世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)点をつなぐ役割をになう

ローマ日本文化会館
鶴田靖行

アドバイザー業務

西欧にある他拠点と異なり、当館にはアドバイザー業務を担当する日本語上級専門家が派遣されていません。そのため、日本語専門家(以下、専門家)が日本語講座運営とアドバイザー業務を兼任しています。アドバイザー業務とは、派遣先国あるいは周辺国を含めた日本語教師を対象とした研修会の実施、教師間のネットワーク形成、日本語教授法や日本語教材作成に関する助言・指導等を行う業務のことです。2018年度は、イタリア国内5か所(トリノ、ナポリ、フィレンツェ、ベネチア、ロンバルディア州)と周辺国のアルバニア、ギリシャで教師向け研修会や学習者対象の日本語ミニレッスン、現地の日本語教育の現状調査などを行いました。

アルバニアでの日本語ミニレッスンをしている写真
アルバニアでの日本語ミニレッスンの様子

日本語教師向け研修会の写真
日本語教師向け研修会の様子

イタリア国内においても周辺国においても、日頃、地域や機関の枠を越えて教師が集まる機会はそれほど多くありません。そのため、この研修会で他の教師とグループワークやディスカッションをしたり、昼食のテーブルを囲んでざっくばらんにおしゃべりしたりすることは、自身の教育実践を見つめ直す場としても、教師ネットワーク構築の場としても、また日頃の悩みを共有する場としても大変貴重な機会となっています。

普段はそれぞれの地域、機関において個別に教育実践を行っている先生方や教室の中だけで日本語を学んでいる学習者の方々にこのような機会や場を作ることは国際交流基金から派遣された専門家ならではの仕事だと感じています。

2018年度日本語教育機関調査

2018年度は国際交流基金が世界の日本語教育の現状を正確に把握するために実施している「日本語教育機関調査」(以下、機関調査)の調査年でした。当館では、イタリアのほか、バチカン市国、サンマリノ共和国、そして地中海に浮かぶマルタ共和国の調査を担当しました。ここではイタリアを例に、調査がどのように実施されているか簡単にご紹介したいと思います。

今回イタリアでは6月から調査を開始しました。まず過去の調査で回答があった機関に対し、調査依頼及び調査票の送付を行いました。またそれと並行して、前回調査以降、新たに日本語教育を開始した機関を掘り起こすため、日本語教育関係者への聞き取りやインターネット検索などによる情報収集を行いました。しかし、調査はすぐ停滞してしまいました。なぜなら7月頃から9月頃まで、多くの教育機関が夏休みに入ってしまい連絡が取れなくなってしまうからです。そしてその間は単に調査がストップするだけではありません。多くの場合、夏休み前に送付した調査依頼自体が忘れ去られてしまいます。そのため、秋になって再度調査依頼からスタートしなければならなくなりました。さらに、新年度開始直後は、まだ日本語科目の受講生が確定していない、日本語コースが開講されるかどうかもわからないという機関が少なくないため、なかなかすぐには回答が得られませんでした。タイミングを見て催促をしているうちに、季節は秋から冬へと変わり、クリスマスが近づいてきました。私たちは焦り始めました。なぜなら、イタリア人にとって、クリスマスは1年で最も重要なイベントのひとつで、人々の心も町の雰囲気もクリスマス一色になってしまうからです。そうなると当然、調査のことは二の次になってしまいます。そこで、なんとかクリスマスまでに回答を集めるべく、私たちは手分けして各機関へ電話をかけ、日本語教育の担当者や責任者に直接依頼を行う作戦に出ました。しかし、この担当者に取り次いでもらうのがまた一苦労でした。とくにイタリアの中等教育機関では、正課ではない課外コースとして日本語科目が開講されているため、電話に出た方が日本語コースの存在や担当者を知らず、門前払いされそうになるケースがいくつもあったからです。さらに無事に担当者までたどりつけたとしても、まだ開講されるかわからないから、年が明けた頃にまた連絡をしてほしいという機関がいくつかありました。調査は年をまたいで行われ、ようやく1月の終わりにすべての調査を終えることができました。

イタリアにおいて、初等教育から高等教育までの学校教育及び学校教育以外の日本語教育、つまり日本語教育の全体像を知るデータはこの「日本語教育機関調査」の調査結果しかありません。そのため、できる限り正確な情報を集め、世界の方々へ有益な情報を発信することは私たちの重要な責務だという思いで、この調査に取り組みました。この調査結果は2019年度中に国際交流基金のWebサイトで公開される予定です。この結果を多くの方に役立てていただければうれしいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Rome (Italy)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ500名強が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74 00197 Rome, Italy
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
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