世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ジャカルタ日本文化センターの日本語教育支援(2013)

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
尾崎 裕子・二瓶 知子・鈴木 にし紀・松島 幸男・山本 晃彦・佐々木 智子

ジャカルタ日本文化センター(以下、センターと略す)には、日本語上級専門家4名、日本語専門家2名、そしてインドネシア人講師2名が勤務し、日本語教育支援業務に携わっています。センターの主な業務は、インドネシアの中等教育支援、高等教育支援、学習者に対する直接支援、EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者予備教育事業の4つに分かれています。

高等教育支援 <尾崎>

センターではジャカルタ首都圏特別地区(以下、「ジャボデタベック」という。)と他の地域の大学の日本語教員育成のための支援業務を行っています。具体的にどのような活動をしているのか簡単にご紹介しましょう。

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学会西スマトラ支部セミナー

ジャボデタベックでは、インドネシア日本語教育学会(以下、「学会」という。)ジャボデタベック支部が主催する年間を通した研修活動にセンターの講師が出講します。2013年2月には3日間の「漢字の教え方」ワークショップが行われました。ジャボデタベックの大学や高校で教えている教師13名が参加したこのワークショップでは、参加者が漢字と漢字学習への理解を深め、よりよい漢字授業ができるようになることを目指して、いろいろな活動を行いました。漢字の基礎知識についての講義、漢字学習や漢字の授業についての振り返りやディスカッション、参加教師による漢字の授業の実践報告と漢字のゲームの紹介、漢字学習活動の体験、漢字の授業活動の作成など、盛りだくさんの内容でしたが、参加した教師は皆非常に熱心にワークショップの活動に取り組んでいました。筆者はさまざまな漢字学習教材や漢字学習の活動を紹介しましたが、参加者は教材や活動をただ体験するだけでなく、それを自分のクラスでどうアレンジして使うかをいろいろ考えていて、その熱心な姿勢と発想豊かなアイデアに感心させられました。

ジャボデタベック以外の地域では、北スラウェシ州、南スラウェシ州、バリ州、北スマトラ州、西スマトラ州の学会支部のセミナーに出講しています。2012年10月6日・7日には西スマトラ州パダン市のアンダラス大学で「作文」をテーマにしたセミナーが行われました。セミナーの1日目は筆者の「作文の教え方」の講義と9名の教師による研究発表がありました。「作文の教え方」の講義では、初級や中級の段階での書くためのいろいろな練習の例を挙げて説明し、「書く」活動の授業の流れや、学習者が作文を書いた後のフィードバックについても参加者に自身の授業を振り返ってもらいながら話しました。2日目はインドネシア語学科の教授による「教科書の作り方」についての講義のあと、筆者が作文ワークショップを行いました。ワークショップの内容は、5~6人ずつのグループに分かれて「学会西スマトラ支部のホームページに、インドネシアのニュースや習慣について日本人に紹介する記事を書く」という課題で作文を書き、それぞれのグループで書いた作文を別のグループが読んでコメントや修正案を書き、その後、各グループで他のグループからもらったコメントを読んで検討し、最後に、3つのグループが前に出て、自分たちが書いた作文と他のグループからのコメント、それについての自分たちの考え・感想を発表するというものでした。参加者は作文作りに苦戦しながらも、メンバーが協力して最終的に6つのグループが、インドネシアの習慣、ファッション、洪水などバラエティーに富んだ作文を作りました。また、他のグループが書いた作文に対しては、日本語と内容の両方を見て、文体の統一、テーマの一貫性、読み手への伝わりやすさなど、ポイントを押さえたコメントが書かれていましたし、最後の3グループの発表でも皆非常に興味深く他のグループの発表を聞き、活発に意見交換をすることができました。「作文」は大学で教えるインドネシア人日本語教師にとって指導が難しく、教師自身が日本語で文章を書く練習をする機会もあまりないのが実情です。2日間だけのワークショップでしたが、それでも、参加者は他の仲間とともに研修する中で多くのことを学び、得ることができたようでした。

