世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)地域や高校といっしょに日本語学習を推進しよう

スラバヤ国立大学
髙﨑三千代

1981年、東ジャワ州で初めての日本語教育プログラムが、インドネシアで人口第2位の町にあるスラバヤ国立大学(以下、UNESA(ウネサ))で始まりました。それ以来、UNESAはこの地域の日本語教育に大きく貢献してきたと言えるでしょう。国際交流基金(以下、JF)による日本語専門家(以下、専門家)の派遣も同時期に始まりましたが、その業務は次第に変わってきました。今日は、現在の東ジャワ州の日本語教育の一端と専門家の仕事についてご紹介しましょう。

UNESA(ウネサ)での仕事

創設初期の卒業生は、スラバヤ市内や近隣の大学の日本語教員になりました。彼らは関連分野の修士号、やがて博士号を取得し、東ジャワやインドネシアの日本語教育をリードすることが期待されるまでになりました。しかし、修士課程で教える教師はまだ足りません。専門家は、『授業デザイン』と『授業評価』などの科目をインドネシア人の先生と組んで担当しています。できるだけ日本語教育で新しい潮流となっている概念を紹介することにしています。2014年度の1年生は全員が高校の現役教師だったので、彼らの教師経験を通して具体的に理解できるよう心がけました。やがてはこの科目もインドネシア人の先生だけで教えることでしょう。

学士課程でも授業を担当しています。国によって学生の気質は異なって(もちろん個人差はありますが)、それを肌で感じられる授業はとても楽しいです。「少しぐらい体調が悪くても、授業を終えて職員室に戻ると元気になっている」と言うのは、教員ならみんな覚えがあるでしょう。

UNESAの教え子、教え孫(ウネサのおしえご、おしえまご)

元教え子に挨拶されるUNESA教師の写真
元教え子に挨拶されるUNESA教師

UNESAは創設以来、東ジャワの高校の日本語教師を輩出してきました。1年に1度の『東ジャワ州の高校日本語教師会(以下、MGMP)の合同文化祭』では、あちこちで、教え子(おしえご)(高校教諭)と元教員(UNESA)が再会を喜び合う場面が見られます。何歳になっても師弟関係は師弟関係。その教え孫(おしえまご)(高校生)たちは、スピーチや書道、コスプレ等を競い合います。

中学・高校との連携

高校では国の教育カリキュラムに合わせて授業をすることが求められます。それが改定されれば、高校の先生方は「今までの授業とどう違うのか。何をすればいいのか」を考える必要があります。UNESAの先生方は、不定期に地方の町や市のMGMPに招かれて講義やワークショップを行っています。

専門家はそれに同行する他、単独でMGMPの勉強会に出向くこともあります。高校の先生から緊急に「来年度、日本語科目が開かれないかもしれない。SOS!」とか、「中国語と日本語のどちらかを選択科目にするらしい。現1年生にプロモーションをやってほしい」とお願いがあった時には、JFのバナーとJF紹介ビデオと日本文化のアクティビティを抱えて馳せ参じます。

地域との協力

Rumah Bahasaの学習者たちの写真
Rumah Bahasaの学習者たち

2014年9月に『Rumah Bahasa(ルマー バハサ)(日本語訳:言語の家)』が始まりました。これは市の無料語学講座です。スラバヤ市から総領事館に開講の誘いがあり、賛同した大学・日本語学校の先生方がボランティア(おやつのパンと水がもらえる)で教えています。JFから市に『まるごと 日本のことばと文化』が寄贈された経緯もあって、専門家はシラバス作りと教え方講座を担当しています。UNESAの学生も見学して、ロールプレイ時の相手をしたりしています。

学習者は『まるごと』を教室で見るだけで家に持ち帰ることができませんが、どんどん上手になっています。というのは、これまで独習してきてこの教室で友だちを見つけた人や、日本語学校に行く余裕がなくてここは貴重な機会という人が多いからでしょう。専門家も、ここで元気をもらっています。

これからのこと

高校の日本語学習は国のカリキュラムから影響を受けることは確かでしょう。日本語学習者が右肩上がりで増加する時代は終わったと言えるかもしれません。こんなときは、先手を打って日本・日本語のプロモーションが必要です。幸いなことに東ジャワではUNESAと高校のつながりが強いです。インドネシア日本語教育学会東ジャワ支部は定期的に集まっています。公教育の外に潜在的学習者がたくさんいそうです。

専門家はUNESAに席を置きながら、積極的な活動をする他の学校や先生方にも、アイデアを出したり応援に駆け付けたりします。そしてそれらをつなぎます。大学、高校、成人教育等を有機的につなぐ域内連携に照準を合わせて推進に当たっていきたいと思っています。

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