日本語専門家 派遣先情報・レポート
ニューデリー日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ニューデリー日本文化センター
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け及び業務内容
インドおよび周辺の南アジア諸国における日本語教育支援・普及を目的としている。具体的な業務としては、(1)インド国内外でのワークショップ、勉強会、コンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関への支援・協力(2)日本語普及のためのプロモーション、行事への参加(3)日本語教師の研修および新規教師養成、情報通信技術を利用した日本語教育の導入推進(4)JF日本語講座の運営、講座担当講師の育成など多岐にわたる。
所在地
5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-(4), New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:3名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1999年

インドでもネパールでもがんばってます

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
有馬淳一・金ヶ江洋子・酒見志奈子・鈴木千晶

今回は、ニューデリー日本文化センター(以下、JFND)が行っているインドの初中等日本語教育への支援と、ネパールの特定技能事業の日本語に対する支援について紹介します。

インドの初中等日本語教育を盛り上げたい

「先生、いただきますの意味は何ですか」「先生、漢字はいくつありますか」「先生、日本語で自己紹介したいです」…。これはJFNDが小中学校の生徒向けに行っている日本語学習普及・奨励イベント「スワガタムJFND(ようこそJFNDへ)」での一コマ。日本語に関する質問や、自分の日本語力のアピールで盛り上がります。そうです、インドでは大学生や社会人の学習者はもちろんのこと、たくさんの小学生や中学生、高校生も日本語を学んでいるんです。インドで日本語教育が実施されている初中等教育機関は約80校。首都デリーやその近郊の学校が多いですが、インド西部のマハラーシュトラ州や南部のタミル・ナードゥ州の学校でも日本語が教えられています。「スワガタムJFND」は現在オンラインで行っていますが、インド全国の学校から申し込みがあります。2021年度は約30校、計850名の学生が参加してくれました。

また、上記のような文化や日本語を紹介するイベントの他に、初中等教育機関で教える先生方の支援も大切な業務の一つです。インドには初中等の先生方が中心となっている日本語教師会(JALSTA)があり、定期的に勉強会やイベントを行っています。勉強会では現場で使える教え方のアイディアなどのワークショップや、授業やカリキュラムの悩み相談などを行っていますが、どの先生も熱心に参加しており、毎回予定時間はオーバー。先生方のネットワーキングのためにも非常に役立っています。

JALSTAは学習者のためのイベントも主催しており、JFNDも実施に協力しています。今年は初めて「日本語オリンピアード」を開催しました。インド全国の5年生と6年生を対象に日本と日本語に関するクイズをオンラインで行うというものです。日本の文化や地理、歴史など5分野のクイズに生徒が挑戦しました。今回は低学年向けに行いましたが、次回は高学年に向けても実施しようという話になっています。この「日本語オリンピアード」は、日本語を学んでいる学習者への奨励としても、まだ日本語教育が導入されていない学校に向けてのアピールとしても非常に良い機会になりました。

日本語学習者を対象に行われたイベントの授賞式の写真
受賞者やご家族を招いて行われたオリンピアード授賞式の様子

以上のように初中等教育をサポートする様々な事業をJFNDでは行っています。インド全国でもっともっと日本語を教える学校や教師が増え、安心して日本語を教えられる土台作りができるよう引き続き支援していきます。(執筆:鈴木)

ネパールで根づくことを願って

コロナ禍で学校が閉鎖されると、多くの学生が故郷に戻りましたが、ネット環境が悪くオンライン授業に参加できない学生も出ました。また、日本への入国が厳しく制限され、就労ビザ取得のために必要な試験に合格してもいつ日本に行けるかわからない状況で学習者が減少していると感じます。しかし、そのような中でも国際交流基金日本語基礎テスト(以下、JFT-Basic)の申し込み希望者数は定員の何倍にも上っておりましたが、2021年末ごろから突然申し込み希望者が激減したのです。

これは、ビザが下りない、就職先が見つからないなど先の見通しがつかないことが大きいのでしょう。日本語学校の教師も大変です。通常の日本語指導だけでなく、介護の日本語のための教材を手作りしたり、介護実習のための教室を用意したりなどもしなければなりません。

そのような中、筆者は特定技能事業担当として、どのような支援ができるか試行錯誤してきました。JFT-Basicの広報・普及のためのガイダンスセミナーや『いろどり 生活の日本語』(以下、『いろどり』)を使った研修を実施しました。インドから出張してセミナーを開催するよりもオンラインで開催する方が回数を増やせました。教師会のネットワークやFacebookに新しく立ち上げた「ネパール日本語教師ネットワーク」で広報した結果、カトマンズ以外からも多くの先生方が参加してくれました。

日本語教材「いろどり」ワークショップの広報用ポスターの写真
ネパール『いろどり』ワークショップの広報ポスター

『いろどり』に関しては、紹介セミナー、模擬授業も含めた実践ワークショップ、日本語ブラッシュアップコース等、さまざまな角度から研修を企画しました。2021年度には『いろどり』ネパール語版も完成しました。『いろどり』で学ぶ学習者の反応は非常に良いと聞きます。しかし、まだまだ『いろどり』を取り入れる機関は少ないですし、先生方にも『いろどり』の特徴や教え方をうまく伝えられていないと反省することも多々あります。

その他にも、先生方同士の横のつながりを広げるために「しゃべり場」というイベントを行いました。そこで感じたのは、先生方の悩みは日本語教育の枠を超えたことが多いということです。これまでも「どうやったら日本で就職できますか」という質問を多く受けました。その度に国際交流基金は日本語分野のみを扱っていると説明するのですが、先生方の状況がよくわかるだけに心苦しい気持ちになります。

ネパールの日本語学習の目的は純粋な日本語への興味ではなく、大部分は実利目的です。ですから、ネパールの日本語学習者の動向は社会事情に大きく左右されます。日本へ行く魅力がなくなったり、日本へ入国できなくなったりすれば、学習者が減ります。特定技能の枠組みの中で日本語専門家にできることは限られていますが、日々変化する社会状況の中で頑張っている先生方に寄り添い、できる限りの支援をして行けたらと思います。そして、日本に行った学習者が幸せになるための日本語教育がネパールで根づくことを願っています。(執筆:金ヶ江)

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