世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語アドバイザーの仕事って何ですか?」

アイルランド教育科学省
近藤 裕美子

アイルランド第2の都市Corkにての写真
アイルランド語の学校でも日本語が学ばれています!
(アイルランド第2の都市Corkにて)

 アイルランドに国際交流基金の日本語専門家が日本語アドバイザーとして派遣されるようになったのは2005年。日本語アドバイザーは、アイルランド教育科学省(Department of Education and Skills, Ireland)管轄の、中等教育機関に新しい外国語を普及することを目的としている部署「Post Primary languages Initiative(以下、PPLI)」に所属していますが、中等教育での日本語教育のサポートを中心にアイルランドの日本語教育に関する様々な活動を行ってきました。

 私が、2011年7月に3代目の日本語アドバイザーとして着任してからもうすぐ1年。こちらに来て、「日本語アドバイザーの仕事って何ですか?」「日本語を教えるんじゃないんですか?」と聞かれることも少なくありません。業務は多岐に渡るので説明をするのが難しいのですが、一言で言えば「お客様/クライアント(アイルランドの日本語教育関係者)のニーズに応じて、それを形にして行くお手伝いをする『何でも屋、コンサルタント』」でしょうか。ここでは、その一部をご紹介したいと思います。過去の日本語アドバイザーの活動とあわせてお読みください。

PPLI/中等教育の日本語教育に携わる先生方との仕事

 PPLIは2000年に立ち上げられた組織で、フランス語・ドイツ語以外の新しい4つの外国語(スペイン語、イタリア語、ロシア語、日本語)の教育を中等教育機関で普及・発展させていくことを目的としています。ヨーロッパでは複言語複文化主義の影響が外国語教育政策に反映されつつありますが、PPLIもアイルランドの外国語教育政策のもと、上記4言語で様々な取り組みを行っています。そして、全てを統括するナショナル・コーディネーターとそれぞれの言語のアドバイザーや担当者が協力して、各言語のプロジェクトや支援を進めています。

 日本語アドバイザーもこれまで、そのときの状況に応じて、教材作成や教師研修などに関わってきました。現在、特に求められているのが、先生方へのサポート。メールや電話での問い合わせに応じるほか、ほぼ毎週、日本語が教えられている高校を訪問し、日本語の授業を見学しながら、コースデザインや授業の進め方、テスト作成、Leaving Certificate(高校卒業資格試験、大学入試に相当)のための指導法などについて話し合いをしたり、相談に応じたりしています。

 日本語の先生方へのサポートが中心なので、クラスで直接教えることはほとんどありませんが、日本語のクラスを訪問し、日本語を学ぶ高校生たちの様子を直接見ることは、アイルランドの状況にあった支援を進めて行く上で、大変参考になります。また、9月の新学期には「こんにちは。〜です。」とだけ、恥ずかしそうに言っていた生徒たちが、数ヶ月後に再度訪問したときには、日本語でいろいろインタビューをしてきてくれる様子などを見ると、とても嬉しくなります。せっかく日本語を選んでくれたそんな日本語好きの高校生たちのために何ができるかを日本語の先生方と考え、またPPLIの組織としてどのようなサポートができるかを具体的な形にしていくのも日本語教育アドバイザーの仕事の一つです。

アイルランド日本語教師会(JLTI)との仕事

Firhouse 高校のShelley Martin先生の授業の写真
授業のあとでみんなの自己評価チェック!!
Firhouse 高校のShelley Martin先生の授業)

 JLTIは1999年にされましたが、教師会としては小規模ながらも、日本語弁論大会の開催、年数回のセミナーや勉強会などを積極的に進めてきました。日本語アドバイザーは、JLTIからの要請で、セミナーの講師を担当したり、日本語弁論大会で審査員をするなどの形で協力しています。

 現在、JLTIPPLIの協力のもと進めているのが中等教育段階の学習者向けの日本語版のELPEuropean Language Portfolio)の作成で、ITに慣れ親しんでいる高校生向けということもあってインターネット上で活用できるように工夫されています。作成はJLTIの会員で行われてきましたが、JLTIからの要請で日本語アドバイザーも校正作業に関わらせていただきました。

 日本語アドバイザーとは言え、日本語教師やアドバイザーとしての経験はあっても、ELP作成のようなプロジェクトに関わるのは初めて。試行錯誤をしながら、自分の持っている知識やこれまでの経験がお役に立てればと思って協力しましたが、サポートというよりはこちらも大変勉強になる仕事でした。

 さて、日本語アドバイザーの仕事とは何でしょうか? このようにアイルランドで長く日本語教育に携わり、アイルランドの日本語教育事情に精通している関係者の方々の要望に応えるため、自分の持っている知識や経験を活かしていくのはもちろんです。でもそれ以上に、新しい環境の中でアイルランドの日本語教育関係者の方々と一緒に考えながら、学びながら、前に進んで行く仕事だと今は感じています。『何でも屋』『コンサルタント』でもありますが、むしろ仕事的には『伴走者』や『コーチ』というのがぴったりかもしれませんね。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 アイルランド教育科学省 ポスト・プライマリー・ランゲージ・イニシアティブ
Department of Education and Skills, Ireland  PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関、Post Primary Languages Initiativeは、教育技術省のもとNational Development Planの予算で2000年に設立された。中等教育機関で外国語として教えられていたフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)を促進・支援している。国際交流基金派遣専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Adviser's office: School of Applied Languages and Intercultural Studies, Dublin City University, Dublin 9 PPLI office: Marino Institute of Education, Dublin 9
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年~2007年、2008年~
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