニ・ワークショップ」、「勉強会」などの研修会もいくつかの異なる機関で実施してきました。

Teachers’Training Course Bの写真
Teachers’ Training Course B 2019年4月19日

研修会に参加する先生方は皆熱心な先生で、自身の日本語力や教授能力を向上させたいという向上心を持っている方たちなので、こちらも毎回できるだけ先生方の役に立つ内容になるように知恵をしぼります。文法項目や漢字、会話力などをどのように教えるか、ポイントを確認して、具体的な授業活動を紹介したり、自分のクラスで教える方法や活動を考えてもらったりしています。

心掛けていることは、先生方が「日本語の知識を教える授業」ではなくて、「日本語でコミュニケーションや具体的なタスクができる授業」をすることができるようになるということです。

インドではJLPT合格が日本語学習者の大きな目標となっていて、ほとんどの日本語コースの修了目標が「JLPT〇レベルに合格すること」に照準を合わせたものになっています。そのため、授業で「話す」「書く」の指導や、「日本語で具体的なタスクができることを目標とした授業」がされていないことが多いのです。教師自身がそのような授業を経験したことがなければ、それを自分の授業でするのは非常に難しいでしょう。ですから、そのような活動や授業のやり方を教師が研修で知り、体験することで、自らの授業を改善していってほしいと願っています。

2017年9月に日印両政府によりインドで日本語教育を推進することが取り決められ、工学系の大学など新たな高等教育機関で日本語講座が開設されるようJFニューデリー日本文化センターではプロモーション活動を行っています。西インドでも日本語の講座を開設したい、拡充したいという大学があり、そのような大学の関係者と協議したり、学生に日本語学習を勧めるためのセミナーで日本語学習の意義やメリット、学習リソースなどについて話をしたりもしています。日本や日系企業に就職することを熱望している様々な専門の学生が集まってくるセミナーでは彼らの熱気がこちらにも伝わってきます。

インドから高度人材を大量にリクルートしたい日本にとって彼らは宝のような存在だと言えるでしょう。実際、TMVには日本から、いろいろな大学、日本語学校、企業の関係者が訪問し、インドの日本語学習者に日本から熱い目が向けられているのを感じます。

この空前の日本語ブームはまだまだ続きそうで、このような活気のある日本語教育環境で日本語の先生方や学生と日々関わって仕事ができることはとてもやりがいがあり、幸せなことだと思っています。これから、この日本語熱がマハラシュトラのより多くの都市に、そしてマハラシュトラ以外のグジャラートやゴアやマッディヤプラデシュなどの州にも広がっていくよう、西インドでの日本語プロモーションを頑張っていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣され、西インドを対象地域としてアドバイザー業務を行う。具体的な業務は、事務室を置いているティラク・マハラシュトラ大学(TMV)日本語コースへの出講、担当地域での現職教師向け教授法研修や日本語教師を目指す人向けの教師養成講座等、様々な研修の実施、日本語普及のための機関訪問、セミナーを通してのアドボカシー活動、弁論大会や文化祭など日本語関連のイベント支援など。
所在地 5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2009年

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