世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)北緯53度の国、アイルランドの日本語教育

アイルランド教育技能省
原田明子

アイルランドの首都ダブリンは、リフィー河で北と南に分かれています。河には、いくつもの橋がかけられており、そのうちの一つ、美しいデザインのサミュエル・ベケット橋を渡って、私はオフィスに通っています。ベケットを含め、アイルランドは4人のノーベル文学賞者を輩出しており、人々はそのことを誇りに思っているようです。長きに亘り英国の支配下に置かれ、ヨーロッパ最貧国の1つに数えられたアイルランドでしたが、EC発足後は英国とも対等な関係を持てるようになり、奇跡の経済成長と言われたケルティックタイガーを経て、ダブリンは今多くのテクノロジー企業のスタートアップの場所となっています。

元々の言語はケルト語、つまりアイルランド語で、全ての標識や文書は英語との二か国語併用(共に公用語)です。アイルランド語は小中高校で必修科目であり、またゴールウエイ近郊では実際にアイルランド語で生活している人々もいます。従って、外国語を学ぶ場合アイルランドの学生にとって、それは3番目の言語となるわけです。現在中等教育では、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、ポーランド語、日本語、中国語など多くの言語が選択科目として教えられています。

日本語を選択する学生の興味は、アニメやゲームであることが多く、彼らは本当によく知っています。日本語プロモーションの一環として、今年から高校1年生を対象に日本文化に関するクイズ大会を4つの地区で開催しました。トピックは日本のスポーツ、祭り、食べ物、アニメ、Jポップ、地理などでしたが、アニメや音楽関係の問題は正答率も高く、どの会場も大変な盛り上がりでした。

日本語プロモーションのブースにての写真
日本語プロモーションのブースにて

発表された言語政策の冊子の表紙写真
発表された言語政策の冊子

さて、アイルランド外国語教育関係者にとって、今年は記念すべき年でした。それは、10年近く待っていた言語政策(正確には言語ストラテジー)が発表されたからです。これにより、私が働いているPPLIPost-Primary Languages Initiative)では予算や人員も増え、仕事の内容も大きく変わろうとしています。日本語もどのようにプロモーションすべきか、今後を見据えてしっかりと戦略を立てる必要があります。ヨーロッパ言語と比べると、どうしてもマイナー感のある日本語を身近なものに感じてもらうために、2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピックをうまくPRしながら、日本語や日本文化の魅力を発信していければと考えています。

アイルランドに日本語専門家は一人しかいないので、仕事は多岐に亘ります。主な仕事は高校の日本語教師のサポートであり、学校訪問や模擬授業、リソースの開発、教師トレーニング、セミナー開催、日本語力アップの勉強会などを定期的に行います。また、大学や日本人補習校、大使館と協力したJETプログラムのサポートもします。英語圏のため日本からの交換留学生やワーキングホリデーの若者も多く、彼らを日本語クラスにボランティアとして送る枠組み作りも始めました。一人でも多くの学生が日本や日本語に興味を持ち、いつか日本とアイルランドの懸け橋となってくれるように願いながら、日々活動しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Department of Education and Skills, Ireland
(PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
Post-Primary Languages Initiativeは、教育技術省のもとNational Development Planの予算で2000年に設立された。中等教育機関で外国語として教えられていたフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に始まったが、現在ではフランス語、ドイツ語、Sign Language,ポーランド語も加えた現代語教育発展のために支援を行っている。国際交流基金日本語専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Post-Primary Languages Initiative, Marino Institute of Education, Griffith Avenue, Dublin 9, Ireland
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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