このようなセミナーを通して、インドネシアの多くの教師の方々と出会い、日本語を教えることと学ぶことの楽しさや難しさを共有したり再発見したりすることができることは筆者にとって大変うれしく、ありがたいことだと感じています。インドネシアでのこのような貴重な機会を大切にしてこれからも日本語教育に取り組んでいきたいと思っています。

学習者に対する直接支援 <二瓶、鈴木>

JF講座の写真
JF講座

センターでは、日本語学習者に対する直接支援として、2012年9月より、JF日本語教育スタンダードに基づいたJF講座を開講しています。現在は、「入門」「中級前期」「中級後期」という3つのコースを開講しており、約80名の一般社会人学習者の方々が、週2回センターに通っています。今後さらに多くの方が日本や日本語に触れることができる場を提供するため、入門から上級までの7つのレベル別コースを順次開講していく予定です。また同時に、日本文化を紹介するイベント等も積極的に行っていきたいと考えています。このJF講座を通して、日本や日本語に興味はあるけれど今までなかなか習う機会がなかったという方や、さらに日本語の能力を伸ばしたいという方の手助けができたらと思っています。

経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業<松島、佐々木、山本>

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EPAレクリエーション体験

 2008年に始まった日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人看護師、介護福祉士候補者の受け入れは今年度で第6回目を迎えました。

第1期~3期(2008~2010年度受入)は、協定で定められた日本語研修(6か月)を受けてから、候補者たちは病院・施設での就労・研修を開始。働きながら、国家試験を目指して勉強していました。協定で定められた日本語研修(6か月)だけでは、就労・研修に際しての日本語力が不足しているという声が受入病院・施設等からあがり、2011年度受入の第4期からは、協定上の日本語研修の前に、ジャカルタでの予備教育が追加されました。予備教育は第4期が3か月、第5期(2012年度受入)以降は6か月となりました。現在は、予備教育と協定上の日本語研修を合わせて合計12か月(当初の2倍)の日本語研修を受けてから、候補者たちは病院・施設での就労を開始しています。

また、今年の国家試験からは試験時間の延長、全ての漢字にルビ振りがあるなどいろいろと改善されてきています。

看護師候補者は在留期間上限の3年いない、介護福祉士候補者はr年以内に国家試験に合格しない場合、帰国しなければいけません。合格のためには、受入病院、施設の支援体制、地域の協力、候補者本人の取り組み方など、様々な要素がバランスよく機能しなければなりません。しかし合格がゴールではありません。訪日前の予備教育、日本における研修、就労しながらの勉強、合格してからの専門性を高める勉強など、日本での生活・就労・研修全体を見すえた上で、スタート地点である訪日前予備教育はどうあるべきか、検討を重ねていかなければならない問題です。また、日本語と、専門の学習とを続けながら、文化の異なる地で就労しながら生きていく候補者を長期的スタンスで見守るシステムが望まれるところです。

国際交流基金では第4期から訪日前予備教育に携わっています。今期は予備教育が始まる前に、候補者とその配属先が決定しました。155名の候補者が、研修所で6か月間の合宿生活を行い、日本語を学びました。(2013年6月下旬に訪日)。 報告者ら上級専門家3名は3名の調整員、日本人講師19名、インドネシア人講師12名、現地スタッフ3名、その他様々な関係機関と協力し合いながら研修を運営してきました。また、フィリピンEPAチーム(国際交流基金はフィリピンにおいても看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業を実施)とも協力し合い、カリキュラムや試験などの作成を行っています。フィリピン、インドネシアのEPA訪日前予備教育を経験している日本語講師も増えてきました。この予備教育に携わる者が次第に経験を積み、お互いによりよい教育ができるように協力し合う体制が確立できればと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地の派遣日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援を行っている。中等教育では、国家教育文化省と協力してカリキュラム・シラバス開発、教材開発、教師研修を行っている。高等教育機関、民間の日本語教育に対しては、セミナー等を実施するほか、コンサルティングなども行っている。一般成人対象にJFスタンダード準拠日本語講座も開設している。2011年3月より、EPAに基づくインドネシア人看護師介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施している。また、ニューズレター『EGAO』(季刊)を発行している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:4名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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