世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)スペイン日本語教師会と共に歩んで10年目

マドリード日本文化センター
篠崎摂子

国際交流基金マドリード日本文化センター(以下、JFMD)は2010年4月設立、同年10月から日本語教育アドバイザー(以下、アドバイザー)が派遣されて、筆者が4代目になります。一方、スペイン日本語教師会(以下、APJE)は一足早く同年2月設立、現会長は同じく4代目で、今年(2019年)共に設立10年目を迎えました。歴代アドバイザーのレポートにもある通り、JFMDの日本語事業はこれまでAPJEとの二人三脚で展開してきましたが、今回は10年目を迎えた協働の現状を報告します。

(1)総会兼研修会(共催)

毎年2月に開催されており、今年は第10回、会員143名中68名が参加しました。総会ではAPJEと並んでJFMDの活動報告もしています。研修会の講師はJFMDが招へいしており、今回はヨーロッパ滞在中のトムソン木下千尋先生(ニューサウスウェールズ大学)に「学習者一人ひとりが見つける『日本語世界』」をテーマとする講演とワークショップをお願いしました。来年はAPJE設立10周年を記念しての開催が予定されています。

総会兼研修会の写真
総会兼研修会

(2)日本語教育シンポジウム(共催)

隔年開催で、今年6月にアリカンテで第5回が開催されます。テーマは「文化とは何か―日本語教育における文化の多様性―」で、テーマの選定や基調講演の講師の招へい、発表募集の査読にはJFMDも協力しています。今回もポスターを含めて20本近くの発表が行われる予定です。

(3)日本語劇コンクール(共催)

2014年からシンポジウムと隔年で開催されていて、昨年が第3回でした。同じ機関の学習者がグループで日本語の創作劇を演じて競い合うもので、スペイン各地の日本語学習者が一堂に集う機会になっており、JFMDは出場者と引率教師の旅費を助成しています。昨年のテーマは「となりの~」で、武士や妖怪が登場する楽しい作品もありましたが、日常の一コマを切り取った佳作が印象に残りました。

日本語劇コンクールの写真
日本語劇コンクール

(4)定期研修会

毎年春と秋に会員向けの研修会を開催していて、アドバイザーも任期中に少なくとも1回は講師を務めます。筆者は今年5月に出講する予定ですが、シンポジウムと連動して「文化」をテーマに依頼されています。その他にはAPJE会員や近隣国の教師が講師を務め、毎回会員のニーズを考慮したテーマが設定されています。昨年秋にはバルセロナ自治大学のさくらネットワーク・プロジェクト「スペイン語母語学習者の読解における『壁』の分析―小説『ひとり日和』翻訳時の呟き―」の報告がありました。

(5)勉強会・プロジェクト

APJEでは設立当初から会員による勉強会活動が盛んです。当初はJFMDの事務所でアドバイザーを囲んで行われていましたが、現在はオンライン(Zoom)でスペインだけではなく、フランスやポルトガルの教師も毎週参加しています。また、APJEでは国際交流基金の日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』の文法解説書の制作に取り組み全冊を完成、JFMDのサイトで公開しています。現在は漢字研究会でCEFR準拠の漢字教材の制作に取り組んでいて、アリカンテ・シンポジウムでパネル発表をする予定です。

(6)巡回セミナー

JFMDではスペイン各地で日本語教育巡回セミナーを開催しています。筆者もこの1年でアリカンテ、パンプローナ、マラガ、サンティアゴ・デ・コンポステラ、サラマンカ、バレンシア、ラスパルマス、バルセロナでセミナーを実施しました。その際は各地のAPJE会員にとりまとめ役をお願いして、非会員を含む現地の教師への声がけ、日時やテーマの希望のとりまとめ、会場や懇親会の手配をしていただいています。そして、毎回のセミナー参加者が執筆した報告記事もAPJEのサイトに掲載されています。

(7)役員会

現在APJEには会長、副会長、会計、書記を含め11名の役員がいます。総会や研修会の前日には毎回役員会が開催され、JFMDからもオブザーバーとして出席します。役員会では毎回システマティックかつ熱い議論が行われますが、会議の前後の役員間のメールのやりとりの数にも圧倒されています。そしていつも感心させられるのが、各役員が自発的・積極的に発言・行動し、協力して問題の解決に当たる姿です。このような役員の活動があってこそ、教師会の運営がスムーズに行われるのだと改めて感じています。

以上、APJEJFMDの協働について述べてきましたが、アドバイザーの活動のかなりの部分を占めていることを再認識しました。国際交流基金の海外日本語事業では現地の教師ネットワークとの協働が不可欠ですが、スペインはそれが非常にうまく行っているケースだと思います。これは偏にこれまでのAPJE役員とアドバイザーが築いてきた信頼関係の賜物で、その有難みを感じながら日々活動しています。

最後に、JFMDではスペインのお隣のポルトガルの日本語教育支援も行っています。ポルトガルではこれまでポルトガル日本語教師連絡会議という教師ネットワークが活動を行っていましたが、今年3月の総会で教師会への組織化・法人化が正式に決定しました。APJEと同様に、今後はポルトガルの教師会とも共に歩んで行ければと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点として2010年4月の開所以降、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っている。2010年から日本語上級専門家が、2011年から日本語講座担当専門家も派遣されている。スペインの日本語教育支援の拠点として、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等への日本語ブース出展)、アドバイザー業務(ネットワーク会議や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(JFS講座、目的別講座、文化講座、会話クラブ等のコースデザインや実施運営)を行っている。
所在地 2a planta del Palacio Cañete, Calle Mayor, 69, 28013 Madrid
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年

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