世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フランス全土への「日本」発信基地になるべく

国際交流基金パリ日本文化会館
蜂須賀 真希子

 昨年開館15週年を迎えたパリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon a Paris 以下MCJP)は、その名のとおり、フランスに日本文化を発信する総合文化施設として設立されました。芸術の国フランスの目の肥えた来館者をうならせる展示や舞台、講演会。そして実際に日本文化を体験したい方々向けの生け花、書道、囲碁といった教室事業、時には日本食の料理講座などが行われています。フランスと日本は、その文化は大きく異なっていても、お互いにその文化的魅力を認め合う国として存在しているのではないでしょうか。

地方都市への日本語教師支援の展開

 MCJPはフランスの首都パリ、エッフェル塔のすぐ近くにあります。これまでも日本語教育の情報発信は行ってきていますが、どうしてもパリ中心になってしまっていました。しかし、パリには日本料理店が軒を連ね、日本ブランドの大手衣料品店があり、日本映画を見ることもできます。日本語学習者が「日本」に接することは、そんなに難しいことではありません。一方、フランスの地方都市ではパリのように頻繁に「日本」と接することは、まだまだ難しいのが現状です。地方の先生方から日本文化を紹介したくても、なかなか機会に恵まれないという悩みを聞きます。フランスと日本の文化交流は活発ではあるものの、まだまだパリへの一極集中のような気がします。また、2012年度にバカロレア(高校卒業資格)の試験方式が大きく改定されました。それも踏まえ、日本文化の紹介のみでなく、日本語教育に関する情報提供がますます重要になってきています。

 そこで、地方都市の日本語教育現場に少しでも貢献できればと、2013年1月~3月に地方都市を回り、中等教育システムの概要、バカロレアの改定、さらにはその背景にあるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)の概要までをお話しする研修会を開きました。そして、JFスタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』を紹介し、教室活動の具体的なアイディアを話し合う研修会を開催しました。

 当初こちらが参加者として想定していたのは、バカロレアを受験する生徒を受け持つ中等教育の先生方でした。しかし、実際に広報を始めてみると、バカロレア受験を控える生徒に日本語を教えているのは、中等教育の先生方ばかりではなく、一般のフランス人に向けて日本語講座を開設している「アソシエーション」と呼ばれる団体に所属する先生方や日仏家庭の日本人の親御さんも情報を獲得できず困っているという現状が分かってきました。そして、このような研修会を開くことで、直接参加してくださった先生方への情報提供にとどまらず、その地方のネットワーク形成につながり、地方都市からも日本語教育が盛り上がりを見せるのではないかと、期待しています。

MCJPの日本語講座

MCJPの日本語講座の写真
MCJPの日本語講座
俳句講座受講生の作品の写真
俳句講座受講生の作品
(赤いシールは人気投票の結果、折り紙で
作ったお花は俳句の先生が選んだ特別賞)

 MCJPでは2011年10月より『まるごと 日本のことばと文化』を使った日本語講座を開設してきましたが、2012年10月に大幅に講座数を増やしました。受講生数は順調に伸び、2013年4月開講講座で初級から上級までの全13クラス合わせて約130名が在籍しています。また、MCJPでは年3回日本語・日本文化講座を開催しています。前回は日本から若手の俳人をお迎えし、俳句講座を開催しました。受講条件は「ひらがな・かたかなが書けること」で、日本語自体のレベルは不問です。集まった受講生は、入門者から日本語ペラペラの上級者まで、さまざまでしたが、特に、日本語学習をはじめて数か月の受講生が、5・7・5の俳句を上手に詠み、日本語のボキャブラリーが少なくても、感性豊かな俳句を詠んでみせたことに、日本からいらっしゃった俳句の先生は、深く感心していらっしゃいました。

そして、このような日本語講座の各学期の申し込みは必ずキャンセル待ちが出る盛況ぶりで、私立の日本語学校や、大学など、日本語学習の機会に恵まれているパリでさえ、これだけの潜在的な学習者の存在に驚かされます。そうなると、地方で日本語を学びたくても学ぶ場所がない、先生がいないと学習を諦めてしまっている人はどれくらいいるのでしょう。こういったことからも、地方都市への日本語学習者支援の必要性に思いを馳せずにはいられません。

地方の学習者の掘り起し、そして、教師支援。これが、これからのキーワードとなっていくでしょう。そして、フランス全土への「日本」発信基地になるべく、今後も活動し、日本語教育を盛り上げていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は、1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談の実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、スピーチコンテストの実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75740 Paris Cedex 15, France
国際交流基金派遣者数 上級専門家1名、専門家1名、指導助手1名
アドバイザー派遣開始年 2005年
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