世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)広がる日本語を支える、さらに広げる

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター
八田直美・二瓶知子・齊藤智子・相場康子・久野元

ジャカルタ日本文化センター(以下、センター)では、日本語上級専門家4名、日本語専門家3名、そしてインドネシア人講師3名が日本語教育支援を担当しています。私達の業務は、主に日本語教師支援、JF講座、EPA*に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者予備教育事業、日本語パートナーズ**活動支援の4つに分かれています。

*日本とインドネシアの経済連携協定
**国際交流基金アジアセンター事業

教師支援 <八田・二瓶>

高校の新カリキュラム準拠教科書、作ってます

高校教科書試用ワークショップの様子
高校教科書試用ワークショップ

2013年に発表された新国家教育カリキュラムの導入が徐々に始まっています。2014年は、既存の教科書を使って、新カリキュラムの理念を取り入れた授業を考えるワークショップを行いましたが、現場の声に応えて、いよいよ教科書作成プロジェクトが始まりました。

執筆に当たっているのは、各地の高校教師をサポートしている日本語専門家とセンターのインドネシア人講師、主任講師(筆者)の計5名。2015年2月には試用版の一部が完成し、各地の高校教師10名が実際に授業で使ってみています。

私達も、ジャカルタ近郊の4つの高校と西ジャワ州の1つの高校に授業を見に出かけました。写真やイラストのカラーページに見入ったり、お客さんを学校案内するロールプレイやグループで作った「理想の時間割」を楽しそうに発表する生徒たち。パワーポイントや音声ファイルを使う授業に「まだまだ慣れなくて」という先生たちも、生徒の反応がいいのに喜んでくれています。

次の学年の執筆からは、大学や高校の先生たちにも参加してもらう予定です。

大学では、JF日本語教育スタンダードに注目です

2010年にJF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)が発表されてから、様々な機会をとらえて紹介、活用のためのセミナーやワークショップを行ってきました。最近は、JFスタンダード準拠コースブック『まるごと 日本のことばと文化』の出版、Can-doサイトの拡充、そしてロールプレイテストの開発が進み、先生たちの関心も一気に高まっています。2014年から2015年にかけて、Can-doを取り入れた授業設計、文化の発見を促す教え方、達成を測るロールプレイテストなどをテーマにセミナーやワークショップを行って、たくさんの先生たちに参加してもらっています。これには、大学の授業にも到達目標の明確化が求められているという社会的な背景もあります。

今後は大学だけでなく、民間学校や日本語人材を採用する企業でもJFスタンダードを使ってもらえるように、さまざまな現場との協働を進めていきたいと思っています。

JF講座 <二瓶>

2014年はセンター内で行っている日本語講座のほかに、次のような出張講座を行いました。

巨大ショッピングモールで日本語紹介!?

ショッピングモールで日本語紹介の様子
ショッピングモールで日本語紹介

日本関係の団体や企業が、ジャカルタ州政府と協力して毎年行っている「ジャカルタ・ジャパン祭り」。そのプレイベントの一環として、私達もブースを開きました。会場はなんと、ジャカルタ中心部にあるショッピングモール!1日たった2時間の限られた時間でしたが、買い物に来て偶然通りがかった人やチラシを見て足を運んでくれた人など、6日間で約360人もの人が訪れました。日替わりのテーマは「自己紹介」や「買い物」、「日本の遊び」、「日本〇×クイズ」。「自己紹介」では、実際にカタカナで簡単な名刺を作って交換したり、「日本の遊び」では顔のパーツと上下左右のことばを使って「ふくわらい」をしたりしました。小さな子どもからお年寄りまで幅広い層の方々がワイワイ日本語を楽しみました。終了後のインタビューでは、多くの人が「機会があれば日本語を習いたい」、「これからもこういう活動を続けてほしい」と答えてくれました。

