世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語講座の学生成果物サイトと高校生のオンライン日本語コンクール

国際交流基金ローマ日本文化会館
室屋 春光

 ローマ日本文化会館日本語講座には総合初級1・2、総合中級1・2 、総合上級、夜間1・2、入門1・2・3・4、入門午前のようなコースがあり、2011-12年度後期は合計約220名の学生が日本語を学習しています。

 当日本語講座では2010-2011年度から「ローマ日本文化会館日本語講座 学生成果物」というウェブサイトを開設して、各コースの学生の学習成果物をそのサイト上で公開しています。このサイトは、学生の学習意欲を高めること、当講座の教育の成果を広く紹介すること、そして講師の皆さんのITスキルを向上させることを主な目的としています。今年度も入門レベルから上級レベルの学生まで、各コースの学生の学習成果物が、学期が進むにつれて少しずつサイトにアップロードされ、広く一般の皆さんへの閲覧に供しています。

「学生成果物」ウェブサイトの写真
「学生成果物」ウェブサイト

 公開されている学習成果物にはいろいろなタイプのものがあります。最も多いのはタスクとして課された作文で、例えば、「私の一日」、「自己紹介」、「クリスマスのプレゼント」、「私の国はこんな国」といったようなトピックがあります。グループによるプロジェクトの成果としては「外国語学習上達法インタビュー」、「面白い新聞」(これはオススメ、笑えます)などがあり、また、「異文化」というトピックでのスピーチや「東日本大震災後の日本」というテーマでのプレゼンテーションを録画したビデオも公開されています。

 この成果物サイトは、講師の皆さんのITスキルの向上も大きな目的の一つです。基本的には各コース担当の講師がウェブサイト編集やマルチメディアの取り扱いに関する基礎的なスキルを習得する研修を経た上で、それぞれのコースのウェブページを任されており、学生の成果物のPDF化やビデオの編集から、ウェブページの編集、サイトへの成果物のアップロードまですべてを講師自身がおこなっています。

 なお、この成果物サイトは、Google Sites という無料で簡単にウェブサイトが作成できるウェブスペースを利用しています。また、このITスキル研修に使用した教材は、同学生成果物サイトの「サイト作成参考資料」ページ、あるいは「ローマ日本文化会館公式ウェブサイト」の「日本語教育 - 日本語教育関係資料」のページからダウンロードできますので、ご自分の日本語プログラムでもこのようなサイトを作成してみたいという方はどうぞご利用ください。

 イタリア国内の日本語教育に目を向けると、2011-2012年度には中等教育(高校)のレベルで大きな動きがありました。その一つに、ローマ地域で初めて正規科目としての日本語コースが、第二言語教育に特化した高校(liceo linguistico)で開設され、またそのほかの六つの高校でも課外授業の形で日本語コースが始まったことがあげられます。これまでもイタリア北部にはロンバルディア州を中心にいくつかの高校で日本語が教えられていましたが、首都ローマでも高校で日本語教育が取り入れられたことにより、今後も少しずつ中等教育レベルでの日本語教育が盛んになっていくことが期待されます。

 中等教育でのもう一つの動きは「2012オンライン日本語コンクール」(主催:ロンバルディア州ミラノ県中等教育管理監督局後援:在ミラノ日本国総領事館助成:国際交流基金)というイベントが3月に開催されたことです。

「オンライン日本語コンクール」ウェブサイトの写真
「オンライン日本語コンクール」ウェブサイト

 このオンラインコンクールはイタリア国内の高校で日本語を勉強している生徒が作成した日本語の作品を対象としており、コンクール参加高校はそれぞれがコンクール参加ウェブサイトを作成し、参加作品はそのサイトごとに掲載するという形をとっています。コンクールのサイトへ行くと、ロンバルディア州の高校7校とローマから参加の3校の計10校の高校生による「動画」「作文」「音読」「ロゴデザイン」という4部門の応募作品の全てを閲覧することができます。このような形式のコンクールは、イタリアのみならず世界的に見てもあまり例がないもので、イタリア国内の中等教育における日本語教育の振興に大きな功績があったといえるかと思います。

 参加校の先生方はウェブサイト編集やマルチメディアの取り扱いに関する研修を受講したうえで、参加ウェブサイトの作成に取り組みました。先生方にとっては参加ウェブサイトの作成は簡単ではなかったけれど、無事にサイトを作成できたことで、今後の教室でのITの利用に自信を持つことができたようです。また、彼らの話によりますと、生徒たちは参加作品の作成プロセスをとても楽しんでいたとのことで、教える側・学ぶ側双方にとって得るもののある有意義なイベントとなりました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Institute of Japanese Culture in Rome
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は日本文化紹介、文化交流などを幅広く実施しており、日本語講座運営はその重要事業の一つに位置づけられている。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の運営する日本語講座は、日本語専攻ではない大学生や、高校生、一般社会人にも日本語学習の機会を提供している。専門家は日本語講座のコーディネート、授業担当、講師の育成、研修会、授業内外での日本人との交流促進を行う。そのほかに、専門家の業務としては、イタリア国内の日本語教育関係者のネットワーク形成支援、国外・国内の研修会への出講などもある。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74, Roma, 00197, Italia
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
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