世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) コミュニティ言語から外国語としての日本語へ

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
柴原智代・吉岡千里

ブラジルでは、日本からの移民が「母語として日本語の読み書きを学ぶ」学校を土台に、日本語教育が発展しました。日本からの移民の子孫を日系ブラジル人と呼びますが、1990年代になると、そのような日系人以外のブラジル人が日本語を学ぶようになってきました。つまり、ブラジルで日本語がコミュニティ言語から、「外国語としての日本語の地位」を獲得するに至ったのはここ20年あまりのことなのです。今回は、そのような外国語として日本語を学ぶ人たちについて紹介しましょう。


日本語クラスの写真
中等教育での日本語クラス

これは、サンパウロ州の公立中等学校の中にある外国語センターの日本語クラスでの1コマです。1つのクラスに13歳から16歳ぐらいまでの生徒がいるので、体の大きさがずいぶん違います。授業中にまんがを読んでいる子や、ずっと外を眺めている子もいます。楽しそうに生徒同士でインタビューしたり、前に出てホワイトボードに漢字を書きたがる熱心な生徒もいます。外国語センターは課外活動なので、成績を気にする必要もなく、のびのびとおおらかに学んでいます。

ブラジルの学校は、多くの子どもに教育を受けさせるため、午前・午後の二部制をとっているところが多く、希望者は開いている時間帯に外国語センターで勉強することができます。外国語センターは、中高生(11~18歳)なら誰でも無料で3年間勉強できます。ブラジルの中高生は第1外国語として英語かスペイン語を勉強しているので、それに加えて日本語を勉強しようと思う人は多くありません。日本語が勉強できる外国語センターも、ブラジル全体で34校しかないので、これから増えていくように、私たち国際交流基金サンパウロ日本文化センター(以下、FJSP)は、中等教育段階を重点的に支援しています。

写真のクラスでは、『ことばな』という教科書を使っています。これはFJSPがサンパウロ市教育局と協力して作成した教科書です。そのほか、3年間がんばって勉強を続けた中高生をサンパウロに招待して、3泊4日の日本語キャンプも実施しています。中等教育で教える教師への研修会も実施しています。

複数の外国語を学ぶことによって、多文化に対して寛容で、自文化に対して内省的な態度を育むことができると言われています。私たちFJSPは、日本語学習を通して世界市民を育成する手伝いをしたいと思っています。(柴原)

FJSPでは、2012年9月に日本語講座を開講し、2014年5月現在、第4学期目の後半を迎えています。FJSPではそれまで日本語講座がなかったので、日本語講座としての知名度が全くありませんでした。そのため、2013年は広報活動に力を入れました。

以前は、日本文化や日本語に興味がありそうなブラジル人一般に対して、幅広く広報活動を行っていたのですが、2013年からは主に会社員を対象に絞り込んで広報活動を行いました。具体的には、FJSPが入っているビル内の企業を訪問して営業活動をしたり、近くの会社で働いている人たちがランチをしそうな周辺のレストランに、せっせとチラシを置いてみたりしました。小さいことですが、写真のようにチラシをしおり型にして長く使ってもらえるようにしたり、QRコードを入れてみたりもしました。こうした努力の甲斐あってか、今学期は問い合わせ件数も申込者数も倍増しました。

JF講座の広報グッズの写真
JF講座の広報グッズ

日本語学習の動機がアニメやまんがという人は今も多いようですが、最近では「スキマ時間を有効活用したい」人たちが少しずつ増えてきたように思います。例えば、サンパウロにはホジージオという車の乗り入れ規制制度があり、ナンバープレートの末尾によって、ラッシュアワーの時間帯(7時から10時、17時から20時)には特定エリアに入れない曜日が決まっています。仕事の後、ホジージオの終わる20時まですることがないという人が、このスキマ時間を利用して日本語を勉強しに来ています。無駄になりがちな時間を、自分のスキルアップのために使う、そういう受講者がいるのもサンパウロの特徴かもしれません。

第4学期目に入ったので、『まるごと 日本のことばと文化』の入門編から継続している学習者は、今では初級2(A2)活動編を勉強しています。1学期の終了時にした、打ち上げ兼食事会では、日本語A1レベルの受講生と、ポルトガル語A1レベルの私とでは、アシスタントの現地職員を通さずには会話が成り立ちませんでした。それが、今では受講生と私だけでも話がはずむほどやりとりができるまでになりました。ほんの1年半前まで日本語のあいさつも知らなかったことを思うと、本当に感慨深いものがあります。

ブラジルでは、口コミが大きい影響力を持つと言われています。受講者たちに自信を持ってほかの人に当講座を勧めてもらえるように、満足度の高い授業を目指して、がんばっていきたいと思います。(吉岡)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブラジルの日本語教育の質の向上と学習者のすそ野拡大を図るべく、初中等教育の教師研修を重点的に行うほか、大学生や中高生を対象にサンパウロ招聘研修を実施し、学習者奨励事業も行っている。また、日系社会の日本語学校を支援している社団法人ブラジル日本語センターと協力して、年に数回教師研修のために地方に出張し、学校外教育も支援している。2012年度よりJF講座を開始し、現在のところ、入門クラスから初級2(活動・理解)クラスまで8クラス開講している。
所在地 Av. Paulista 37, 2o. andar, CEP01311-902, Sao Paulo, SP
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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