世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育先進国を支えるシドニー日本文化センターの取り組み
国際交流基金シドニー日本文化センター
千馬智子・大知春華・高塚直子・蜂須賀真希子
オーストラリアの日本語教育
オーストラリアで日本語を勉強している人は約30万人で、世界第4位となっています(国際交流基金、2012年度日本語教育機関調査)。日本語学習者のほとんどは、初等・中等教育課程で外国語として日本語を勉強している生徒たちです。オーストラリアの日本語教育は100年以上の歴史があり、また日本語教師会も早い州では40年以上も前に結成されていて、非常に日本語教育が盛んな国だといえます。
国際交流基金シドニー日本文化センター(以下、当センター)では初等・中等教育機関の日本語教師および学習者への支援、また当センターでの日本語講座の運営を大きな柱にして、さまざまな日本語教育支援業務を行っています。この中から日本語教師研修と日本語講座についてご紹介します。
日本語教師研修
当センターの重要な業務の一つに、全豪各地で開催される日本語教師対象の教師研修への出講があります。これらの教師研修では、先方からのリクエストに応じて、教室活動のアイディアや教師の日本語力向上に役立つ内容を提供しています。当センターの講師が、教師研修でどのような活動をしているのかについては、「Senseis' Voices」というウェブのコンテンツで一例をご覧いただけます。
- 「日本語の音声をクリエイティブに教えてみよう―和太鼓を使った日本語教室活動例―」(2014年5月号)
- 「Inaugural All Language Teachers PD Event」(2015年3月号)
集中研修でのふろしきセッション
各地での研修に加え、当センターにおいて1年に2回、オーストラリアとニュージーランドの初等・中等教育に携わっている日本語教師を対象に3日半の集中研修を実施しています。セミナーでは、参加した先生方が短期間ながら日本語の環境にどっぷりと漬かり、様々な教室活動のアイディアを学んだり、日本語力維持と向上を目的とした活動をしたりします。2015年1月には、新オフィス移転後初めてのセミナーが行われ、23名が参加しました。研修の様子は、以下のSenseis' Voicesの記事をご覧ください。
教師研修の内容が参加される先生方と学習者にとって、少しでも有益なものになるよう、担当講師は情報収集や内容の検討を重ねながら、毎回心を込めて準備しています。また、研修で直接先生方にお会いし、それぞれの現場での日本語教育事情についてお話を伺うのは、これからの研修内容をさらに充実したものにするための貴重な機会になっています。
日本語講座
当センターでは一般学習者向けの日本語講座を開講しています。2012年より、入門レベルから国際交流基金が開発したJFスタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)に順次移行しています。2015年は、入門から上級まで7レベル11クラスを開講しています。このうち、入門(A1)レベルから初級2(A2)レベルまでが『まるごと』を使用しています。中級(B1)以上のクラスは市販の教科書を使いながら、Can-doでの学習目標を設定したり、パフォーマンスによる学習成果の評価をとりいれるなどして、JFスタンダードに準拠するよう努力しています。
カードで漢字の意味確認
「え~と、これは何だったっけ?」
2015年4月からは、『まるごと 入門(A1)』の「かつどう」のみを使った、文字学習を必須としない会話コースを新たに開講しています。また、これまでは全てのクラスを平日の夜に開講してきましたが、より多様なニーズにこたえるため、土曜日午前中にも10週間のテイスターコース(日本語学習の「味見」ができる特別コース)を開講予定です。
日本語講座では、現在約150名の学習者が受講中です。幅広い年齢層の学習者がいますが、社会人が中心です。学習動機も配偶者が日本人であること、日本語や日本文化への興味、留学や赴任の経験で培った自分の日本語力の維持など様々です。さらに、多民族国家だけあって、オーストラリア以外の文化背景を持った学習者も多く、シドニーの教室は国際色豊かです。そのため、教室でのやりとりがより深い異文化理解につながっているのではないかと感じています。
その他の取り組み
当センターはこの他にも、教材の提供、学習者支援のイベントなども行っています。2014年は新たな取り組みとして、教師および学習者の支援と校長および保護者へのアドボカシーを一体化したイベントを行いました。タスマニアで複数校を対象として日本関連のクイズ大会を開催。ホスト校の校長先生に当センターの支援活動の内容を説明し、クイズ後にはその地区の日本語教師とネットワークミーティングを行いました。同日夜には、ホスト校で日本映画を上映し、同伴の父兄を対象に日本語学習のpathwayなどを紹介し、日本語教育について理解を深めてもらいました。詳細は「Senseis' Voices」ウェブサイトからご覧いただけます。
(「Senseis' Voices」2015年4月号)
今後もアドボカシー型日本語教育支援活動として展開していければと考えています。
派遣先機関名称 | 国際交流基金シドニー日本文化センター |
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The Japan Foundation, Sydney | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
シドニー日本文化センターには、Arts & Culture, Japanese Studies, Japanese Languageの3部門があり、日本語専門家はJapanese Languageに所属している。主な業務は、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援、またセンター内での日本語講座運営である。事業例としては教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営、各種講座の開催および情報の収集と各教師会・その他機関とのネットワークの強化・維持などである。また、ニューズレターやホームページを通じ、日本語および日本文化の情報・教材の提供を行っている。 |
所在地 | Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale, NSW 2008 (仮事務所) |
国際交流基金からの派遣者数 | 上級専門家:1名 専門家:3名 指導助手:1名(現在パース) |
国際交流基金からの派遣開始年 | 1991年 |