世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)先生たちも勉強!

カンボジア日本人材開発センター
吉川景子

カンボジアでは二つの地域で日本語教育が盛んに行われています。一つは首都のプノンペンです。プノンペンではここ数年の間に日系企業が数多く進出しており、高度な日本語人材の需要が高まっています。もう一つは日本人旅行者にも人気のアンコールワットがあるシェムリアップという町です。ここで日本語を学ぶ学習者はガイドやホテル、レストランのスタッフなど観光業に携わることを目指しています。さらに、カンボジアでは最近、技能実習生として日本に行く人たちが増え、渡日前の日本語学習を担う機関も急増しています。このように学習者は年々増加傾向にありますが、一方でカンボジア人日本語教師の数は教師を養成する場が限られており、なかなか増えません。カンボジア日本人材開発センター(以下、CJCC)はカンボジアの日本語教育の拠点として教師研修にも力を入れています。

1.教師養成コースから教師誕生!

教師養成コース:模擬授業の様子の画像
教師養成コース:模擬授業の様子

CJCCでは『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)という教科書を使った日本語講座を運営しています。でも、『まるごと』を使った教え方を学んだ教師はCJCCの外にはいません。それなら自前で教師養成コースを開講し、CJCCで働いてくれる先生を育てよう!ということで2015年度に短期の教師養成コースを2回開講しました。受講生のほとんどは日本語教師経験がない人たちでした。『まるごと』入門編を使ったコースを受講した後、本気でCJCCで教えてみたいという意志がある受講生には実際のクラスに入り、実習を行ってもらいました。そしてめでたく4名の非常勤講師が誕生しました!

2.「生活と文化」どう教える?

勉強会の様子の画像
勉強会

『まるごと』は海外の学習者が日本語という言葉だけでなく、日本の文化や生活について知識を得たり、興味を持ったりできるような素材が多く含まれています。『まるごと』入門、初級の教科書にはトピックごとに「生活と文化」というページがあります。でもカンボジア人の先生たちにとってはこのページをどのように扱えばいいのか難しいようです。「知識として知らないから、うまく説明できない」「このページの写真を紹介するだけでは学習者はつまらなそう」「あまり時間がないから、教師が一方的にさっと説明して終わってしまう」などなど・・・。日本人の先生たちにとっては意思疎通が十分できないレベルの学習者に説明したり、学習者の意見や感想を引き出したりすることが難しいという声がありました。そこで、今学期の週1勉強会で、「生活と文化を10分で教えよう!」と題して、学習者が興味を持ち、参加型の授業になるよう、順番に模擬授業を行い、アイディアを出しあっています。

3.先生たちもポートフォリオを体験!

『まるごと』では学習者の自律学習を推奨しており、CJCCでも自己の学習管理のためのチェックリスト、自分が書いた作文などの作品、教室外での日本語・日本文化体験の記録などを一つのファイルに保存するように学習者に指導しています。でも、実は先生たちもこのような学習経験がほとんどありません。「ポートフォリオって何?」「ポートフォリオは何のために役立つの?」「時間がなくて、チェックリストを宿題にしちゃった」というように、目的がよくわからず、どのように指導すればいいのか困っています。そこで、今学期は先生たちにもポートフォリオを体験してもらうことにしました。例えば、教師として成長するためにどんなことに取り組んだか、業務のどんな場面が日本語能力を高めることにつながっているか、日本文化や日本事情について新たに体験したこと、知ったことは何か、などを記録してもらっています。今学期の終わりに振り返りを行い、お互いにシェアをする予定ですが、どのような感想が出てくるか楽しみです。

4.日本語教育セミナー・教師研修会の実施

内部の勉強会だけでなく、CJCCでは主にJF日本語教育スタンダードや『まるごと』関連の教師研修会を年3―4回(2015年度3回)、カンボジア外から講師を招聘する日本語教育セミナーを年1回(2015年度2回)実施しています。また、シェムリアップではアンコールワット日本語教師会の主催でセミナーが年3回実施され、専門家が出講しています。

カンボジアでは経験が少ない若手の先生が多いですが、その分、新しいことに抵抗なくチャレンジできます。将来、カンボジアの日本語教育の中心となって活躍してもらいたいと思います。

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