世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)中部ジャワ「つながりのたね」を置き土産に

インドネシア スマラン国立大学
三宅直子

「スマランに日本語学習者が!?」-いるんです!

スマラン国立大学キャンパスの写真
緑いっぱいのキャンパス。
一人一本植樹するのが卒業の条件とか

インドネシア・ジャワ島の真ん中に位置する中部ジャワ州、その州都スマラン。そこに私の職場であるスマラン国立大学(以下、UNNES)があります。国内に63ある国立大学のうち、今年の志願者数ランキングで全国6位にランクインした、教員養成にかけては中部ジャワ屈指と言える総合大学です。そのUNNESの外国語教育プログラムで高い人気を誇るのが、私の所属する「日本語教育プログラム」です。中等教育の日本語教師を養成することがコースの目的で、中部ジャワ州における日本語教師養成機関として地域の中心的役割を担っています。未来の先生を育てるべく、コースシラバスを整え教員をサポートするのが、ここでの日本語専門家(以下、専門家)の仕事です。専門家は今年限りで居なくなることが決まっているため、常に「その後」のことを考えて仕事をしてきました。その中で、教員や学生が日本語学習のモチベーションを維持する策の一つとして、当地在住の日本人コミュニティーとのつながりをつくる試みを続けています。

「スマランに日本人が!?」-いるんです!!

人口約170万人を擁するスマランには日本人会があり、その会員数は年々増えています。ですが日本人の方々には、当地に大勢の日本語学習者がいるということはあまり知られていませんでした。私が自己紹介の折に仕事の話をすると、「こんな所に日本語を勉強してくれている人たちがいるなら、地域貢献の一環として何かできないか」と声を掛けてくださる企業もありました。一方インドネシア人教員・学生も、まさかスマランに日本人がいるとは知らなかったという人が多数でした。赴任当初、日本語教育プログラムのイベントを在留邦人にも案内しているかどうか尋ねたところ、「スマランに日本人がいますか!?」と驚かれました。日本語教師以外は見たことがない、と言うのです。これはもったいない!というわけで、日本人会にご協力いただき、双方が接点を持てる機会を模索中です。

つながりづくり

日系企業の工場見学の様子
日系企業の工場見学で。
グループごとの見学では積極的に質問

これまで2年連続で実現しているものとして、日系企業の工場見学と、弁論大会中部ジャワ予選での審査員とがあります。前者は、UNNES「ビジネス日本語」科目(4年次後期開講)受講生が対象で、当日の見学だけでなく訪問前の企業研究・訪問後のレポートを含めてシラバスの柱に据えており、学生から好評を得ています。実際に現場へ行く前提で授業を受けるとなると、やはり取り組み方が違うようです。弁論大会などイベントの際には、在留邦人へ事前にメーリングリスト等で観覧案内を、事後には会報の紙面で報告をさせていただいています。それに加えて、今年の会報では学生の作文紹介コーナーも設けてくださっています。これまで作文授業の指導では、読み手を意識して書けるよう「日本人会の会報に投稿するつもりで」や「日本語教育プログラムのブログの記事を書くつもりで」などテーマに合わせて設定を決めていましたが、「つもり」が本当になったのは嬉しいことです。これらの活動を通して接点ができた方から企業内日本語レッスンの相談を受け、『まるごと 日本のことばと文化』を使ったコースシラバスをご提案したこともありました。

いずれも最初は専門家が窓口となり、徐々にUNNES教員を巻き込んで、最終的には担当者として対応してもらうような流れを作っています。シャイなジャワ人気質の同僚たちが臆せず対応できるようどうサポートするか、学習者側が専ら恩恵を受けている現状を在留邦人の側にもメリットがある互恵関係にするにはどうすればよいか、が目下の課題です。

種を蒔くという仕事

インドネシア国内で日本人の姿を見かけることは、もはや珍しくありません。それでも、学習者が実際に日本人と接する機会は限られます。UNNES学生の教育実習先を訪問した際「ナマ日本人だ!」と高校生から写真撮影を頼まれたり、日本語学習を始めたばかりの新入生がわざわざこちらへ方向転換して来て「おはようございます」と恥ずかしそうに挨拶してくれたり。ちょっとしたことですが、日本人である自分の存在がモチベーション維持の一助となっているなら嬉しいです。専門家がいなくなった後も日本を身近に感じられるよう、これまで「つながりのたね」を蒔いてきたつもりですが、その種を同僚たちが育てていってくれることを願いつつ、今の自分にできることを一つ一つ行なっています。

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