世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)さくら日本語・日本文化普及キャラバン

王立プノンペン大学外国語学部日本語学科
立花秀正

カンボジアの日本語教育事情

「3年8か月20日」この数字がなんだかわかりますか。

カンボジア人の大人ならほとんどの人々が知っている数字です。クメール・ルージュのポルポト政権がカンボジアを支配していた期間(1975年4月17日~1979年1月7日)です。この間に推定150万~200万人が亡くなりました。特に、知識階級、公務員、宗教指導者などが標的にされました。その中には、多くの教師も含まれていたそうです。その結果、カンボジアの教育に断絶が生じました。

そのような理由により、他のASEAN諸国と比べると日本語教育の歴史は浅く、1993年に王立プノンペン大学に青年海外協力隊(JOCV)の協力により、日本語コースが開設されました。したがって、日本語教育は発展途上の段階と言えるでしょう。

都市部とその他の地域の経済格差が大きいため、日本語教育は主に都市部を中心に行われています。学習者は都市部では大学生か社会人、大学進学率が低い地方では若年層が中心で、カンボジア全土では初級レベルの学習者が多数を占めています。

「さくら日本語・日本文化普及キャラバン(以下、キャラバン)」とは?

そこで、日本語・日本文化の紹介並びに日本語学習者を増やすことを目的に「キャラバン」を実施しています。在カンボジア日本国大使館との共催で、国際交流基金からの助成を受けて、例年行っています。2019年2月には第9回キャラバンを実施しました。

キャラバンの概要は以下の通りです。
訪問先 プノンペン市内及び近郊、地方の高校
チーム構成 日本語教師3~4人(日本人2~3人、カンボジア人1~2人)、学生2~3人(カンボジア人2~3人) 合計5~6人
日程 日帰り(プノンペン市内及び近郊の高校)、2泊3日(地方の高校)
1校の訪問時間 2時間~2時間半
生徒数 80~100人位
プログラム (1)日本文化紹介のビデオ、(2)留学した学生の体験談、(3)浴衣の着付け、(4)折り紙で兜作成、(5)奨学金の説明、(6)質疑応答

地方の場合、2泊3日で3校を回ります。私はこれまで、日帰りと2泊3日のキャラバンに参加しました。

生徒たちの反応

地方へ行くと、日本人を見るのは初めてという生徒もいます。したがって、(1)日本文化紹介のビデオが始まるとみんな目を輝かせて、興味津々といった様子で、見入っています。「新幹線」「富士山」「相撲」の場面では。「ワーッ」という歓声が上がります。

日本文化の紹介に見入る生徒たちの写真
日本・日本文化についての紹介

(2)日本留学経験者の体験談のときには、一言も聞き漏らすまいと集中して聞いている生徒が多いです。プログラムの最後に、生徒からの質問を聞きますが、その時出てくるのは以下のようなものです。

  • 日本語を勉強したいが、難しいか。
  • どうしたら日本で働くことができるか。
  • どのぐらい日本語を勉強したら、話せるようになるか。
  • 日本語を勉強すると、高い給料がもらえるか。
  • 日本で病気になった時は、どうすればいいか。
  • 日本語を学べば、どのような仕事ができるか。

(3)浴衣の着付けでは、男女それぞれ10人ほどを選んでもらい、実際に浴衣を着てもらいます。着付けに時間がかかるので、それを待っている時間に残りの生徒たちに、(4)折り紙で兜作成を紹介します。新聞紙を正方形に切ったものを生徒の人数分用意していって、お手本の通りに、全員で折ります。折り紙は初めての生徒が多いので、少し時間がかかりますが、最後はみんなニコニコ顔でかぶります。

こうしている間に「浴衣の着付け」も終わり、男女ペアになって登場します。みんなやんやの喝采です。写真を撮るのに忙しい生徒もいます。羨ましそうに眺めている生徒も大勢います。できることなら、全員に着せてあげたいのですが、浴衣の数に限りがあるのと、着付けができる人が足りないので、全員という訳にはいきません。

プログラム終了後の集合写真
プログラムが終わって

結び

地方へ行く場合、マイクロバスの移動なので、とても疲れます。2泊3日のキャラバンから戻った時は、皆ぐったりしています。カンボジアは鉄道があまり発達しておらず、道路事情もよくないので、地方の高校を訪問する場合、プノンペンから6時間以上かかる場合もあります。また、報告書の締め切りがあるので、生徒たちに対して実施したアンケートの集計はできるだけ早くしなければなりません。夜、ゲストハウスの部屋に集まってやったり、それでも間に合わないときは移動中にマイクロバスの中でします。

このように、苦労する点も多々ありますが、目を輝かせて参加している生徒たちに接し、将来この中から日本語を学ぶ学生が出てくると思うと疲れも吹き飛びます。実際に、かつて訪問した地方の高校から王立プノンペン大学外国語学部日本語学科に進学した学生もいます。

予算のこともありますが、できるだけ長くこのキャラバンが続くことを願ってやみません。

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