日本語専門家 派遣先情報・レポート
ローマ日本文化会館

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ローマ日本文化会館
The Japan Cultural Institute in Rome
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ400名強が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催しへの協力などにも力を入れている。
所在地
Via Antonio Gramsci, 74 00197 Rome, Italy
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1986年

ローマ日本文化会館
中島永倫子

コロナ時代を経験して

新型コロナウイルス感染症(以降、コロナ)の拡大から約二年が経過し、ローマの街に以前の賑わいはありませんが、COVID-19グリーン証明書の提示やマスク着用義務などの規制のもと、街の機能は取り戻しつつあります。また多くの職場ではリモートワークが導入され、ローマ日本文化会館(以降、会館)でも職員は交代制で勤務をしています。コロナの拡大は、日本語教育現場にも大小さまざまな影響を与え続けていますが、中でも急速なオンライン化は世界中で顕著にみられた事象ではないでしょうか。一方で授業が対面に戻ったり、ハイブリッド型授業など新たな方法に転換されたりと、教育現場での変化はとどまるところを知りません。今回の報告では、コロナが発生して二年を迎えるイタリアで、日本語教育にどのような変化があったのか概観したいと思います。

会館の日本語講座

当館の日本語講座では入門から中級まで約200人の学習者が学んでいます。コロナ発生当初、対面の授業はすべてがZOOMを使ったオンラインになり、宿題などの提出物の管理はGoogle Classroomを、筆記テストはMicrosoft Formsを使って実施してきました。移行当初は担当講師も受講生もこれらのオンラインアプリケーションに慣れないため、使用方法の説明や別途練習が必要なケースも見られました。しかし二年経った現在では、オンライン媒体を使うことへの抵抗感が少なくなったのか、特別に練習を求める声はなくなりました。また授業がオンライン化したことで、対面であれば会館に通うことができない遠方からの受講希望者が増えたことや、授業の遅刻や欠席率が低下したという前向きな影響も確認できています。一方で当館では以前にポートフォリオコンクールを実施した経験もあることから(2017年度の指導助手のレポート参照)、学習者のポートフォリオ活動を積極的に推進してきましたが、今学期のアンケート調査では「作成しなかった」または「あまり意味を感じない」と回答した人が全体の半数を占めました。自律的な学びを支援する道具としてポートフォリオは大きな役割を担うと考えるため、今後はオンラインでのポートフォリオ作成促進の工夫を図っていく予定です。

コロナ対策の掲示の張り紙の写真
コロナ対策の提示を求める会館入口の張り紙

機関調査から見えること

2021年度の機関調査の取りまとめ作業では、3年前と比較して、機関数と教師数は減少したものの学習者数は増加したことが確認できました。この背景に複数の高等教育機関において増加が見られたことがあり、各所に問い合わせたところ、授業のオンライン化によってクラスの受け入れ人数が増加したことが第一位の要因だとわかりました。また特にミラノ国立大学からは、3倍以上の学習者数が報告されました。この要因を調べていくと背景に、2019年に同大学言語文化学部で、学生連合の訴えによりローマ地方行政裁判所の判決を受けて入学制限が撤廃されたことが関係していました。イタリアの報道によると入試制限の撤廃によって大学の学生数が急激に増加したとのことです。大学にも確認をしたところ、同学部の定員750人のところ、2019年度に2400人、2020年度に2100人、2021年度には1700人を受け入れてきたそうです。これによって必然的に日本語クラスの受講生も増加したそうですが、この急激な増加は大学施設の稼働を過剰にする問題を生み出し2022年度は新入生の募集を停止するとのことでした。このように国立大学のある学部において、入学制限が撤廃されるということや新入生の募集を停止することは、日本の文脈では考えられないことですが、海外で働くということは国の事情や教育体制の動向にも目を向け、その環境の中でできる支援を考えることだと改めで実感しました。今後も機関調査の数のデータから背景にあるものを見つめていきたいと思います。

新たなつながりを模索する

コロナ禍でオンライン化したことは、今まで海外からは参加できなかった著名な教授陣の講義から学べる機会をもたらし、場所による学びの制約がなくなってきたのを感じます。また距離の遠さも、時差の問題以外で、何の隔たりがあるのかと疑問に感じることが増えました。そして、このような現状の中、会館ではイタリア、ギリシャ、アルバニア、マルタ共和国の日本語教師を対象としたオンライン勉強会を開催しました。なぜこの四ヵ国なのかと疑問を持たれる方がいらっしゃるかと思いますが、会館に派遣される専門家は、拠点がないまたは専門家が派遣されていない周辺国のアドバイザー業務も兼任しており、上記が担当国となっているからです。コロナ前は、各国へ赴き情報収集をしたり教師研修等に出講したりしていましたが、海外出張はコロナ感染のリスクも高まるため、現在は見合わせています。しかし前述のとおり、移動ができないことは担当国の支援を阻止する要因にはなりません。今後対面での出講が可能になった際に、今まで会館が構築した関係に空白期ができないためにも、これらかも担当国すべてを対象とした勉強会を継続していきたいと考えています。

イタリアと周辺諸国の地図の写真
地図を活用した自己紹介記入ボード(アイコンが居住地)

補足:イタリアの大手新聞社 repubblicaに掲載されたミラノ国立大学言語文化学部の記事

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