世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語学習のコミュニティ

ケルン日本文化会館
榛葉久美(日本語上級専門家)・平川俊助(日本語専門家)

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気軽に楽しく話すことが上達への道です

ケルン日本文化会館(以下、JKI)は、多様なニーズに応えるべく色々なタイプの日本語講座を提供しています。

楽しみながらもしっかり日本語能力を身につけたい方には、週2回の『本コース』と週1回の『土曜日コース』。ちょっと日本語を試してみたい方には1回学びきりの『入門体験講座』がおすすめ。『文化体験講座』では、日本語レベルに関係なく誰でも日本文化の体験ができます。『テーマ別講座』は、「若者言葉」「アニメ・マンガの日本語」「歴史の日本語」などの、JKIならではのテーマで日本語が学べます。

そして、これらの中でも高い人気を誇っているのが「日本語しゃべりーれん(以下、しゃべりーれん)」です。
「しゃべりーれん」は、日本語学習者と日本人ボランティアが集まり、日本語で自由に会話をする「おしゃべりサロン」です。日本語を学んでいる方であれば誰でも参加できます。ちなみに「しゃべりーれん」とは、「しゃべる」という日本語をドイツ語風にアレンジした造語ですが、参加者の間ではすっかり定着しています。

「しゃべりーれん」は2011年5月に始まって以来毎月1回のペースで開催され、2017年6月で68回目を迎えます。参加者数が10名弱・・というのは過去の話で、今では毎回約60名の参加者が集まり、キャンセル待ちが出るほどです。今回はその人気の秘密に迫るべく、3名の「常連さん」にインタビューをし、「しゃべりーれん」の日本語学習への効果とその魅力について聞いてみました。

「しゃべりーれんは、言葉の知識を鍛える場」

参加回数が40回を超えるBenediktさんは、日本留学を経てもっと自分の言いたいことが話せるようになりたいと思い参加した、と言います。「しゃべりーれん」の日本語学習の効果について、次のように語ってくれました。

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常連さんも多いですが、初参加でも楽しめますよ

「しゃべりーれん」では、日本語の流暢さに加えて、会話をリードする力が身についたと思います。また、カジュアルな雰囲気で会話ができることが楽しいです。いわゆる友達言葉もしゃべりーれんで上達しました。」
また、「しゃべりーれん」の魅力は、「新しい世界観との出会い」にあると言います。

「新しい人や新しい世界観に出会えることが魅力です。日本人の考え方を聞いたり、ドイツやドイツ語のことを伝えたりしていたら、改めて自分の考え方や文化を意識するようになりました。」
続いての常連さんはMichaelさん。

「初参加の時は、話す力と聞くと力を伸ばすために参加しました。今の自分にとっては、「しゃべりーれん」は言葉の知識を鍛える場所、つまり勉強した表現を自然な会話の中で使ったり、自分の日本語が正しいのかを確かめたりする機会になっています。」と語ってくれました。
また、「しゃべりーれん」を通して、外国語を使うことの考え方が変わったと言います。
「以前は間違えることが怖かったけれど、今では、自分ペースでとにかく伝えたいことを口にするのが大事と思うようになりました。」

「しゃべりーれんは1つのコミュニティ」

3人目は2017年6月で参加回数が50回になるAnnaさん。参加のきっかけは会話力を上達させるためだったそうです。

「初めて参加した時は話すことに慣れていなくて、2時間がとっても長く感じました。だんだん慣れてきて、4、5回目の時には、勉強した日本語が使える!という嬉しい実感がありました。」

「日本語が通じたことで自信がついて、それがモチベーションになって、その後の勉強がもっと楽しくなって、また「しゃべりーれん」に参加したくなる、という理想的なサイクルがあります。」

また、今のAnnaさんにとって「しゃべりーれん」は、語学訓練の場以上のものになっているようです。

「今では、日本語を使う場としてだけでなく、情報交換をしたり新しい友人を作ったり、私にとって1つのコミュニティになっています。」

今回インタビューに協力してくださったのは、楽しみながらも自分の伸ばしたい能力をしっかりと意識している、いわゆる「語学学習の達人」です。彼らにとって、「しゃべりーれん」は、聴解力、流暢さ、動機づけ、モニタリング能力、談話能力、異文化理解能力など、結果的に様々な言語能力を伸ばす機会となっているようです。

言語学習が成功するポイントの1つに「社会ストラテジー」というものあります。リソースや協力者を見つけるなど、社会と関わることで学習効果が高まると言われています。「しゃべりーれん」には、こうした学習のエッセンスが詰まっているのではないでしょうか。

昨今、インターネットのおかげで、教室へ行かなくても語学学習ができる時代になりました。そんな今だからこそ、私たち日本語教育機関が力を入れるべきなのは、こうしたコミュニティを作ることなのかもしれません。

(執筆者:平川)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケルン日本文化会館はドイツ語圏における日本語普及事業の拠点として、日本、日本語、日本文化の理解促進を目的に多様な活動を行っている。1970年から一般社会人対象の日本語講座を開講しており、現在ゼロ初級から上級まで約300名が日本語を学んでいる。通常の日本語コースだけでなく、日本文化体験コース、テーマ別コースなども開講し、様々なニーズに対応している。日本語講座運営の他に、研修会の企画・開催を通した教師支援、日本語能力試験などによる日本語学習者の支援、日本語教育に関する情報の収集と提供などを行っている。近年では地元機関と協力して行う各種催し物を通して新規学習者の発掘や広報にも力を入れている。
所在地 Universitaetsstr 98, 50674 Cologne, Germany
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1985年
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