世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ニュージーランド

ニュージーランド教育省
三上京子

ニュージーランドに赴任して

ニュージーランドは、北島と南島に分かれている島国で、赤道をはさんで日本とちょうど反対側にあります。そのため季節が日本とは反対になりますが、日本の約4分の3ほどの国土面積を持ち、火山が多く豊かな自然に恵まれているところなど、地理的には日本とよく似ている国だと言えます。

ニュージーランドが日本と違うのは、多言語・多文化社会だというところです。人口約460万人のうち、ヨーロッパ系が約74%と最も多いですが、先住民族であったマオリ人が約15%、パシフィカと呼ばれる南太平洋のポリネシア系も約7%いて、最近は中国を始めとしたアジア系も多く移住してきています。公用語は英語とマオリ語で、公共施設の標示や教育関係の文書などには必ずマオリ語が併記されています。また、大学内にはマオリの神聖な場所としての建物があり、新しく加わったスタッフのために特別な儀式が執り行われたりすることからも、マオリの言語と文化が非常に尊重されていることが分かります。

派遣専門家の仕事

国際交流基金の専門家は、2013年以降、それまで拠点としていた首都ウェリントンから、北島にあるオークランドというニュージーランド最大の都市に派遣されています。ニュージーランド教育省は、外国語教育促進のための業務をオークランド大学内のUniServicesに委託しています。専門家は、その下部組織であるILEP(International Languages Exchanges & Pathways)に所属して、ナショナルアドバイザーとして活動しています。ILEPには、日本語のほかにドイツ語、スペイン語、フランス語、中国語のナショナルアドバイザーがいて、それぞれの言語学習の普及と教師たちの支援にあたっています。ILEPにはほかにも、教師研修やアジア言語学習推進のための活動を担当するアドバイザー、プログラム全体の管理・運営を行うマネージャー、国際交流関係の業務を担当するスタッフ等、20名近くがいて、1つのチームとして業務にあたっています。1年に4回、5人のナショナルアドバイザーとほかのスタッフも全員集まる大きな会議があって、写真1はその時に撮ったものです

写真1:5人のナショナルアドバイザーの画像
写真1:5人のナショナルアドバイザー

専門家は様々な業務を担当しますが、中心となるのはやはり日本語を教えている学校を訪問することです。訪問時には、現地の先生の授業を見学後、アドバイスをしたり新しい教材の紹介をしたり、校長先生と会って話をしたりします。また、日本語や日本文化を紹介する活動として、専門家がパワーポイントを使ってスライドやビデオを見せたり、ゲーム活動をしたりすることもあります。ナショナルアドバイザーは、ニュージーランド全土の学校を支援の対象としていますから、地方への出張も非常に多くなります。

学校訪問以外の業務としては、ILEPチーム内での定例会議やマネージャーとのミーティング、ワークショップや地区ごとの教師ミーティングの開催 、言語教育セミナー等での発表、各種行事への参加、大使館・総領事館の広報文化センターとの連絡・連携等があります。また、先生たちからの電話・Emailによる問い合わせに対して答えたり、教材や教授法、クラス運営、各種助成プログラムの応募等について相談にのったりすることも専門家として大切な仕事です。

学校訪問で生徒たちの歓迎を受けて

写真2は、5月の始めに南島のさらに最南端にあるインバカーギルという町にある高校を訪問した時のものです。ここは男子校で、日本人の先生の指導のもとに8年生から13年生までが日本語を学んでいます。訪問当日の朝、11年生(日本の高校1年生)の教室に入ったとき、生徒たちが大きなカードに何やら貼り絵のようなことをしていました。何をしているのかと思ったのですが、それは私を歓迎するための文字カードを作っているところでした。そのカードを、一人が1枚ずつ持って、順番に「サ・ウ・ス・ラ・ン・ド・男・子・高・校・に、よ・う・こ・そ。」と、少したどたどしいながらも読み上げてくれたときは、本当に感激しました。

写真2:南島にある高校を訪問の画像
写真2:南島にある高校を訪問

その日は、前半で担当の先生の授業を見学し、後半で日本文化紹介の一つとして「箸の使い方」を教えました。各自が練習したところで、小さなチョコボールを箸でつまんで隣の皿に移すというゲームをしました。チームに分かれて競争したので、生徒たちは大いに盛り上がりました。インバカーギルへは、オークランドから飛行機を乗り継いで4時間以上かかりますが、市内のほかの学校にも熱心に日本語を教えている先生たちがいて、とても頼もしく思いました。

私は着任してまだ4か月ですが、これからナショナルアドバイザーとして1校でも多くの学校を訪問したり、ワークショップを開催したりして日本語学習を応援していきたいと思っています。また、私自身も現地の先生や生徒たちと触れ合う中で、ニュージーランドの文化や人々の生活様式・考え方を学んでいます。本当にやりがいのある仕事だと感じています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
ILEP (International Languages Exchanges and Pathways)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ILEPはオークランド大学のUniServicesという営利組織の一部で、2011年からNZ教育省の委託を受け、NZ初等・中等教育での外国語教育支援業務を担当している。日本語の他にフランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語のナショナルアドバイザー(以下NA)が所属していて、スペイン語のNA以外は全てオークランドのILEP事務所で働いている。各NAは学校訪問、教材提供、教師セミナーの企画開催などを通じて、初等・中等教育の外国語教育の推進、普及、支援を行っている。ILEPでは、NAの活動をサポートする以外に、外国語教師の海外研修派遣、アシスタントプログラムの運営管理、日本とニュージーランドの言語・文化交流活動に対する助成金募集業務などを行っている。
所在地 University of Auckland, Faculty of Education, 74 Epsom Avenue, Auckland 1023, New Zealand
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1987年
What We Do事業内容を知る