世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)トップダウンの教育改革からボトムアップの教育改革へ

スラバヤ国立大学
松本剛次

昨年度(2013年度)の報告でも書きましたが、現在、インドネシアでは「教育改革」ともいえる教育内容の変革が進行中です。特に中等教育においては、昨年新たなカリキュラムが発表され、そこでは、「日本語」も含むそれぞれの科目は、生徒の「能力(コンピテンシー)」を高めるためのもの、として位置づけられています。簡単に言えば「日本語」の学習は単に日本語を理解し、覚え、それを使えるようになるだけではなく、その「日本語の学習」を通して生徒の「能力」(ここでの「能力」は「生きる力」と言い換えてもいいでしょう)を高めて行こう、という考え方です。

私が赴任しているスラバヤ国立大学はもともと教育大学であり、現在でも教員養成的な性格が強い大学です。大学が行っている教員養成、現職教師研修に加え、近年では現地の高校教師会の要請に答える形で、教師会の勉強会に大学の先生がたが講師として参加したり、現在の考え方に合う教案の書き方について高校の先生たちと大学の先生達が一緒に検討したりする活動も行われています。従来の教師研修は国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(以下、JF)が行っているものも含め、国やJF側の考え方を説明する、紹介するといういわゆる「トップダウン型」のものがほとんどだったのですが、そのような見習うべき「モデル」「型」があって教師、及び学生は単にそれに従う、というのでは今の教育の考え方である「能力」は育ちません。「能力」を育てていく、高めていくためには、自分たちの問題について自分たちで考え、実行し、それを振り返り、修正する、という現場からのボトムアップ的、実践的な活動が必要です。スラバヤ国立大学及び東ジャワ州高校教師会では、そのような活動を行って行くことを心がけています。

このような「ボトムアップ型」の活動の延長として、2013年12月には、スラバヤ国立大学において国際セミナー「東南アジアにおける中等日本語教育と教師養成」が開催されました。教師の成長、教師の「能力」の向上、という点で、「クラスルーム・アクション・リサーチ」や「レッスン・スタディ」といった授業研究、実践研究の類いは、インドネシアにおいても強く推奨されているのですが、その発表の場はまだあまりありません。そこでこのセミナーでは「実践発表」の部を設け、発表を公募しました。その結果、インドネシア全土から39名の発表者が参加し、聴衆も150名を越えるものとなり、「実践研究」の発表としてはインドネシアで行われた過去最大規模のものとなりました。

このセミナーが目指したもう一つのものは東南アジア、オセアニア地域での「連携」です。先に述べたような「「能力」の育成」という教育観は、なにもインドネシアだけに見られるものではありません。初中等教育段階ではむしろ世界的に「主流」の考え方です。セミナーではマレーシア、タイ、フィリピン、オーストラリアからの代表者がそれぞれの国の中等教育事情について発表し、その「目指すところ」、それぞれの国でそれぞれの事情ややり方はあるものの、「目指すところ」としての「日本語の教育を通しての「能力」の向上」という点では同じだということが確認できました。今後はお互いが「連携」していくことで、そのための方法や実践の具体例等について、より深く掘り下げて行くことが出来るでしょう。今回のセミナーはそのための第一歩のものでしたが、今後このような場が増えて行くことで「ボトムアップ」の動きがお互いに連携してさらなる発展へとつながって行くことが期待できます。私自身もその動きの中に今後も参加して行きたいと考えています。

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