日本語専門家 派遣先情報・レポート
サンパウロ日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金サンパウロ日本文化センター
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ブラジル、南米の日本語教育を支援し、ネットワーク形成と質的向上を図っている。ブラジルでは初中等教育段階に対する教師研修、大学日本語講座支援(チューター育成等)、その他教師研修等を実施している。また、他団体や教育機関が主催する研修会への出講を通して、ブラジルの日本語学習者の大半が通う日本語学校に対しても支援をしている。学習者支援では、「みなと」ポルトガル語版コンテンツの開発、オンラインコースでのライブレッスン運営、イラスト・日本語ビデオコンクールも実施。南米スペイン語圏諸国に対しては、ネットワーク形成支援、日本語教育の現状調査、教師研修等を実施。
所在地
Av. Paulista 52, 3º andar, Vela Vista, 01310-900, São Paulo, SP, Brasil
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名 専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年
1994年

オンラインによる新たな繋がりの展開ーパンデミックを乗り越えて

サンパウロ日本文化センター
斎藤誠、権藤早千葉、山崎紀子

2021年は国際交流基金サンパウロ日本文化センター(以下、FJSP)に派遣されている日本語専門家が順次交替する年となりました。私たちは、現地専任講師の3名、事務職員とともに、チームで様々な業務にあたっています。派遣専門家3名はそれぞれ業務担当があり、日本語専門家2名はそれぞれ、ブラジル高等教育における「国境なき言語(Idiomas sem Fronteiras)」プロジェクト(以下、IsF)、南米スペイン語圏各国支援を担当、上級専門家は主にブラジル国内担当アドバイザーですが、FJSPが主催する教師研修、イベント、「みなと」オンラインコース運営など、専任講師と共同で実施しています。また、必要に応じて担当を超え、柔軟に共同で業務にあたる体制になっています。

「国境なき言語」への新たな支援(権藤)

ブラジルで海外留学促進を目的として2011年に始まった「国境なき科学」プログラムは、2014年には英語、仏語、西語などを主体に「国境なき言語(IsF)」と改編され、2016年には日本語が加わりました。その後、2020年に同プログラムの運営主体がブラジル教育省からブラジルの連邦大学の学長で組織されているANDIFES(連邦高等教育機関指導者協会) に移行したことにより、新たな体制と方式で再出発しました。JFは引き続きこのプログラムを支援することとし、2021年10月からオンライン方式による日本語講座が始まりました。パイロットコースとして、まず日本語学科を持つ5連邦大学の学生や教職員を対象に週4時間、計32時間の「入門1」コースを開設し、各大学のチューターが15のクラスを分担しています。教材は、オンラインに適した『いろどり 生活の日本語』「入門」を使用しており、今後「入門2」と「入門3」のコースを開設し、全3コースで「入門」の内容を習得します。5連邦大学限定にもかかわらず、10月の開講時には定員300名に対して、一日で約2倍の応募者があり、どのクラスにも空席待ちのリストが作られました。人気の要因は、(1)無料講座であること、(2)32時間で修了できること、(3)月曜から土曜の朝・昼・夜の時間帯が選べること、にあると考えられます。受講生のアンケートでは、日本語や日本文化への興味が一番の受講理由となっており、子供の時からアニメ・マンガに親しんでいる人が大半のようです。

2022年3月には『いろどり 生活の日本語』ポルトガル語版が公開されます。学習者だけでなく、チューターも、チューターを支援するコーディネーター教員も、この新しい教材を使うことによって、ブラジル全土に日本語教育の新しい地平を拓いていくことを期待しています。

オンライン授業参加者の集合写真
オンラインによる講座前研修に参加したチューターとコーディネーター

現場の変化と教師の学び、対話の価値(斎藤)

私はFJSP主催各種イベント、教師研修運営や「みなと」オンラインコース(ポルトガル語チューターコース)運営側面支援、ブラジル各地方の教師研修出講、機関訪問、教師相談など、いろいろな業務に携わっていますが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、ほとんどすべてオンラインで対応しています。

日本語の教材を使っている様子の写真
できるかな?(中学生林間学校にて)

教師研修で心がけていることは、参加者同士が話し合う時間を必ず入れることです。講師が話をするよりも、講師はファシリテーターとなり、参加者が自分と同じ目線の仲間と対話することで、新たな気づきやアイデアが生まれ、意識が活性化します。実際に参加者アンケートを見ると、「参加者同士で話し合えた/意見交換できたのがよかった」など協同・対話への評価、「様々な国・地方の先生に会える」などオンライン形式のメリット、「自分の授業を振り返ることができた」「足りない点がわかった」などメタ的に振り返るコメントを書いてくださる方が非常に多く、開催の意義を感じます。対面でなくても、オンラインでは距離に関係なくつながることができることがメリットとなっています。報告者である私たちも、間接的とはいえ南米各地の先生とつながることができていると感じています。

子どもの日本語教育(山崎)

南米の日本語教育(当初は国語教育)の歴史は日本人移民の入植から始まりました。現在はほとんどの入植地でスペイン語が母語に変わり、教育も母語としての国語教育から外国語としての日本語教育へとシフトしています。一方、学校、家庭、コミュニティでも日本語が使用されている地域も存在します。パラグアイの日系人コミュニティはこのように混在した環境にあり、子どもの学習者が多いことも特徴の一つです。日系人としてのアイデンティティが少しずつ薄れていく中、日本語の学習が子どもの人間形成にどのように関わっていくことができるかが大きな課題となっています。

そこで今回はパラグアイの教師を対象に実施した「子どもCan-do」の研修について、少しご紹介したいと思います。「子どもCan-do」はFJSPとブラジルの教師が共同で開発したツールで、そこには教育理念から言語構造まで、一連のつながりがある記述がすべて含まれます。

事前課題では各学校の教育方針に基づいて、子どもに身につけてほしい能力や資質を考えてもらい、研修ではそれを深めるために子どもの教育に必要なことについて話し合ってもらいました。そこでは「思いやり」「考える力」「自分らしさ」などのことばが出てきました。日本語教育と関係がないのではと思われるかもしれませんが、育成したい能力からそれを体現するための場面、その場面から日本語でできる場面が考えられるのです。

子どもの日本語教育は多くの南米の国で行われており、そこでは日系、非日系の子どもたちが勉強しています。その土地や学校、子ども個人個人に合った教育が必要ですが、日本語教育が「人を育てる」ことと関わっていかなければならないことは共通しています。

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