世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育サポートのあれこれ

アイルランド教育技能省
原田明子

皆さんも知っているように、アイルランド島はイギリス領である北アイルランドを含んでいます。1997年のベルファースト合意でようやく紛争に終止符が打たれ、平穏な毎日が訪れましたが、イギリスのEU離脱によりこの国境線がまた問題となっています。EU圏内はヒト、モノの移動が自由ですが、Brexitにより何らかの処置が必要になるというわけです。私も何度か車で国境を越えましたが、標識がマイル表示に変わるだけで他に何のサインもなく、外国に来たという実感は全くありません。今後のEUとイギリスの動向に目を配りつつ、より良い解決策が見つかることを心より願っています。

さて、私が実際に仕事を行っている機関PPLIPost Primary Languages Ireland)ではこの一年多くの変化がありました。人員が倍以上に増え、名称やウエブサイトが新しくなり、そしてこの7月には事務所も移動します。メインの仕事は、一言でいえば外国語教育の普及促進とそのサポートですが、そのためにSNSを駆使して多方面のチャンネルに訴えかけながら、様々なイベントやセミナーの企画・実施、教師のスキルアップ研修、広報用の冊子作成などを行っています。また、日本語をはじめ、ロシア語、ポーランド語、リトアニア語、韓国語などの各教師はPPLIに雇用されているので、この時期は彼らのスケジュール作成も大きな仕事です。ひとりの教師が3,4校を掛け持ちすることもあり、各校の時間割と睨めっこしながらパズルの駒を埋めていくような作業となります。

2018年は高校一年生向けにJapan Quiz Nightというイベントを立ち上げましたが、2019年は新たに高校3年生向けにオーラルワークショップを試験直前に2回開催しました。アイルランドには日本のような大学入試がない代わりに各科目とも高校卒業試験(Leaving Certificate)があり、特に外国語は筆記、聴解、作文に加えて口頭試験を含みます。これを苦手とする学生がとても多く、先生方から何とかならないかと相談を受けていたので、ダブリン市立大学の日本人留学生に協力してもらい、本番さながらのセッションを組んで学生が何回も練習できるようにしました。1、2回目共に50人程度の学生が集まり、大成功でした。その他、TY(Transition Year)向けのJapan Weekで剣道、書道、折り紙、J-POP、着付けなどの文化体験も行いました。男子学生が多かったのですが、皆とても興味をもって参加していました。

PPLIのスタッフ全員の写真
PPLIのスタッフ全員で

日本文化体験、書道のクラスの写真
日本文化体験、書道のクラス

アイルランドで日本語を学ぶ場所は、高校と大学だけで民間の学校はほとんどありません。そんな中、ラグビーワールドカップの影響かFurther Education Instituteと呼ばれる地域のコミュニティスクールで入門向けのクラスがいくつか開講されました。そのうちの1つを訪れ、 日本語や日本文化のレクチャーをしました。受講生は全て社会人で、今秋ワールドカップを見に行くのでその前に少し日本語を勉強したいというカップルも2組ほどいました。数字やカタカナ導入の際には、ワールドカップ関連の資料を使って日程や国の名前を考えさせるタスクを行ったところ、とても盛り上がりました。アイルランドは予選プールAで日本と同組なので、カタカナが読めなくても推測で国名を当てている人も見られました。既に持っている知識や推測力を駆使することは言語を学ぶ上で重要な要素であり、楽しくゲーム感覚で学習を進めることは特に入門・初級期の学習者には効果的だと実感しました。

JETプログラム(ALT外国語指導助手)は今年33回目を迎え、50ヵ国を超える国から5500人もの人々が参加する一大事業に発展しています。アイルランドの参加は古く、第2回目から途切れることなく学生を送り続けています。その書類選考やインタビュー試験には専門家も加わり、渡航直前セミナーでは日本語のワークショップを行っています。今年は、更なる日本語力アップのために6月、7月の2ヵ月に亘り毎週日本語講座を開催することになりました。彼らが少しでも日本語力をつけてアイルランドと日本の懸け橋になることを願いながら、現在その準備を進めています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Department of Education and Skills, Ireland
(PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
PPLIはフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に2000年に設立された。現在ではポーランド語、リトアニア語、ポルトガル語等も加えた現代語教育発展のために支援を行っている。国際交流基金日本語専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。が、なお、PPLIはその名称を2019年4月にPost Primary Language Irelandに変更した。
所在地 Floor 5, The Liberty Building, Navan Road, Dublin 15 Ireland
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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