中学生も日本に興味津々

高校生の学習者が世界で一番多いインドネシアですが、中学生はどうなのでしょうか。ジャカルタ近郊の中学校に出かけて、まだ日本語に触れたことがない生徒に日本語と日本文化を紹介しました。日本のアニメやマンガ、日本とインドネシアの文化比較を題材にしたクイズ、クイズにまつわる日本語の紹介、アニメ・ソングを歌ったり、簡単な日本語を使ってのコミュニケーションなど、生徒たちにとっては初めてづくしの内容でしたが、皆とても積極的に参加してくれました。講座後のアンケートでは、95%の学生が「これから日本語の勉強がしたい!」と答えていました。

このような活動を通して、インドネシアでの日本熱の高さを再確認するとともに、機会さえあれば日本語学習を始めたいと思っている人が、まだまだたくさんいることがわかりました。今後も引き続き、たくさんの方に日本や日本語を紹介していきたいと思っています。

EPAに基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者に対する日本語予備教育 <齊藤・相場・久野>

期待に胸ふくらませて!

食堂の写真
食堂にて

2014年度(第8期)は例年より候補者が大幅に増え、281名の候補者がジャカルタ郊外にあるインドネシア教育文科省語学教員研修所で2014年11月末から2015年5月末までの6ヶ月間日本語を学びました。家族から長期間離れて過ごすのは今回が初めてという人も多く、最初はホームシックになる人もいましたが、研修も終わり間近になると、日本語にも自信がついてきたのか、日本での生活への期待に胸を膨らませるようになってきました。

研修所での生活は日本語の勉強漬けです。朝8時半から夕方4時半までみっちり日本語を学びます。研修では日本語による基礎的なコミュニケーション力をつける他に、看護や介護の場面で使用する語彙も学習します。これらの語彙は日本人にとっても聞きなれないものが多いのですが、候補者たちの専門分野であるためか覚えるのが大変早いです。この他にも、土曜日は日本事情や日本での看護・介護事情などを学びます。

また、研修の最終段階では調べ学習の発表会を行いました。これは土曜日の日本事情で学んだことから興味を持ったことについて自分たちで調べ、日本語で発表するプロジェクトワークです。このプロジェクトワークでは、候補者たちがその時点で持っている日本語力すべてを使って、発表原稿も発表用のポスターも自分たちだけで作成しなければなりません。講師の手が一切加わっていないため多少の誤りもありましたが、自分たちだけで日本語の発表をやりきった充実感と、開講時と比べて格段に日本語力がついたことを体感でき、日本語でコミュニケーションをする自信につながったようです。

6ヶ月間このような生活をするのは大変なことだったと思いますが、インドネシア人特有の明るさで無事乗り切ることができました。

これから候補者たちは日本でさらに6ヶ月間日本語学習を進め、その後は勤務先の病院や介護施設で働きながら、看護師または介護福祉士の国家試験合格に向けて勉強を続けます。

第7期に同様の研修を受けた候補者からは看護師国家試験に一回で合格した候補者も現れています。第8期修了生からも同じように国家試験に合格する人が現れ、日本で活躍することを期待しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金ジャカルタ日本文化センターは、インドネシア各地の日本語上級専門家・日本語専門家、インドネシアの各機関と連携をとりながら、インドネシアの日本語教育支援を行っている。中等教育では、国家教育文化省と協力してカリキュラム・シラバス開発、教材開発、教師研修を行っている。高等教育機関、民間の日本語教育に対しては、セミナー等を実施するほか、コンサルティングなども行っている。一般成人対象にJFスタンダード準拠日本語講座も開設している。2011年3月より、EPAに基づくインドネシア人看護師介護福祉士候補者日本語予備教育事業も実施している。また、ニューズレター『EGAO』(季刊)を発行している。
所在地 Lantai 2-3, Summitmas I, Jl.Jend.Sudirman Kav. 61-62, Jakarta 12190, Indonesia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:4名、専門家:3名(アジアセンター事業日本語パートナーズ担当上級専門家1名を含む)
国際交流基金からの派遣開始年 1980年
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