世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ニュージーランド・中等教育における日本語教育/先生がんばって!

ニュージーランド教育省
千馬 智子

 ニュージーランドは、日本の国土の約3/4の面積に約400万人の人が暮らしています。多文化・多民族国家として認識されているニュージーランドですが、北島と南島では人種の比率もかなり違うと言われています。実際に学校訪問をしてみると、オークランドの学校にはアジア系の移民やパシフィカ系の学生が目立ちます。日本語のクラスの半数以上が、中国や韓国といったアジア系の学生であることもあります。南島ではパケハと呼ばれる白人系の学生が多いです。(パケハはマオリ語で外国人の意味だが主として白人をさす)しかし、クライストチャーチでは13年生の日本語クラスの半数を日本人留学生が占めていたケースもありました。

 ニュージーランドの教育制度では、6歳からが義務教育ですが、5歳の誕生日から学校に行く権利があるため、小学校には5歳児のクラスもあります。ぬいぐるみや絵本がいっぱいでやや異空間です。早い段階から外国語の時間を設けている学校もありますが、教育省は7年生から10年生に外国語学習の機会を提供することを義務付けています。しかし、どの言語を何時間学習するかはすべて各学校の裁量で決められるので、週に数時間学習するところもあれば、30分程度のところもあります。また各学期ごとに違う言語を紹介程度に学習するところもあり、外国語学習の質も内容もさまざまです。小学校は6年生までで、9年生から高校生となります。7/8年生はIntermediateとして独立した学校である場合もあるし、小学校か高校に含まれている場合もあります。

教師研修でひらがな連想方をデモする指導助手の写真
教師研修でひらがな連想方をデモする指導助手

2007年に発表され2010年から実施されている新ニュージーランドカリキュラム(以下、NZC)では、日本語や中国語、フランス語、スペイン語、ドイツ語などが英語から分離され外国語として一つの教育分野として独立しました。NZCは本当に素晴らしい内容なのですが、どちらかといえば進むべき方向、理想を示したもので、それを実際に教室活動でどのように実践していくかは各教師の力量にまかされているのが実情です。また9年生では言語を必修科目としている学校も多いのですが、10年生では選択科目となる場合が多く、10年生以降どの言語でも学習者数の落ち込みが見られます。最終学年の13年生になると国家資格試験National Certificate of Educational Achievement(以下、NCEA)レベル3の試験を受験しますが、これが大学進学の選考基準とされるため、他の科目と比較して高得点が取りにくいと考えられている言語を学習する学生はますます少なくなります。10年生以降の学習者数をどのように維持していくかは、各言語に共通した課題の一つとなっています。

 日本語専門家の業務は、学校訪問、教材紹介や日本語に関する情報の提供、研修会の実施などです。受け入れ先からは特に7年生から10年生の日本語教育支援、Intercultural Language Teaching の指導が求められています。出張のためにオフィスにいないこともしょっちゅうです。学校訪問にはかなりの費用がかかりますが、それでも顔を合わせて一人ひとりの先生方と話をしたり授業を見たり、授業をしたりすることで連携がとりやすくなることは事実です。ここ数年かけてNCEAのテスト方法が新方式に移行しているので、先生方は大変忙しい思いをしています。ベテランの先生方はなんとかこなしていますが、新任の先生は本当に大変です。より多くのアシストを必要としている新任の先生方を探し出して支援することも専門家の役割のひとつです。初年度に比べて2年目の今年は新任の先生方とも連絡がとりやすくなりました。多くは先生方の口コミによるものですが、そのためにも直接先生方と顔見知りになることは重要です。専門家の訪問が久しぶりにその地区の教師会が会合を持つ機会になることもあります。  

ILEPによる外国語教師の集会の写真
ILEPによる外国語教師の集会

 日本語は現在のところ、中等教育ではフランス語に次いで学習者が多い言語ですが、徐々に学習者数が減少しています。日本語の先生方もなんとか学習者数を維持しようと、「日本語学習はたのしい、かっこいい」という印象を学習者が持つように奮闘しています。歌やアクション、映像を多く使うなど工夫をこらしています。また、2012年からは国際交流基金より指導助手も派遣されています。現在オークランドで高校と中学校の日本語授業をアシストしています。教師研修会や教材作成などでも専門家を手伝っています。

 「先生がんばって」というのは代々の専門家が引き継いでいる日本語教師のためのニュースレターのタイトルです。2011年のラグビーワールドカップではニュージーランドのナショナルチームのオールブラックスが優勝しましたが、このチームが試合前に“haka”をするのをご存知ですか。もともとは相手を威嚇するためのマオリの戦士の舞です。この“haka”の歌詞が「Ka mate ka mate!」というのですが、これが「がんばって、がんばって」に聞こえます(よね)。 支援を必要としている対象も内容もさまざまですが、先生方と一緒にがんばります。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Ministry of Education, New Zealand
: ILEP (International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学傘下のUniServicesという営利組織の一部で、2011年からNZ教育省の委託を受けて、3年の契約期間でナショナルアドバイザー業務と言語関係交換プログラム業務などを担当している。現在、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、そして日本語のナショナルアドバイザー(以下NA)が所属している。ILEPの本部はオークランドだが、日本語、ドイツ語、スペイン語のNAはウェリントンに駐在している。各NAは学校訪問、教材提供、教師研修会を開催するなどして、初等・中等教育の外国語学習を支援している。
所在地 Level 6, Willeston House, 22-28 Willeston St. Wellington 6011
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家,指導助手各1名(指導助手は2012年より派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 1987年
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