世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)進めば自分の 夢が叶うよ ~学生の短歌から~

王立プノンペン大学
本橋啓子

カンボジアの首都プノンペンの郊外にある王立プノンペン大学日本語学科では、午前・午後・夜間の3部制で合計343人の若者たちが日本語を学んでいます。今日は午前部4年生の科目「日本文学」で学生たちが作った短歌を使い、学生たちの生活を紹介したいと思います。

朝7時 早いけれども 教室で 友だちと会えて 楽しくなる

日本語学科は3部制のため、午前部は朝7時から始まりますので、学生も教師も6時台には大学に着かなければなりません。カンボジアには公共交通機関がないため、大半の学生はバイクで登校し、教師は徒歩・バイク・車で出勤します。学生たちは朝が早くて辛そうですが、授業中に居眠りをする学生はほとんどいないというのが日本と大きく違うところでしょうか。

学校は 楽しいところ 友を見て 皆とご飯 我が喜びだ

食堂の写真
皆とご飯

2時間目が終わると、20分の休憩時間があります。朝ご飯を食べて来なかった学生たちはこの時間に食堂へ殺到します。おしゃべりに夢中になり、3時間目の授業に遅刻し、先生から大目玉を食らう学生も少なからずいるようです。

明日の朝 文化論だね 難しい 分からないのは 私だけかなあ

3・4年生になると日本語以外の専門科目が加わり、特に4年生では「日本文化論」や「異文化コミュニケーション」などの科目が登場し、教える先生も教わる学生もお互いに苦しんでいるようです。

休憩に 行きたいところ 研究室 勉強じゃなく 友としゃべりに

研究室の写真
行きたいところ 研究室

大学の授業は1日4時間で終了。その後、仕事へ、他の大学へ、自宅での家事へと学生は散っていきます。学生の一部は学科の研究室(日本語関係の書物のある小さな図書室兼自習室)に出没しますが、よく見ると、勉強しているというよりは友だちと遊んでいる学生が多いようです。もっとも午前・午後・夜間と教室は常に講義で使われているので、学生が自由な時間を過ごせる場所は、大学内ではかなり限られているのが現状です。

朝勉強 昼じゅう仕事 夜宿題 くり返す日々 明日も苦しみ

午後や夜、学生の一部はアルバイトをしたり、別の大学で日本語以外の専門を勉強したりしています。本当は午後と夜はしっかり勉強してほしいところなのですが、生活のためと言われると強いことも言えず、またダブルスクールは政府が奨励していることなので、教師としては「二兎を追う者」にならないことを祈るばかりです。

つまらぬが 「しないとだめだ!」と 先生は 成績使い 我を脅かす

学生たちには予習・復習の習慣がなく、宿題を出さなければ、全く家庭学習をしません。そのため、何とか勉強させようと教師は宿題をたくさん出す傾向にあります。が、宿題に時間をかけず、不十分な内容で提出する学生が多く、教師は頭を痛めています。決して脅かしているわけではないのですが・・・。

恋愛を 始めた時は 4年生 恋の気持ちに 卒業はない

どんなに忙しくてもそこは若者。ふだんはまるで日本の中学生のように無邪気に男女仲良くじゃれあっている学生たちですが、どうやらしっかりと恋愛はしているようです。

失敗は 成功の母 負けないで 勉強しよう 合格(うか)るはずだよ
参考の 本がなくても 他のこと よく調べれば 卒論できるさ

上は能力試験のN2になかなか合格できない学生が、下は卒業論文の参考文献が手に入らない学生が、自分自身を励ましている短歌です。カンボジアはまだまだ日本語を学ぶ学生たちを取り巻く環境が整っているとは言えません。ですが、そんな中でも、合格・卒業に向けて努力している姿がちらほら見かけられます。

四年間 何とかここまで やりました 八月からは やっと仕事だ
1歩歩き 1歩考え 1歩前へ 進めば自分の 夢が叶うよ

日系企業の進出が拡大傾向にあるカンボジアでは、卒業後に日系企業に就職する学生が増えてきています。残念ながら企業で即戦力として働けるだけの日本語力を持っている学生はまだごくわずかですが、エアコンのない教室で、学生と教師が毎日汗をかきながら日本語と向き合っている、そんな王立プノンペン大学日本語学科です。

What We Do事業内容を知る