世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)2018年度の挑戦

ケラニア大学
小松原奈保

スリランカはインド洋に浮かぶ人口約2,100万人の小さな島国です。この国には親日家が多く、一万人を超える人々が日本語を勉強しています。

私の勤務するケラニア大学はスリランカの日本語教育の中心的な日本語教育機関です。2016年には日本学研究センター(以下、RCJS)を設立し、大学内だけではなくスリランカ全土の日本語教育を向上させるために日々活動を行っています。

1.スリランカ日本語教育の向上のために ―ケラニア大学RCJSの挑戦―

RCJSはスリランカ国内の日本語教師のために様々な活動を行ってきましたが、2018年度は今までで最も活動的な一年でした。

まず、国立国語研究所(1)と協力協定を結び、その第一弾として、2018年10月にケラニア大学を会場に日本語学講習会を実施しました。また、その翌週には東京大学峯松信明教授によるOJAD(2)講習会を開催しました。こういった講習会を通して、教師や学生たちにスリランカにいながらにして、高度な言語学や音声学の指導が受けられる機会を提供することができました。

他にも、RCJSはスリランカの中等教育で使用する教科書の制作も手掛けています。2018年度は高校生を対象とした国定教科書『日本語の文字』を教育省から出版しました。他にも、国際交流基金の助成を受けて『Intercultural Communication Part2』を出版しました。

年を追うごとに活動を広げるRCJSは、これからも失敗を恐れず新しいことに挑戦し続けます。

2.学びを社会に還元するために ―ケラニア大学大学生たちの挑戦―

ケラニア大学では、スリランカ国内から集まった優秀な学生が、日本語を勉強しています。スリランカでは、今でも知識を詰め込む教育が主流ですが、大学に入ると学生は自分で考えて自ら行動する学びへのシフトチェンジを求められます。さらに、学内で学ぶだけではなく、学びを社会に還元することを要求されます。学生にとっては、毎日の大学生活が挑戦の連続なのです。

毎年行われる中学生を対象としたOレベルセミナーや各種交流会をはじめ、日本語科のイベントは日本語クラブのメンバーが中心になって企画、運営しています。

翻訳と録音作業に協力した学生たちの写真
翻訳・録音作業に協力した学生たち

その他にも、本年度はJICAの青年海外協力隊の方のご紹介で、多言語翻訳算数コンテンツ(3)の翻訳と録音作業をお手伝いしました。参加した学生たちは、自分の学んだ日本語を日本や海外に住む子どもたちに役立てることができました。

また、大学のビジネスの授業の一環として、今年初めてスリランカにある日系企業の会社訪問を実施しました。2019年度からは4年生後期にインターンシップを実施する計画もあり、大学在学中から少しずつ日本語を使って社会に出て働くためのトレーニングを行っています。

このような日々の挑戦によって、日本語だけではなく日本人と協力して働くためのスキルを身につけた学生たちが、将来、日本とスリランカを結ぶ人材として活躍してくれることを期待しています。

3.生徒の期待に応えるために -スリランカ日本語教師会の挑戦-

高校生でいっぱいになったセミナーの様子
ギャラリーまで高校生でいっぱいになったセミナー

スリランカの日本語教育を支えているのはケラニア大学だけではありません。スリランカの高校教師を中心に組織しているスリランカ日本語教師会(以下、教師会)もまた、日本語を学ぶ中高生のために様々な活動を行っています。2018年度も月ごとの定例会のほかに、教師を対象とした日本語教育セミナーと高校生を対象としたAレベルセミナーを実施しました。

特に、Aレベルセミナーでは教師会のコミッティーメンバーがSNSやメールを使ってスリランカ全土の高校に働きかけた結果、1,000人を超える高校生がセミナーに参加しました。この数は過去最高で、用意していた会場は席が足りず、急遽椅子を運びこむほどでした。生徒たちの大きな期待に応えようと、教師会も挑戦しつづけています。

4.新しい日本語教育を導入するために -アヌラーダプラ県の挑戦-

2018年度は特にアヌラーダプラ県の日本語教育が熱い1年でした。アヌラーダプラは古い遺跡の町として有名ですが、この地にも日本語を学ぶ学習者がたくさんいます。

ラジャラタ大学には在スリランカ日本国大使館からLL教室の寄贈が決まりました。それに合わせてシラバスも一新し、『まるごと』を主教材として日本語を教えます。また、ビックシュー大学は仏教系の大学で、お坊さんたちが課外授業として日本語を勉強しています。ここでもシラバスを改定し『まるごと』を使った授業が行われています。

この国で初めて『まるごと』を使うという新しい挑戦が、古い歴史を持つこの町で繰り広げられています。

留学生数も日本語能力試験受験者数も、そして国家試験であるAレベル試験やOレベル試験の日本語受験者数も年々増加しているスリランカ。数ある外国語科目の中で日本語を選んだ学習者が、もっと日本や日本語を好きになるように、そしてその日本語を使って自己実現できるように、新しい挑戦は今日も続いています。

(1)国立国語研究所:https://www.ninjal.ac.jp/
(2)OJADOnline Japanese Accent Dictionary):http://www.gavo.t.u-tokyo.ac.jp/ojad/
(3)多言語翻訳算数コンテンツ:http://tagengohonyaku.jp/

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケラニア大学日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベル以上のカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。そのため、教育省の依頼で、中学、高校における日本語教育のシラバス・教科書作成などにも大学講師が参画しており、中等教育においても多大な影響力を持つ。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講、2016年には日本学研究センターが設立された。日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。
所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部 現代語学科 日本語科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 課外講座:1978年
一般学位:1980年
  国際交流基金からの派遣開始年 1980年
 
コース種別
  一般学位コース、専門学位コース、選択コース、課外コース
 
現地(日本語)教授スタッフ
  常勤4名(内、邦人0名)、非常勤2名(内、邦人0名)、基金派遣専門家1名
学生の履修状況
  履修者の内訳 1年生32名、2年生22名、3年生30名、4年生13名
  学習の主な動機 日本語教師志望、日本留学、日本への興味・関心
  卒業後の主な進路 企業、日本語教育機関
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2からN1
  日本への留学人数 5名程度

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