世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 未来の日本語教員、育てています!
国際交流基金ケルン日本文化会館
榛葉久美・式部絢子
中等教育で日本語を学ぶ
ドイツ国内の日本語学習者は14,393人(2012年統計)で、最近は若い層の学習者の増加も顕著です。現在ドイツ全国では60以上の高校で日本語が教えられています。アニメ、マンガ、武道や音楽、ファッション、和食などの日本文化は、高校生たちを惹きつけており、潜在的な学習希望者は少なくありません。
中等機関の日本語クラブ20周年記念式典
現在ノルトラインヴェストファーレン州(以下、NRW州)のギムナジウムでは、9校で基礎科目として日本語科目が開講され、AG(クラブ活動)を加えると14校で日本語が教えられています。1999年には国内全州の教育大臣会議で日本語がアビトゥア(大学へ進学するための資格試験)の試験科目として認可され、NRW州内では、2004年から日本語でのアビトゥア受験が始まりました。2014年にはNRW州内で22人が日本語でアビトゥアを受験しています。
若い学習者の増加に合わせ、NRW州では、2011年からケルン大学(学士課程から)で、2014年からボーフム大学(修士課程から)で日本語教員養成課程が始まりました。各大学で養成課程が修了すると、ドイツの中等教育機関で日本語を教える資格が得られる仕組みです。
ノンネイティブ教師を育てる ~教員養成のヒトコマ~
そこで、ケルン日本文化会館(以下、当館)ではケルン大学の教員養成課程の学生を受け入れる取り組みを2014年10月より始めました。ケルン大学は、修士課程の学生が経験を積む場を必要としてことから、当館での見学実習のカリキュラム化が実現し、当館で行われる日本語講座を一定期間見学してもらうことになりました。
「一つのコースを通して、学習者の学習課程を実際に見る」ことをコースの目標とし、以下の要領で見学実習をスタートさせました。
- ①当館日本語講座のGrundstufe1(初めて日本語を学ぶクラス)を見学(週2×13回)
- ②フィードバック(週1×13回)
日本語講座
授業見学には私たちも毎回同席し、見学した内容についてフィードバックするという流れで行いました。初めは、学生からどのような意見、感想、疑問が出るかあまり想像がつきませんでしたが、「このアクティビティはなぜやったんでしょうか?」、「この練習方法の目的は何でしょうか?」など、疑問が続出し、毎回質の高いディスカッションとなりました。
見学実習に参加したケルン大学のAさんとKさんに、話を聞きました。(原文のまま掲載)
Q1: 日本語学習者を間近に見て、どうでしたか?
- Aさん:
- とても面白かったです。皆さんがすごくやる気があって、授業を楽しんでいるようでした。学習者の日本語能力もかなり進歩したと思います。クラスの雰囲気はとても心地良かったです。それは学習することにとって大事だと思います。
- Kさん:
- 学習者を見ることがとても面白かったです。学習者が日本語を勉強する理由がいろいろあると気がつきました。それはモチベーションを保つために必要だと思います。ドイツ人としては日本語はヨーロッパ語族に比べて、勉強することが難しいと思います。それから、モチベーションがない学習者は早く学習をあきらめてしまうと思います。
Q2: この科目を受講して、どんなことを学びましたか?
