日本語専門家 派遣先情報・レポート
ニューデリー日本文化センター(西インド)

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ニューデリー日本文化センター(西インド担当)
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ニューデリー日本文化センター西インド担当アドバイザーとしてマハラシュトラ州プネに派遣され、西インドを対象地域としてアドバイザー業務を行う。具体的な業務は、事務室を置いているティラク・マハラシュトラ大学(TMV)日本語コースへの出講、担当地域での現職教師向け教授法研修や日本語教師を目指す人向けの教師養成講座等、様々な研修の実施、日本語普及のための機関訪問、セミナーを通してのアドボカシー活動、弁論大会や文化祭など日本語関連のイベント支援など。
所在地
5-A, Ring Road, Lajpat Nagar-IV, New Delhi, 110024, India
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年
2009年

オンラインで実施したティラクマハラシュトラ大学での活動

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
黒田朋斎

インドもご存じのとおり、2021年3月ごろから新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染者が大幅に増え始めました。その後5月には感染のピークを迎え、新規感染者数が1日40万人以上にも上る日もありました(1)。特に私の任地であるプネは感染状況が最も悪い地域の1つでしたので、私も5月の赴任日にインドに渡航できず、日本で業務を開始しました。その後、デリーの状況が落ち着いてきた9月下旬に渡印し、そしてマハラシュトラ州の新規感染者数が減少した12月下旬にやっとプネに着任しました。そのため、私も他の日本語専門家同様、オンラインでの活動を中心に業務を進めてきました。

そこで今回は、西インドを担当する日本語専門家がオフィスを置いているティラクマハラシュトラ大学(以下、ティラク大学)において、私がオンラインで行った活動を報告します。

ティラク大学教師との教科書勉強会

着任後まず始めたのが、ティラク大学の学士課程2年生を担当する先生たちとの勉強会です。2年生で使用している教科書に意味やニュアンスをはっきりと理解しにくい文型が多く出てくるということから、まず教科書に準拠したワークブックを中心に、教科書全体を通して学んでみることにしました。

こうした勉強会ではJFの専門家がイニシアチブを取ってしまいがちですが、この勉強会はちょっと趣が違います。まず先生たちが当番を決め、毎回自分でワークブックの中から自分が学びたい問題を抜き出してワークシートを作成し、そして他の先生に共有します。それから、全員が事前にワークシートの問題を解き、例文を作って勉強会に臨みます。勉強会では、その例文を参加者全員で検討していきます。つまり、先生たちが勉強会を進めているのです。私も事前にワークシートに目を通して、間違いや気になる部分の色を変えたりしていますが、やるのはその程度で、勉強会中は先生たちと一緒に「あーでもない、こーでもない」と議論しています。

インドの大学教師とのオンラインでの勉強会の写真
オンラインでの教師勉強会の様子

先生たちは「他の先生からのコメントが役に立つ」、「添削の能力・技術や文作成力に上達が感じられる」と話しており、この勉強会を通して自分が成長していることを実感しているようです。これも継続的な実施と相互の学び合いの結果でしょう。勉強会の時間以外に1つの文型について夜遅くまで議論し合ったという話も聞くようにもなりました。なお、この勉強会は先生たちがティラク大学から離れた場所に住んでいることから、私がプネに着任した後もオンラインで実施しています。

オンライン狂言ワークショップ開催

ティラク大学日本語学科では、2022年3月に狂言師の泉愼也氏、山本豪一氏の協力をいただき、プネと京都をオンラインで結び、JFニューデリー日本文化センター(以下、JFND)と共催で狂言のワークショップをオンラインで開催しました。当日は、ティラク大学の大教室に学生が40人ほど集まったほか、プネを中心にインドの各地から多くの人が参加しました。

ワークショップでは、泉氏、山本氏による「盆山」のパフォーマンスをはじめ、狂言に関するクイズや講義、狂言の動きの体験、質疑応答がありました。

オンラインで実施された狂言ワークショップの写真
泉氏、山本氏による狂言「附子」のオンラインでの実演

「盆山」のパフォーマンス時には、オンラインであっても画面上からは一流の方のライブの迫力がはっきりと伝わり、お二人の狂言師のユーモラスな動きに会場からは笑い声が上がりました。狂言の動きの体験では、泉氏の動きを真似て、笑う仕草や泣く仕草、くしゃみの仕草などを実際にやってみたのですが、ティラク大学の会場では大勢で同じ動きをすることで参加者に一体感が生まれ、大いに盛り上がりました。また、質疑応答では会場の学生から「女性でも狂言を学ぶことはできるのか」「登場人物に蚊がいたが、蚊はどう演じるのか」など、興味深い質問が出され、狂言のより深い理解につながりました。

このワークショップはティラク大学が発案し、JFNDが共催という形で支援して実現しました。私もその中で、ティラク大学に泉氏の活動のコーディネーターを紹介したり、JFNDへの協力要請をアドバイスしたりするなど、陰ながら応援していましたので、ワークショップが成功してとてもうれしく思っています。

今後に向けて

今回はCOVID-19拡大下でのティラク大学という小さい範囲で実施したオンラインでの活動を紹介しました。

しかし、2022年4月3日時点でのインドにおけるCOVID-19の新規感染者は、913名(1)と落ち着きを見せ始めています。こうした状況から2022年の2月から3月にかけて、ムンバイ日本文化祭(2)や西インド地区日本語弁論大会(3)がオフラインで開催されました。今後も落ち着いた状況が続けば、コロナ以前のように様々な活動がオフラインで行われるようになると思われます。一方で広いインドをカバーするためには、オンラインでも事業を進めていく必要があるでしょう。今後は両者の利点を生かし、より多様な活動を展開していきたいと思います。

  1. (1)THE TIMES OF INDIA (2022年4月3日最終閲覧)
  2. (2)ムンバイ日本語教師会が主催
  3. (3)入場者を制限してプネで開催。Monbusho Scholarship Association of India主催。西インド地区大会は印日協会プネが実施を請け負っている。

What We Do事業内容を知る