世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ジャボデタベックの日本語教育事情
国際交流基金ジャカルタ日本文化センター (中等教育機関担当)
古内綾子
2012年度に国際交流基金(以下、基金)が行った調査では、インドネシアの日本語学習者数は872,411人で世界第2位になりました。このうち、約95.8%が高校で日本語を学んでいる学生です。現在、インドネシアには高校での日本語教育を支援するために、3名の日本語専門家(以下、専門家)が派遣されています。ここでは、私がサポートしているジャボデタベック(ジャカルタ首都圏)の高校について、現在の状況とどのようなサポートをしているかをご紹介します。
地域のリーダー育成
見学した授業の様子
ジャボデタベックで日本語を勉強している高校は459校あります(基金ジャカルタ日本文化センター調べ 2015年現在)。これら全ての学校とそこで働く教員への支援を専門家一人が行うことは難しいため、毎年1名~2名を選び、地域のリーダーとして一緒に日本語教育を盛り立ててくれる教員の育成を行っています。具体的には、ほぼマンツーマンで、1年間、授業見学や授業準備を通して専門家から日本語や教授法の指導を受けるというものです。これまで27名の教員がリーダーとして育成され、現在、地域の教師会の会長や中心人物として活躍しています。週1回、約1年間継続して行われる専門家との勉強は、日々の業務に忙しい教員にとっては大変なことですが、「授業を良くしたい」「わかりやすく教えたい」という熱意をもって努力しています。私にとっても教育現場を知ることができる貴重な機会で、ここでの経験が他の学校への支援へと活かされています。
日本語を使って、自分のことを話そう。~新しい教科書の作成と試用~
ある日本語の授業です。今日のテーマは昼ご飯。グループに分かれた生徒が日本語でインタビューをしています。「Aさん、どこで食べますか。」「私はカンティン(食堂の意味)で食べます。」「私は教室で食べます。」「私は教室で食べます。」このグループの結果は、カンティンが一人と教室が二人。グループの中で話した後、その結果をクラス全体で共有し、どこで昼ご飯を食べる人が多いのかクラスの傾向を調べます。
これは、作成中の新しい日本語の教科書に含まれている活動です。「どこで~ますか」「(場所)で~ます」の文型を練習するだけではなく、いつも意識していない自分達の学校での食生活を調べて考えてみようということが目的の活動です。
2013年に新しいカリキュラムが施行され、これまで専門家はそれにもとづく授業の実践に対して支援してきました(詳しくは『2014年度世界の日本語教育の現場から』を参照してください)が、今年度から、新しいカリキュラムにそった教科書の作成と試用を始めています。この教科書には、勉強した日本語を使って、夢や趣味、家族など自分のことについて話したり聞いたりする活動がたくさん盛り込まれています。今は限られた学校でのみの試用ですが、そこで見られる楽しそうな学生の顔!そのような生き生きとした授業がインドネシア全土に広まることを願って!教科書作成はこれからも続きます。
高校の教室に本物の日本人が来た!!
そして、今、ジャボデタベックの高校に大きい影響を与えているのは、日本語パートナーズ(以下、パートナーズ)が来たことです。日本語パートナーズ事業は、日本文化の紹介と相互交流、中等教育段階での日本語教育支援を目的に始まった基金の新しい取り組みです(詳しくは「国際交流基金アジアセンター“日本語パートナーズ”派遣事業」をご参照ください)。この事業のもと、2014年9月以降、第1期、第2期合わせて合計48名の方がパートナーズとして高校に派遣されました。インドネシアの日本語教育現場には、アジアの他の地域に比べ日本人ネイティブ教員が少ないので、パートナーズが高校の授業に入ることは画期的なことです。
パートナーズが派遣されたことで、おりがみ、習字、お弁当作り、浴衣の着付けなど日本文化が授業で教えられ、学生のクラブ活動としてよさこいソーラン節も教えられました。もちろん、学生が日本人ネイティブと話す機会も増えています。
日本文化と教え方の講座の様子 七夕飾り作成中
学生への影響が大きいのはもちろんですが、教員にもその影響は見られ、日本文化を学び直し、かつその教え方も学びたいという教員が増えています。新しく開講した「日本文化と文化の教え方の講座」では、おりがみや茶道などの伝統文化の他、日本の年中行事、高校生活などの日常を学びます。インドネシアの教員の中には訪日経験がない人も多く、知識としては知っていても経験がないという人もいますが、学生に自信をもって教えられるように、教員の勉強も始まっています。
新しいことづくしのインドネシアの日本語教育。これからどのような変化が起きていくのか、目が離せません。
派遣先機関名称 | 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(中等教育機関担当) |
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The Japan Foundation, Jakarta | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
ジャカルタ日本文化センターには2名の中等教育機関担当の日本語専門家を配置しており、それぞれジャカルタ首都圏地区、西スマトラ州(およびその周辺地域)を担当し、主として以下の業務を行っている。
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所在地 | Summitmas Ⅰ, Lantai 2-3, Jl. Jend Sudirman Kav. 61-62, Jakarta |
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:2名 |
国際交流基金からの派遣開始年 | 1995年 |