世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)教室の外にある楽しい学びの場

シドニー日本文化センター
齊藤真美、須摩亜由子、平川俊助

集まれ、中高生!いっしょに、はらはらどきどき

みなさんは、言語学習に映画を使ったことがありますか?

映画には、言語はもちろん人々の行動や背景に映る景色など、その国や土地の文化が溢れており、言語学習に欠かせないリソースのひとつです。

国際交流基金は世界各国で日本映画祭を開催していますが、ここオーストラリアでは映画監督や有名俳優が来豪する一大イベントとして大きな関心を集めています。さらに私たち日本語教育チームでは、この映画祭とのコラボレーション企画として日本語を学ぶ中高生が集まる「スクールスクリーニング」というイベントを行っています。今回はこの様子をレポートします。

スクールスクリーニングの様子
ピカチュウはオーストラリアの動物がモデル、○か×か?

このスクールスクリーニング、2018年度は全州合わせて113校3321人が参加しました。このイベントの魅力はどこにあるのでしょうか。

現在では、映画は教室でも簡単に見られますし、イベントがなくてもクラスの遠足として映画館へ行けばいいのではないか?と思われるかもしれません。しかし、こうした多くの学校の生徒が一同に会して同じ映画を見るということは、教室では決して感じられない魅力を生みだします。オーストラリアでは約14万人の中高生が日本語を学んでいますが、彼らが「日本語を勉強している」という共通点の下で、他の学校の生徒と交流する機会はほとんどないのが現状です。しかし、このイベントで映画館の中に入り、その広い会場が日本語を学ぶ高校生で埋め尽くされているのを見ると、自分の近くにこんなに多くの日本語を学んでいる仲間がいることを体感してもらうことができます。さらに、せっかく集まったのだから映画を見るだけではもったいない!ということで、映画の前にミニクイズ大会も行っています。クイズは日本の基本情報に加え「ピカチュウはオーストラリアの動物がモデルだ。○か×か」という、日本とオーストラリアの関係性も交えたもので、自分たちと日本のつながりが認識できるようにしています。学校対抗ということもあり、いつも大変盛り上がります。しかしこの日に一番盛り上がるのは、生徒のクイズ大会の後に行う先生たちのクイズ大会です。普段なかなか見られない先生の「頑張っている」姿を応援し、会場は楽しい雰囲気に包まれます。上映中も映画の主人公たちと一喜一憂。昨年は『俺物語!』が上映され、うまくいきそうでいかない主人公の恋の行方にはらはら、どきどき。笑い声や安堵の溜息が映画館に響き、まるで家で一緒に大きなテレビを見ている時のような一体感が生まれました。

私たち、派遣専門家の主な業務は各地の教師研修に出講したり教師用教材リソースを作成したりすることであり、日頃、生徒と実際に関わる機会はあまり多くありません。このスクールスクリーニングは私たちにとって、教師研修のその先にいる生徒たちが日本・日本語に触れる瞬間を見ることのできる特別な時間です。

多読のススメ -楽しくたくさん本を読もう!-

もう一つのレポートは図書館イベントについてです。日本語学習者や在豪日本人などに広く利用されているシドニー日本文化センター図書館の「多読会」をご紹介します。

みなさんは「多読」という言葉を聞いたことがありますか。これは日本語学習の一つで、楽しくたくさんの本をよんで日本語を身につけよう、というものです。たくさん読むといっても難しい本を辞書を引きながら隅から隅まで読む手法とは異なります。多読は易しいレベルから読み始め、わからない言葉はスキップしながら自分が読みたい本をたくさん読んでいくという方法です。センターの図書館ではこの多読会を月に2回実施しています。

多読で大切なのは楽しみながら読んでいくことです。言葉が全部わからなくてもいいのです。つまらなければ次の面白そうな本を手に取ればいいのです。絵や写真などを見て、そして何回も出てくる言葉の意味を推測しながらたくさんの日本語のインプットをしていくうちに、日本語を吸収していきます。センターでは約1₋1.5時間の多読のあとで、数人のグループで本の感想を言い合ったりする振り返りの時間もあります。本の感想だけでなく、どのような言葉がむずかしかったのか、どこがおもしろかったのか、どんな気づきがあったのかなどをみんなで共有します。本について語り合うことが交流や対話の場となっています。これも多読イベントの大きな魅力の1つでしょう。多読会の様子はこちらをごらんください。

センターの多読会は、図書館のイベントとして2014年からスタートしました。現在では月に2回の恒例イベントとして実施されています。多読会はセンターで実施されている教師研修やセンタービジット(学生用プログラム)などでも取り入れられていて大変好評です。派遣専門家はこの多読会のオリエンテーションを担当したり、最後の振り返りに一緒に参加したりします。また、多読用の書籍のレベルづけを図書館司書と一緒に行ったりもします。

語彙や文法がコントロールされた多読用の本もありますが、それだけでは数に限りがありますので、絵本やコミックエッセイ、そのほか小学生向けの書籍なども内容を確認しながらレベルづけをしています。多読用図書は楽しく読めるような、教科書とは違った日本語に触れられるようなものを意識して選んでいます。レベル付けした読み物をコレクションとして整備するのは手間がかかりますが、多読の参加者や一般の日本語学習者、図書館利用者が適切なレベルから、自分の好きなトピックを簡単に選べるようになったというのは、とても有用なことです。ほかの地域の図書館と違い、日本語の書籍を多くそろえた国際交流基金の図書館だからこそできるイベントなのです。

さまざまな多読用教材の写真
いろいろな多読用教材

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
シドニー日本文化センターは、オーストラリア及びオセアニア地域の日本文化、日本語普及の拠点として様々な事業を行っている。日本語教育分野では、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援として、教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営を行っている。1991年にシドニー日本語センターとして開設されて以後、センター内では2005年より一般成人を対象とした日本語講座を運営しており、2012年からはJF日本語教育スタンダード準拠講座として、『まるごと』を使用。また、ニューズレターやホームページを通じ、情報発信、収集も行っている。
所在地 Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale,NSW2008
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手1名(タスマニア/ホバート市)
国際交流基金からの派遣開始年 1991年

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