世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 印象に残った笑顔

ケラニア大学
小松原奈保

スリランカ人の学習者からよく「ありがとう」「こんにちは」「すみません」といった日本語のあいさつが好きだという話を聞きます。というのも、スリランカでは出会っても言葉を交わすことは少ないからです。その代りにスリランカ人には笑顔で応える習慣があります。日本人の私にとっては知らない人とも笑顔を交わして通じ合えるスリランカ人の習慣も素敵だと感じます。スリランカに来て1年。私の印象に残った笑顔をご紹介します。

1.ケラニア大学日本語専科第1期生が卒業

第1期生の卒業論文の画像
第1期生の卒業論文

ケラニア大学では2014年に既存の一般コースとは別に、日本語専科が開設されました。その日本語専科で学んだ第1期生が、2017年1月に無事卒業を迎えました。

日本語専科の学生は、会話や読解などといったいわゆる日本語の授業の他に、言語学や、教授法、異文化コミュニケーションといった専門的な講義を受講し、卒業論文を日本語で書きます。論文は、それぞれが自分の興味のある分野について自分でテーマを選んで研究しますが、今まで、どちらかというと受身の姿勢で勉強してきた彼らにとっては戸惑うことばかりです。研究方法で悩む学生、分析方法で迷う学生、結果がまとめられなくて立ち止まってしまう学生。彼らを励ましアドバイスを与え、解決できるよう導くのは決して簡単ではありません。なぜなら答えは自分で見つけなければならないからです。しかし、一人も最後まで投げ出さず、ギリギリまで必死で書いて論文を提出しました。提出した後の晴れ晴れとした笑顔、今でも忘れられません。

彼らは今、社会人になり、日系企業の会社員や日本語教師として働いています。職場ではきっと大学での経験を役立てて、さまざまな問題を自分で解決していくことでしょう。

2.さくら訪日教育旅行で中高生が日本へ

「ときめき」訪日教育旅行参加者の画像
「ときめき」訪日教育旅行参加者

 国際交流基金の助成を受けてスリランカ日本語教師会が企画したさくら訪日教育旅行「ときめき」が2017年3月10日から3月18日に行われ、13名の中高生と2名のスリランカ人教師がこれに参加しました。

日本ではまず神奈川県南足柄市でホームステイやお寺での参篭体験をすることで、地方都市の生活を体験しました。その後東京に移動し、スカイツリーに登ったり、未来館を訪問するなどして日本の先端技術に触れました。また、日本滞在中に4校の中学高校との交流もあり、お互いの文化を紹介したり、いっしょに給食を食べたりしながら、日本の生徒との親睦も深めました。

今まで夢見てきた日本で、時間を守ること、おもてなしの心、環境保全などたくさんのことを身をもって学び、今まで以上に日本が好きになった参加者たち。中には、東大に合格してまた日本に戻ると、帰国して新たな夢を持った生徒もいます。最後の夜の反省会では帰りたくないと泣いた生徒もいたそうですが、スリランカの空港では少しだけ大人びた笑顔の13人を出迎えました。この笑顔を見て、思春期の多感な時期に日本で見て、触れて、感じたことがきっと彼らのこれからの人生に役立ってくれると感じました。

日本や日本語を通して、生活や人生がちょっと変わる瞬間の笑顔を見ると、こちらも自然と笑みがこぼれます。今年もたくさんの笑顔に出会える1年にしていきたいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケラニア大学日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベル以上のカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。そのため、教育省の依頼で、中学、高校における日本語教育のシラバス・教科書作成などにも大学講師が参画しており、中等教育においても多大な影響力を持つ。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講、2016年には日本学研究センターが設立された。日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。
所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部 現代語学科
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