- Aさん:
- この見学実習の印象は終わってから数ヶ月後も残りました。そのとき学んだことの一つは教授法の多様性です。さまざまな教授法で日本語を学ぶアプローチの必要が分かりました。いろいろな練習とアクティビティは、学習者の学習意欲を高く持ち続けていることも分かりました。これは特に大切なことでしょう。
- Kさん:
- 学習者は初めから日本語で話すことが必要だと学びました。そうしないと、学習者は日本語を話すことが難しくなります。ケルン日本文化会館のコースは、最初のレッスンから学習者に日本語を話させていたのでよかったです。
Q3: お二人の日本語教師像を教えてください。
- Aさん:
- 私にとって教師の役割はいくつかあります。一つ目は学習の補助と手本になる役割です。二つ目は相談役です。三つ目はフィードバックと評価をする役割です。この三つの役割は同じ目標を目指しています。その目標とは学習者を、自立的で自信をもって日本語を話せる人にすることです。つまり、教師として学習者の成功のために、その役割を全部果たす必要があると思います。
- Kさん:
- 私の日本語教師像の必要なことが三つあります。第一は日本の言葉や文化に本当に興味を持っていることです。興味をもったら、日本語教師は確かに日本語や日本文化をうまく教えることができます。第二に、クリエーティブで自然な人だったらいいと思います。第三は自信を持って日本語を使えることが必要だと思います。
次に、フィードバックを担当していた当館の常勤講師に話を聞きました。
Q1: フィードバックはどんなふうに取り組んでいたのですか?
見学に来る実習生に、先入観を持たずに見てほしかったので、事前に指示をしたり課題を与えたりはしませんでした。見学者から出たポイントに対して、議論すると言った形で進めました。
Q2: 実際のフィードバックでは、どんなポイントで議論になりましたか?
学生からの疑問点は、教材や授業の進め方が多かったです。
Q3: このコースを提供して良かったと思った点は何ですか?
自分も学生と一緒に授業見学をし、フィードバックの際に振り返ることができたことが新鮮でした。今後、中等教育機関で働くことを目指している彼らですが、学校機関以外(当館のコースは成人教育機関)での日本語クラスを継続的に見てもらえたことはいい経験になったと思います。それから、フィードバックの時もドイツ語ではなく、日本語で行ったことも彼らには大きな意味があったと思います。
Q4: 今後、彼らに期待することは何ですか?
使用言語を問わず、ドイツ語でも日本語でも日本語教育について語り合える教師になってほしいです。それから、当館の教師研修会にもどんどん参加して欲しいです!
ドイツの日本語教育を担う若者たちに期待
いかがでしょうか。今後ドイツの中等教育を担っていく学生の頼もしさが伝わって来ませんか? 2017年にはボーフム大学から、2018年にはケルン大学から養成過程を修了した、日本語教員が誕生します。
彼らの活躍できる場を広げるため、私たちは、ドイツの中等教育機関に日本語科目設置のためのアドボカシー活動を進めています。その活動の一環として、NRW州のどこで日本語が学べるのか、また日本語を学ぶ学生のインタビュー記事、写真を載せたパンフレットを作成し、ドイツ国内の中等教育機関に送っています。興味を持った学校の校長先生の仲介により、今年の夏に近隣の校長先生が集まる会議において、プレゼンテーションをする機会を設けていただけることになりました。
まだ始まったばかりのプロジェクトですが、少しずつ実を結び始めています。5年先、10年先のノンネイティブの日本語教員がどのように育っていくのか、今から楽しみです。今後の彼らにどうぞご期待ください!
派遣先機関名称 | 国際交流基金ケルン日本文化会館 |
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The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation) | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
ケルン日本文化会館はドイツ語圏における日本語普及事業の拠点として、日本、日本語、日本文化の理解促進を目的に多様な活動を行っている。1970年から一般社会人対象の日本語講座を開講しており、現在ゼロ初級から上級まで約240名が日本語を学んでいる。通常の日本語コースだけでなく、日本文化体験コース、テーマ別コースなども開講し、様々なニーズに対応している。日本語講座運営の他に、研修会の企画・開催を通した教師支援、日本語能力試験などによる日本語学習者の支援、日本語教育に関する情報の収集と提供などを行っている。近年では地元機関と協力して行う各種催し物を通して新規学習者の発掘や広報にも力を入れている。 |
所在地 | Universitaetsstr 98, 50674 Cologne, Germany |
国際交流基金からの派遣者数 | 上級専門家:1名 専門家:1名 |
国際交流基金からの派遣開始年 | 1985年 |