世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)講師の教授能力向上のために

カンボジア日本人材開発センター
佐久間司郎

カンボジア日本人材開発センター(以下CJCC)は、「日本語」「日本文化」「ビジネス」の3本の柱を中心に運営される教育青年スポーツ省傘下の独立運営組織です。国際交流基金はここで2004年から日本語講座の運営を支援してきました。2014年からは『まるごと 日本のことばと文化』を使った「日本語講座」が開講され、今年6年目を迎えます。

各学期(半年コース)の受講生は約500名に上ります。学習者のコース修了率も上がり、安定的な運営がおこなわれるようになってきたと言えますが、いくつかの課題が存在することも否定できません。

その一つが現地講師の教授能力の向上です。現在CJCCには専任講師が8名(そのうち日本人3名)、非常勤講師が6名在籍しています。講師一人ひとりが教授能力を高め、全体として質の高い安定的な授業を提供できるようにすることも日本語専門家に求められる役割の一つです。

勉強会の実施

週に1回1時間ほど、専任講師全員が集まれる時間を利用して勉強会を実施しています。講師の一人に模擬授業をやってもらい、それをたたき台に皆で議論をします。「この部分はどのようにアプローチするか」「この聞き取りはどのように進めるべきか」等、皆がいつも使っている教科書を用いての模擬授業なので、活発な意見交換になります。

活発な勉強会が行われている様子の写真
活発な勉強会の様子

そもそも授業のやり方には確かな「正解」というものがありません。ですので、基本的には話し合いの中でそれぞれが「気づき」を得ていくことになりますが、講師の中にはそういった「気づき」ではなく、「正解」を求める人もいます。つまり、学習者の学習スタイルが多様なのと同じように、講師のスタイルも多様なのです。そのため、勉強会の流れや参加者である講師の表情を見つつ、どのような方向へ議論を導いていくのか、どのくらい明示的な指導をおこなうべきか等を考えつつ、その場に応じた対応をしていくことが求められます。

図書の選定

授業の質を高めるためには講師それぞれの日々の勉強が欠かせません。ただ、日本国内であればちょっと大きめの書店や大学の図書館などに足を運べば専門書籍が簡単に手に入りますが、ここカンボジアではそういうわけにはいきません。

そこで重要になってくるのが図書室の存在です。CJCCの中には日本の書籍を所蔵する図書室があります。しかし図書室があるからと言って本が勝手に増えていくわけではありません。日本語学習者向けの本と日本語講師向けの本のバランスを考えつつ、どのような本を購入し所蔵していくのか、そういったことを考えることも重要な仕事の一つです。日進月歩の外国語(日本語)教育界において、トレンドをつかみ、研究の動向を把握し、時代に応じた教育をおこなう講師を育むためには、図書室の書籍の選定も疎かにできない業務です。

図書室の書架の写真
図書室の書架

以上、現地講師の教授能力向上のための取り組みについてご紹介しました。「日本語教育」というと、学習者に対しいかにアプローチをおこなうか、という点にフォーカスが当てられがちですが、その教育をおこなうのは講師一人ひとりです。講師が育てば学習者も育ちます。

カンボジアには潜在能力の高い講師や日本語話者がたくさんいます。その高い能力がさらに磨かれ、よりよい日本語教育ができるようになるために何ができるか、常に模索の日々です。

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