世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ニーズ・状況に合わせた日本語学習支援

国際交流基金パリ日本文化会館
近藤裕美子・三矢真由美

パリ日本文化会館(以下、会館)では、様々な日本語事業を展開していますが、今回は特に「日本語学習支援」について焦点を当ててご紹介します。(過去の記事もご参照ください。)

1.「高校生日本語プレゼンテーション発表会」

以下の人物をご存知でしょうか?

【藤田嗣治、稲畑勝太郎、エミール・ギメ、山田菊、中江兆民、岡本太郎、宮本茂】

発表会のポスターの写真
発表会のポスター
(日仏高校生の共同作業のイメージ)

これらの人物は、2019年2月に行われた「第3回全仏高校生プレゼンテーション発表会」で出場チームが取り上げた人物です。今回は「ジャポニスム2018」の公式イベントでもあり、「日仏交流 この人に注目! --ジャポニスム2018につながる人と歴史」をテーマに、フランスで日本語を学ぶ高校生4校と、ゲストとして日本でフランス語を学ぶ高校生3校(2校は動画出演)が、2-3人のチームで10-15分の発表をしました。

世界各地で弁論大会などの日本語学習成果の機会がありますが、この発表会は特徴的です。参加者が日本語力を競い、それを評価することが目的ではありません。各参加者がチームで協力し合いながら、日仏をつなげた一人の人物について情報収集をし、その生き方や自分たちを含む後世への影響などついて批判的に分析をした上で一つのプレゼンテーションにまとめていく、その過程が学びであり、発表会当日はその成果を共有する場になることを目指しています。

参加する高校生たちにとって、約300人が収容できる大ホールでの発表は、初めての経験であり、大きなチャレンジです。会館日本語事業は、そのチャレンジを支援するために、人物選びに参考になる資料の提示、発表資料の準備、プレゼンテーション方法など準備段階や学びのプロセスに対してのサポートをしています。また、イベント自体を「高校生同士のつながりの場」とするため、各校の発表後に参加者がステージ上に一堂に会す「座談会」やイベント後の懇親会の時間を設けています。加えて、コメンテーターとのやり取り、会場からの付箋でのフィードバックなど、発表会に集まった人々が様々な形で発表会に参加する工夫もされています。

このような形で、教室での日本語学習を超えて、次世代を担う日本理解者のネットワークづくりや日本語でつながる場を企画することもアドバイザー事業の大切な業務の一つです。

2.「変わりゆく日本語教育、変わりゆく講座」

会館の日本語講座は2011年に『まるごと 日本のことばと文化』を使ったモニター講座として始まりました。2クラス、わずか18名の受講生でのスタートでした。それから8年、開講レベルもA1からB1までに広がり、受講者数も多いときで250名を超える講座へと成長しました。

橋渡しクラスの様子
橋渡しクラスの様子

一方で日本語教育の流れに目を向けると、学習者を取り巻く状況はこの数年で大きく変化しつつあります。最も大きな変化は、学習者の学習目的の多様化にともなって、学習の場が教室からインターネットの世界へ広がっていったことではないでしょうか。会館の新規受講生も以前は日本語学習経験ゼロの人が大半でしたが、最近ではネットなどを通して独学で日本語をかじったことのある人が増えてきました。会館の講座もこの時代の変化に対応していくために、あらたな取り組みを始めようとしています。その一つが、講座の重点をA1やA2からA2/B1以上へシフトさせる取り組みです。国際交流基金が開発したeラーニングプラットフォーム「みなと」上に「まるごとオンラインコース」が開講し、初級レベルは比較的学習しやすくなりました。そこで会館のA1からA2のレベルは今後オンラインコースをメインとし、その代わりにA2/B1以上のレベルを充実させていくことにしたのです。その第一歩として現在行っているのが、A2/B1からB1への橋渡しクラスの実施です。A1から「まるごと」で育った受講生を見て感じるのは、ある特定のcan do(課題遂行活動)はできるけれど、個々のcan doを超えたところにあるべき能力がまだ十分に身についていないということです。そこで、これまでcan doを通して学んできたことを別の文脈でもう一度学習し、体系化していく必要があるのではないかと考えました。それと同時に、B1にスムーズに移行していくためにB1に必要とされるストラテジー能力を少しずつ身に着けていく必要性も感じました。現在、このクラスでは、速読、シャドーイング、ロールプレイ、読解、漢字をメニューとして用意し、それらをいくつか組み合わせて行っています。

近い将来、講座にはA2まで異なる機関や学校で勉強した人が外部から入学してくるケースが増えるでしょう。それだけ受講生のプロフィールが多様化することになるわけですから、その多様性が会館の講座をますます魅力的なものにしてくれるといいなと願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談等の教師支援、フランス人の若者を対象とする日本語教師育成事業、JF日本語教育スタンダード準拠日本語講座や日本語・日本文化の関連講座の運営・実施、高校生日本語プレゼンテーション発表会等の学習奨励事業、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。また、オンラインを活用した新しい事業展開を進めている。
所在地 101 bis, quai Branly 75015 Paris, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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